授業実践記録
確率を用いて円周率を求めてみよう
京都府立久御山高等学校
野村 敏
 
1.はじめに

 雑誌 Newton(ニュートンプレス)の別冊「数学でわかる宇宙と自然の不思議」のなかに「乱数表を用いる一風かわった円周率の計算方法」が紹介されていた。工夫次第では、高校2年生に1時間分の投げ込み教材として利用できるのではないだろうか。
 私は、コンピュータに精通している訳ではないので、表計算ソフトの関数をうまく利用できるかどうか、最後まで不安が残った。実験段階では、π=3.14 の予想値を の位で下回ることが多かったので補正を加えることにしたが、ほとんど力ずくの方法で計算した。結果的には、高校生にも十分理解できる考え方・数式を用いて円周率の近似値を求めることができたと思う。
 このレポートには、まだまだ改良しなければならないところがあるだろう。ご意見等をいただければ幸いである。
 
2.概要

1) 表計算ソフト Excel を用いて乱数を発生させ、(x 座標,y 座標)のペアを10000点作成する。ただし、それぞれの範囲は −100≦ x ≦100, −100≦ y ≦100 とした。
2) 1)で作成した10000点を右の座標平面の中にすべてプロットする。
3) 10000個の点は無作為に選ばれたものであるから、正方形の座標の中に一様に分布していると考えることができる。
 一様に分布しているのなら
「10000の点と円内にある点の数の比」は「正方形の面積と円の面積比」
に近い数値となるはずである。
    よって、

    正方形内の点の数(=10000):円内の点の数
   =正方形の面積:円の面積
   

という関係を導き出すことができる。
 ただし、π の定義と円の面積を求める公式 S=πr2 の関係については、3.準備のところで説明する。

 
3.準備

《円周率 π の定義と円の面積》

 「トイレットペーパーの長さを求める問題」として、かなり有名になった方法がある。この方法の原点は、近代初期の数学者カヴァリエが考え出したということだ。
 紐をぐるぐるに巻いて円を作り、真上から中心に向かってナイフを入れる。あらかじめ、底辺のところに棒を一本セットしておくと、紐を一本一本開いたときに、下図のような二等辺三角形ができることがわかる。

 r を半径、l を円周とする。
 まず、円周率 π を“直径に対する円周の比”
   
と定義する。
 円と等積の二等辺三角形の底辺は円周 l 、つまり2πr であり、高さは r だから、円の面積 S は、

    

と、求めることができる。
 高校3年生ぐらいになると、極限の話とか、弧度法を使った扇形の面積が で求められることとも関連づけることができる。

《乱数の発生》

 Excel の関数は RANDBETWEEN(最小値,最大値)を用いた。No.1からNo.10000までの( x 座標,y 座標)には −100≦ x ≦100, −100≦ y ≦100 の範囲で乱数を発生させたかったので、どのセルにも RANDBETWEEN(−100,100)と書き込んである。

《点のプロット》

 発生させた乱数で作成した10000点の座標は、実際にはプロットせず、Excel の関数を用いて数え上げた。

《Excelを用いての表計算》

 Excel「円周率の計算」はこちらから。
※1.6MBありますのでインターネット接続環境(ダウンロード速度)をご確認の上、ダウンロードして下さい。

1) 距離の欄には(x 座標)2+( y 座標)2 =(距離)2
が計算され、記入されている。
2) 「10000未満」の欄は「円内の点の個数」
COUNTIF(D2:D10001,<10000) で10000点のうち、中心からの距離が100以下の点の個数を調べている。
3) 「10000ちょうど」の欄は「円周上の点の個数」
COUNTIF(D2:D10001,=10000) で10000点のうち、中心からの距離が100ちょうどの点の個数を調べている。
後で円周上の点は 0.5個 として補正するために使う。
4) x 座標100」「 x 座標−100」「 y 座標100」「 y 座標−100」「20000ちょうど(正方形の四隅)」「正方形周上」の欄は正方形の周上の点を 0.5個 と補正するために使う。
n(正方形周上)=nx 座標100)+nx 座標−100)
ny 座標100)+ny 座標−100)−n(20000ちょうど)
5) 正方形内の点の数:円内の点の数=4:π より
4×円内の点の数=π×正方形内の点の数
よって
6) これらのことにより、円周率を、
  
の計算式で求めることができる。
7) F9 を押すと別の乱数を発生させることができ、新たに「円周率」を求めることができる。