授業実践記録
三色ボールペンで学ぶ新しい数学 I +A
北海道北広島高等学校
菅原和良
 
1 はじめに

 いよいよといった感じで新学習指導要領による教育課程が高等学校でも始まった。授業時数の削減や中学校数学からの移行事項など、高等学校数学も大きな変化が求められている。
 そんな状況の中で、今春入学してきた明るく、元気で、ちょっと小生意気な生徒たちとともに工夫し、改善してきた授業実践について論述してみたい。
 
2 演習時間が足りないッ!

 完全学校週5日制の実施により授業時数が減少したわけだが、そのことによって従前とは演習量が明らかに減っている。
 そのため、はじめは生徒の意欲を喚起し、自らのやる気を引き出すことで不足する演習量をカバーしようとした。しかし、当然のごとく授業を理解した生徒はそのことですっかり安心してしまい、さらに定着させ理解を深めるために休みの土・日を数学に使うことはしなかった。わーいとばかりに週末ウキウキ Boys and Girls になって
「数学のことなんてこれっぽっちも考えないわ。2次関数って、何?」
となっちゃうから現実は甘くない。
「あらら、弱っちゃったねどうも」
と頭を悩ませ、演習量も授業の中で確保しなければならない―それが平成15年度の自分の研修テーマとなった。
 
3 やってみよう試してみよう―三色ボールペン

 折しも学力低下論争が国民レベルで展開され、確かな学力の保障が声高に叫ばれている。このような時代には具体的な手段をもつ論が説得力を持って評価されるが、その代表例が『声に出して読みたい日本語』の齋藤孝氏と百ます計算の 山英男氏だろう。どちらも具体的な実践を通し輝かしい成果を上げておられる。これを高校数学においても活用できないかと愚かにも北の数学教師は考えた。
 そこで本年度から以下のような取組みを始めてみた。
(1) 学習単元を細分化し、その項目毎に2〜5分程度の演習プリントを生徒に行わせる。
(2) その後、赤青緑の三色ボールペンを使い、
 赤は最重要で試験前にこれだけは見直しておきたい問題
 青はまあまあ重要で試験前にはひと通り見直しておきたい問題
 緑は技巧的で、半分以上の人が解けないだろうと思われる問題
をマークさせ、周りの席の者と意見交換させる。
(3) 場合によっては「その学習単元の要点を一言で表すキーワードは何か?」と聞いたり、「問題を創作せよ」といった作問を生徒にさせる。
 短時間ではあるが演習プリントを行うことで、演習時間を授業の中で確保する必要があり、そのためには内容をシフト化しなければならない。
 このことで生徒は学習内容を段階的にクリアし、いつの間にか目標とする学習内容を修得していくことができる。自動車学校で行われているシェーピングという指導方法と同じである。
 縦列駐車なら縦列駐車だけを練習し、クリアしたならその段階を終了。
 坂道発進なら坂道発進ばかりを練習する。そうして最終的には車の運転ができるようになるというカリキュラム方法をイメージしてもらえばよい。
 さらに、三色ボールペンで色分けし、級友達と意見交換することで互いに触発され学習内容をシェアリングすることができる。ちなみに演習プリントの作成に当たっては、啓林館の学習参考書『フォーカスアップ』を参考に単元を細分化している。これは項目が一頁ごとにすっきりと収められており、使い勝手が滅法良い。
 このような授業を実践しての教育効果には以下のものがある。
(1) シェーピングにより最終的には生徒一人では到達できない高さに持って行ける。
(2) 三色ボールペンを使った色分けにより、生徒が自分で復習する際の目安となる。
(3) 短時間でのプリント演習は、生徒の集中力を飛躍的に高める。
(4) キーワードを使いその内容を表現することで、単元全体を大きく俯瞰的にとらえることができる。
(5) 作問により学習内容が深化されるとともに、他者の創作から新しい発想や感覚にふれることができる。
 また、授業を行う際に注意していることは以下のとおりである。
(1) 授業のねらいや結論をその授業の始めに述べ生徒の学習に対する見通しをよくする。
(2) 演習プリントは細分化したひとつの学習単元に限定する。
(3) 理解が不十分なようであればすぐにフィードバックをする。
 さらに、生徒の思考力を引き出すような発問も工夫している。
 タイムリーで本質を突く発問ができたとき、教室は「あ〜!わかった」とか「えー、どうしてどうして!」といった声がわき上がり、たちまち騒然となり活力が出てくる。
 この「ああ、そうか」という瞬間の気持ちが重要である。生徒はこの瞬間変化する自分を自覚し、質的に飛躍する瞬間の自分を知ることになるからである。授業においてはこういった節目節目をスモールステップに分割し、階段を上るときに「ああ、そうか」と胸を打つ一言が出るような発問を心がけている。
 
4 評価と今後の展望

 さて、このような授業を実践してみて、新たな課題や反省点も見えてきた。
(1) 解法をルーチン化し単なる計算力の技巧化に陥る危険性があり、論理的な思考力の育成に課題が残る。
(2) 発展的な内容、系統的なつながりへの広がりが乏しい。
(3) 進度とペースが手探り状態のため三色ボールペンの活用が不規則となる。
(4) 三色ボールペンでどこに赤をつけるかを全員で確認しておかないと、生徒は瑣末でもわからなかったところ、難しくてできなかったところに赤印を付けたがる傾向がある。
(5) 45分授業や65分授業といったモジュラースケジュールの対応が難しい。

 現在進行形の教育改革の中に身を置く者として、大学入試に必要だからと一片の知識を注入しすぎるのではなく、教材精選に努め、ゆとりを持って基礎基本を徹底し、学ぶ意欲を育てたいとささやかながら工夫し取り組んできた。このような実践で生徒がどのくらいやる気を起こしてくれるのかは、まだ判断できる状況には至っていない。しかし、やる気を起こした生徒の発揮する力には計り知れないものがあり、それを引き出すのが務めと思い、何年経ってもなお私の授業模索は続いている。