授業実践記録
「数学基礎」風の授業をしてみました
(北海道)札幌静修高等学校
杉本幸司
 
1.はじめに

 新教育課程になって「数学基礎」という科目が登場しました。数学基礎は今までの数学とは違い、より社会生活に密着し、興味・関心を高めることができる内容を多く扱っています。「まさに数学の楽しさを認識でき、理系離れをくい止めるための救世主ともいうべき科目」と絶賛している数学教育の専門家も少なくありません。
 確かに数学基礎の内容は身近なものなので全員が積極的に学習でき、討議などを経て最終的に正解にたどり着ける、問題解決型学習を取り入れやすい科目だと思います。しかし著者は「小学校の算数程度の計算力があるのが前提で本校生徒にはなじまない」とかなり批判的でした。ただ、「本校こそ導入すべき」という声もあがっており、著者は実験的に平成15年度3年生の選択数学(例年は就職問題集の演習をしている)で数学基礎風の授業をしてみました。
 
2.授業の内容

 まず、先にあげた前提をみたす工夫をしました。本校生徒においては筆算や分数の計算が苦手なのはもちろん、かけ算九九が未だにいえない生徒もいます。この授業は2時間続きなので、毎回1時間は計算練習の時間にしました。内容や問題のレベルは、およそ「サンダイヤル 数学のプリペア」(啓林館)に収録されている2〜3桁の加減から分数の加減乗除あたりまでの程度です。
 数学基礎の内容としては実生活との関連を考慮し、「考えてみたい」と思えるような問題を教材として選定しました。資料「考査問題」の、特に右側の問題を見ていただけばその一部が想像できると思います。

「考査問題」

 実際の授業ではグループで考えさせました。それでもわからない場合は、教師も一緒に入るようにしていますが、教師はアドバイスはするが答えは言わず、とにかく生徒たちで考えさせます。しかし、じっと待っていると、意外に正解を導き出す生徒もいて、歓声があがることもありました。

 
3.授業の成果

 計算練習については問題のレベルが小学生の算数程度であり、生徒にはプライドを傷つけられた面もあったようです。しかし、計算力が向上すると集中力も養われ、学習能力が高まっていきました。計算問題はよく取り組み、「サンダイヤル 数学のプリペア」(啓林館)27ページにあるような『小町算』や『4つの4』は授業が終わっても生徒は「悔しいからまだ考える」と粘って考えていました。
 数学基礎の内容でよく取り組んでくれた問題もたくさんあります。例えば『中国地方5県を5色で塗り分ける』問題や『100円玉を小銭(50円玉、10円玉、5円玉、1円玉)に両替する方法』つまり50円玉2枚から始まって1円玉100枚まで全部列挙する問題は正解が出るまで丸1時間はかかったにもかかわらず結構盛りあがりました。
 逆に、『虫食い算』やウソの発言をしている人物を探すいわゆる『ウソつき問題』のように論理的思考が必要な問題ははじめから考える気が起きず、途中で投げ出して解けた生徒の答案をうつすだけで終える生徒もいました。特にオープンな問題についてはその傾向が多く見られました。定型的な、答えが一つしかない問題について、その解法を暗記してその場をしのいできたことによる弊害でしょうか。
 
4.今後の課題と展望

 数学基礎風の授業をして感じたことは、特に「教材選定・授業プラン・評価」の3点が難しいということです。この授業は生徒がすぐ脱線してしまいます。その際、教師は上手に軌道修正をしなければなりません。適度な脱線ならばそれを生かして議論を充実させることも可能ですが、本題から外れた脱線を軌道修正するにはかなりの力量が必要だと思います。
 しかしそれがクリアーできれば「数学を通して考えることの楽しさを知る」ような雰囲気ができて非常に面白く、楽しく授業ができると思います。実際に最後の授業時に生徒に書いてもらった感想文によると、『全く新しいことをやってためになりました』『結構楽しんでやっていました』などという意見もいくつか見られました。
 
5.おわりに

 数学的な見方・考え方の良さを認識してもらおうと思って実施した数学基礎風の授業でしたが、著者の今のようなやり方では数学という科目独自の系統性がかなり犠牲になっています。数学を道具として軽視しており、著者の今の力量では問題になっている学力低下を本校生徒に加速させてしまうかもしれません。数学基礎の授業を実施するにあたってはさらなる研究が必要です。

【参考文献】
[1] 岡部恒治 考える力をつける数学の本 日本経済新聞社 2001
[2] 高校数学研究会/啓林館編集部 サンダイヤル 数学のプリペア
  新興出版社啓林館 2003
[3] 杉本幸司 数学の基礎学力低下についての一考察
  〜本校「数学T演習」の授業を通じて〜
  札幌静修高等学校研究紀要 第36号 2004
[4] 文部省 高等学校学習指導要領解説 数学編・理数編 実教出版 1999