授業実践記録
0の不思議
−0乗について考える−
(東京)國學院高等学校
谷崎美穂
 
1. はじめに

 数学において,0と1は体系として定義すると都合が良い。しかし,それはしばしば生徒にとって認識に障害を持ちやすいものでもある。したがって,0と1に関する定義などを,生徒の学習段階に応じてわかりやすく解き明かしていくことが必要だろう。
 そこで,今回,指数関数の学習で取り扱われる「a0=1」について,以下のような授業を考えた。生徒一人ひとりが実感を持って理解できるように,グラフ電卓を一人一台用意し,各々が実験できる環境を作った。そして,教師が一方的に教えるのではなくディスカッションにより他者の意見を検証しながら自分の意見を確立することや,プロジェクターを利用してグラフを表示することによる視覚的理解に重点を置いた。予想を立て,実際に電卓を用いて実験することで数学的活動の楽しさを体感すること,その結果,生徒が関心を持って自ら進んで性質等を発見できるようにする(関心・意欲・態度)ことをポイントとし,ルールとして定められた概念から抜け出し理解することを目的とする。
 
2. 授業内容

(1)導入
 「a0=1」であること,この a には a ≠0 という条件がついていることを確認する。
また,指数法則(a ≠0,b ≠0のとき,aman=am+n,(am)n=amn,(ab)m=ambm)について復習する。

(2)展開
 a (>0) に √ をとり続けると,
となる。
と指数法則から
つまり,
と表せる。
 a に √ を5回とると aa に √ を10回とると a ,………, a に √ を100回とると a,これを繰り返していくと, a0 に近づくことがわかる。
 この考え方を用いて,本当に a >0 のとき a はどのような値でも a0 =1 となるのか電卓を用いて実験を行う。例えば,a の大きい数の代表として 999999999,小さい数の代表として 0.00000001 を電卓に打ち込み, √ キーをたたき続けてみる。すると,電卓には 1 と表示される。よって,a >0 のとき a はどのような値でも a0 =1 となることが確認できる。
 では,a =0 だったらどうなるか。つまり,00 はいくつになるのか。生徒に予想を立てさせる。その予想結果でグループ分けを行い,各グループで答えの根拠を考え発表させる。

(3)まとめ
  y =xx のグラフをプロジェクターで映し出す。

 グラフからは x が 0 に近いとき x x の値は 0 か 1 に近づくようだ。
 どの意見にも間違いが見つからないので, 00 はいくつになるのか定まらない。よって,定義できないため「a0 =1」であるが, a には a ≠0 という条件がついているのである。

 
3. アンケート結果

 授業終了後にアンケートを実施した。以下は結果の抜粋である。

<質問1> 今日の授業について面白かったことは?
普段軽く受け流していること(a0 =1(a ≠0)など)をじっくり考えてみて,数学の奥深さに触れたこと。
電卓を使って a0 =0(a≠0) が確かめられたこと。感覚的にもとらえられたこと。
a ≠0 と決まっていても何も考えずに不思議に思わないで使っていたことについて,考えたこと。
電卓などの何か道具を使うのは楽しい。
<質問2> 今日の授業について難しかったことは?
自分の出した答え( 00 がいくつかということ)を確証付けるために,理由をつけること。
どれも考えられるような気がして,自分の意見を一つにまとめきれなかった。
00 は,電卓でもできない計算なのに,式で表せること。
<質問3> 今日の授業でわかったことは?
00 は 0 でも 1 でも“なし”でも矛盾しないということ。
今まで 00 の存在なんて考えたことがなかったけれど,結局値が定まらないことが証明されてすっきりした。
a0 =1 を使うときは,a ≠0 の条件を忘れてはいけないということ。
0 という数字も人間が考えたものだし,ややこしい部分を全部引き受けているみたいに思えた。
0 という数字が他の数字に比べて,例外的な性質を多く持っているということ。
数学にも答えの出ないことがあること。
定義の条件はただ無駄にあるのではないということ。また,なぜその条件がついているのかを探ることは楽しいということ。
 
4. 考察

 生徒は,「a ≠0 のとき,a0 =1」であることを,電卓で検証するときは興味を持ち,数学的活動の楽しさを体感していたようである。ディスカッションでは,意見を積極的に発言し,他者の意見に耳を傾け,活発な議論が行われていた。生徒の発想の豊かさに驚くと共に,ディスカッションの価値を改めて認識した。
 しかし,このテーマを完結させるのに 50分という1時間の授業では時間が足りない。他者の意見の検証を行う際には,生徒の意見のみで進めていく時間がなく教員側の方向付けが大きくなってしまった。
 
5. まとめ

 a0 =1 は,a ≠0 という条件を伴ってのみ効力を発揮する。しかし,導入部分での確認で、生徒の定着度は低かった。今回は,「電卓を用い,数学的活動の楽しさを味わいながら視覚的理解を行い,それをもとに考えていく」ということを主にした授業を展開したため,この授業は生徒に強い印象を与えたようである。以上の点から,数学的事項を単にルールとして教え問題を解かせるのではなく,視覚的理解を助長することや,ディスカッション等に各々が積極的に参加するように指導することが,生徒の理解を深め,興味・関心を強く持つことに繋がる。
 生徒が自ら進んで考えていた姿勢は素晴らしかった。今後も改善を重ね,実施していきたいと思う。

 この授業は,お茶の水女子大学附属高等学校の室岡和彦先生のご協力を得て,実施しました。実践の場を与えていただき感謝いたしております。