授業実践記録
数学の学力定着を目指して
京都女子高等学校
平田義隆
 
1.はじめに

 新学習指導要領が施行されて2年、全国的に学力の低下が問題となっています。本校においても、それを現場で実感しているところです。しかし、教員としては、お預かりした生徒を卒業させるまでに、確かな学力をつけなければなりません。そのために行っている授業の取り組みを紹介したいと思います。
 
2. 先取り学習の取り組み

 本校は、生徒のほぼ全員が大学への進学を希望する進学校です。また、中学校も併設しており、6カ年中高一貫教育を実施しています。その中で、数学については先取り学習を取り入れ、中学3年1学期までに中学校の内容を終了し、残り2学期間で数学Tの二次関数までと、数学Aの平面図形のほとんどを終了します。最終的には、理系の数学Vおよび数学Cを、高校3年1学期までに終了するスケジュールを組んで授業を行っています。それは、教科書終了後、大学受験までの間に演習時間を確保するためです。しかし、全体の授業時間が少ない中、このペースで授業を進めていくのがなかなか難しくて・・・。
 
3. 学力をつけるために必要なこと

 私は、授業時間の少ない中で、どうすれば学力の定着が図れるかを考えました。その結論は、「講義的な授業以外にできる限り時間を確保して、生徒に問題演習させること」でした。生徒は、先生の授業を真剣に聞いていても、ただ聞いているだけではなかなか理解ができず、まして「自分で解ける」といった感覚は全く持てないようです。そこで問題となるのは、「どれだけ問題演習の時間が確保できるか?」ということになりますが、これが頭を悩ませるのです。
 
4. 私の授業の流れ

 問題演習の時間がとても大事なことは、ここまで述べてきた通りです。では、その時間をできるだけ多く確保するには、どのように授業を組み立てていけばよいのか。私が行っている授業方法を紹介したいと思います。

○大きな授業の流れ

 基本的にはこの図式にしたがって進めていきます。しかし、できるだけ、生徒に考えさせる時間をつくるため、工夫をします。
 まず、「@扱う章の基本事項の整理および確認」ですが、ここは、教科書をそのままなぞっていては、とても時間が足りません。そのために、本当に覚えてほしいことを事前にわかりやすくまとめておきます。
 「A例題を私が黒板で解く」は、教科書に載っている例題について、数字を変えて私が解きます。なぜなら、教科書の例題を黒板で解くと、黒板の解答と教科書の解答が同じになり(当然ですが)、生徒は黒板の解答を理解しようという意識が薄くなる傾向があるからです。生徒の頭の中では、「教科書に載っているものはノートに写さなくてもいいだろう」という考えが働いているようです。したがって、「いま、自分が学習しようとしていることは何か」、「どのようにすれば解けるのか」を自分で考えさせるためにもこの方法は効果的だと思います。生徒に聞くと、「授業前に教科書を見てもよくわからないけれど、授業後に教科書を見ると理解できることが多いです。」と言います。生徒は、復習の際によく教科書を見るようです。そのときにもう一度考えさせられるのも、いいことではないかと思っています。
「B問を生徒に解かせる」は、私の解いた例題を、さらに数字や問題の条件を変えて、その場で解かせます。机間巡視をしながら各生徒の理解度をチェックします。よくわかっていない生徒が多い場合には、この問を使ってさらに説明を加えます。例題と数字を変えただけで、同じ方法で解けるので、多くの生徒が正解し、ここで「自分で解けた」ということを実感します。私はその感覚が大切だと思っています。
 しかし、それで本当にできるようになったかと言えば、そうではありません。多くの生徒は、家で宿題をするときには結構忘れてしまっているのです。毎日6〜7時間の授業を受けて家に帰れば、ある程度、頭の中から抜けていても当然だと思います。そこで、「C宿題を出す」わけです。これは、教科書に載っている問や練習問題をそのまま家でさせます。学校ではできていても、家ではなかなかできないようです。その日学習した内容をもう一度確認しながら問題を解くことで、真の定着をはかります。ここまでで、同様の問題を三回解いていることになります。
 基本的には、この例題から宿題までの流れを何度も繰り返します。生徒には問題集も持たせていますが、これを授業中に取り扱う時間がほとんどないので、教科書で扱われていない部分だけ授業で解説することにして、あとは自分でさせています(D)。定期考査ごとに提出させて、きちんとできているか点検しています。

 
5. 授業の流れの中で大切にしていること

 私は、この授業の中で大切にしていることがあります。それは、常にいろいろなことを考えさせることです。最近は、問題の解法をパターン化して覚えている生徒が多いように見受けられます。中学校ぐらいまではそれで対応できても、高校数学では、パターンは無限にあると言ってもいいと思います。また、受験数学では、教科書に問われているまま出題されることはほとんどありません。教科書のまま覚えてしまうと、同じことをすればよい問題でも、アプローチが変わった途端に解けなくなる生徒が多いのです。本当の数学の学力というのは、その問題を解くことではなくて、その問題を通して、何をしようとしているのかを考えることなのだと思います。
 
6. おわりに

 この方法を実践して早10年ほど経ちます。毎年生徒に感想を聞いていますが、問題を繰り返し解くことで数学がわかるようになった生徒は多いようです。私の個人的な意見ですが、教科書は、それそのものを教えるのではなく、それを使って授業をし、その授業を通して、ものの考え方を教えるものだと思っています。つまり、私の授業にとって、教科書は「ツール」なのです。しかし、自分の授業を振り返ってみて、ツールとして使いこなせている部分とそうではない部分が、まだ混在しているので、もう少し教材研究が必要だと感じています。特に、中学校までの学習課程が変化してきているので、そのあたりを考慮に入れながら、もう少し作りかえていきたいと思います。
 この実践ですが、毎年受け持つ生徒は変わっていくので、授業ノートをずっと作りかえています。それが最も大変なことです。本当に毎年、教材研究には相当の時間がかかっています(教師としては当然だと思いますが・・・)。

Eメール:hiratay@kyoto-wu.ac.jp