授業実践記録
正四面体の切断面の考察
−空間のベクトルの利用−
広島大学附属福山高等学校
釜木一行
 
1.はじめに

 空間図形についての問題を考えることを,平面図形についての問題を考えることよりも苦手とする生徒は多い。それは,空間図形の問題を考える時には,まず,平面上に立体的な参考図をかいて,その図をもとにして頭の中で,設定にあうように図形を動かしたり,いろいろな方向からながめてみたりする必要があるからだと考えられる。が,このような思考は,他の教科の学習や日常生活での創造的活動においても有効であるので,大切にしたい考え方である。
 ところで,そういう思考をするためには,幼児期の様々な遊びや小学校での具体的な模型等をとおしての操作活動を土台としたうえで,中学校で少しずつ比重を増してくる抽象的思考を交えた操作活動が大切になる。そうして,高校においてさらに抽象的思考に重点を置いたものになっていくと考えられる。そういう意味では,現在の高校の教育課程において,空間図形に関する教材としての空間のベクトルの単元のもつ役割は大きい。一方,この単元のねらいの中に,空間図形の考察に活用できるようにさせるということがある。そこで,今回,空間図形の考察の一つである切断について考えていく中で,空間のベクトルを活用する場面をつくり,その学習の有用性に気づかせたいと考えた。
 
2.実践内容

 まず,小学校以来なじみのある立方体について,その切断の仕方によって様々な形があらわれることを,コンピュータを利用して,ディスプレイ上で見せることで,立体の切断についてのイメージをつくらせる。(なお,立体の切断については,中学校で扱わなくなるため,生徒にとってはなじみのない教材になっていく。)
 次に,対象とする空間図形を正四面体にし,正四面体においてその切断面の図形の形としてどのような図形があらわれるか考えさせる。そのために,教卓の上には正四面体の模型を置き参考にさせる。一方,生徒たちの手元には,三角形・二等辺三角形・正三角形・直角三角形・直角二等辺三角形・四角形・台形・たこ形・平行四辺形・ひし形・長方形・正方形という名前とそれぞれの名前の下に正四面体の図をかいたプリントを用いて,考察をさせる。
 いくらか時間をとった後,あらわれる形について確信がもてる図形について,意見を集約する。その結果,わりと多くの生徒が直角三角形はできないだろうと判断するので,直角三角形についての検討に入る。
 まず,直角三角形ができると判断している生徒に,その図を黒板の正四面体の図にかかせる。そして,その三角形が直角三角形になっているかどうかを全員で検討してみる。
 検討する方法として,生徒が板書した三角形の図にもとづいて2点の位置を決める。3点目の位置は,媒介変数を用いて該当する辺の分点としておく。今回の場合は,参考図のように,決めておく2点の位置を,1つは頂点Aの位置にし,もう1つは辺OBを1:2に内分する点Dとする。そして,3点目は辺OCをt:(1−t)に内分する点Eとする。

参考図

この設定の中で,角ADEが直角になるような点Eが存在することを,内積を利用して確認させる。

 
3.授業構成の意図について

 正四面体の切断面の形についての考察を題材に選んだ理由が三つある。一つ目は,設定は単純で取り組みやすいが,切断面の形として直角三角形があらわれるということについてはけっこう気がつきにくいので,生徒が興味をもちやすいと考えたこと。二つ目は,たとえ直角三角形の存在に気づいたとしても,それを証明するのはそんなに簡単ではないということ。三つ目は,その一見簡単そうではない証明が,ベクトルを利用することで容易にできるということから,ベクトルの良さを感じさせることができると考えたからである。
 次に,こういう空間図形についての授業をする時は,生徒たちが手元で考えることができるような模型等があるのが望ましいのだが,今回はあえてそれをせずに,正四面体の図をかいたプリントのみを利用させた。それは,いくらか頭の中で立体をイメージしながら考えてほしかったからである。
 
4.反省と課題

 切断面に直角三角形があらわれるかどうかの考察をさせるにあたっては,やはり生徒たちに,正四面体の模型をもたせて,いろいろな方向からもっと見させながら考えさせたほうが良かったようである。今回,直角三角形の存在に気づいた生徒が少なかったために,その存在の証明に入っていく時,教師側の一方的な授業になってしまった。もし,模型を使わせることで,生徒たちの中で,直角三角形の存在について意見が分かれて,そのことで,生徒たちどうしで議論を始めてくれれば,生徒の中から,証明する方法は出てきたかもしれない。
 また,今回の授業においては,すべての切断面の考察をしたわけではないが,もう一つの議論になる,長方形や正方形でない平行四辺形と,たこ形についての考察についても,正四面体の切断面の四角形の対辺が平行になるときの条件の考察にもなるので大切な内容である。
 まだまだ,授業構成において課題が多く残っているが,正四面体の切断面の形についての考察については,生徒たちは意欲的に取り組んでくれたことから,題材の設定については,いくらか手応えを感じることができたので,今後も改善していきたい。