授業実践記録
Web上のコンテンツとフリーソフトを利用した授業例
−生徒が意欲的に取り組む授業を目指して−
福岡県立香住丘高等学校
土崎速美
 
1 研究の目的

 Web上には多くの数学の教材があって、その中には驚くほど素晴らしいものがあり、以前の高価なソフトに匹敵する機能をもつフリーソフトが存在する。これらのWeb上に存在するコンテンツやフリーソフトを利用することにより、「生徒自らの発見による生徒が意欲的に参加する授業」について考えてみる。
 さらに教育の情報化に備えてWebページ上(以下Web上と略記する)のコンテンツやグラフの動的な動きなどの視覚効果を生み出す道具として、プロジェクターを利用した「新しい数学授業のありかた」についても考えてみる。
 
2 研究の仮説

(1)Web上のコンテンツ及びフリーソフト「GRAPES」、プレゼンテーションソフト「PowerPoint」を利用することにより、数学における概念をカラフルなイメージとして視覚化し、生徒の直感的な理解を助けるとともに、生徒の意欲関心を高める。
 
3 研究の実際

(1)Web上のコンテンツとフリーソフトの利用
[1]高校数学問題集……授業用の問題として利用できる数学の基本問題と応用問題が掲載されている。解答もカラフルでていねいである。
[2]GRAPES……アニメーション機能により、パラメータの変化に応じたグラフの変化を視覚化できる。目で確かめて理解する手軽な「実験ツール」と言える。

(2)授業の工夫
 「PowerPoint」のハイパーリンク機能を利用して、「GRAPES」及びWebページをリンクして、数学の概念をカラフルなイメージとして視覚化し、論理的な説明と併せて生徒に投げかるように工夫した。

(3) GRAPESの利用例
 
平均変化率や接線の変化を調べる実験を繰り返す中で、微分係数の意味及び、接線の変化と極大・極小、グラフの形状との関係について考えさせた。

(4) Web上のコンテンツの利用例
  「高校生の数学問題集」の問題を解くことにより、自分の解いた解答と,ネット上の解答と比較させた。

(5)分析および検証
 
1年次(2次関数の最大・最小,数列)、2年次(微分法とその応用)、3年次(個数と処理,複素数と図形)の5回の研究授業の中で、この研究主題に対する検証を行った。その中の1つとして、2年次の微分法とその応用の授業のねらいと展開例を簡単にまとめたものを紹介する。
[1]授業のねらい……ネット上からダウンロードしたフリーソフト「GRAPES」よる実験とMATHCADで作成したアニメーションをPowerPointでリンクし生徒に見せ、ネット上のコンテンツ「高校生の数学問題集」を解かせることにより「微分するとは何か」、「極大・極小とは何か」を理解させる。
[2]展開
ア.平均変化率の変化を調べる実験を繰り返し、微分係数の意味について考える。
イ.微分係数を定義するアニメーションを観察する中で、自分の考えを確認する。
ウ.接線の変化とグラフの形状との関係を調べる実験を繰り返す。
エ.極大・極小についての意味について考え、それを数学的に表現する。
オ.極大・極小を定義するアニメーションを観察する中で、自分の考えを確認する。
カ.ネット上の問題を演習し、微分係数、極大・極小の定義について理解を深める。
[3]利用したWebページとフリーソフト
Webページ  http://onohiro.hp.infoseek.co.jp/amanojack/top.htm
フリーソフト(GRAPES)  http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~tomodak/
 
4 研究の成果

(1)Webページ上のコンテンツの利用
 数学に興味を持っていなかった生徒を含め全員が意欲的に問題を解き、カラフルなWeb上の解答と比べることにより自分の解答を検証していた。そして教科書や副読本だけでなく、Web上に理解を助ける様々なコンテンツが魅力的な形で存在していることを知り,「自ら学習する意欲」を持てたようだ。
(2)フリーソフト「GRAPES」の利用
 次の2人の生徒の感想でその成果はわかると思う。
A・・・パソコンを使うことで(授業を休んでいた僕にとっても)グラフの描きかたがなんとか理解できたと思います。先生の言葉と黒板を使っての説明は大事です。しかしそれと同じぐらい自分で考えて、数学の性質を見つけていくことも大事だと思いました。今回の授業の準備には時間がかかったと思います。そのおかげで内容を理解することができました。
B・・・コンピュータの画面で増減表の問題を解くのは大変おもしろく、達成感を感じました。でも一番感動したのは、接線の残像がかさなりあった画像です。「数学ってきれいだなあ」と初めて思いました。
 
5 おわりに

 授業を実践して感じたのは、まず生徒達は“なぜだろう”という素朴な疑問から出発して、“知りたい”、“分かりたい”という本来誰もが持っている欲求にいたるということである。例え正解まで到達できなくても、生徒一人ひとりが自分の考えで実験を繰り返す中で「生徒自らの発見による生徒が意欲的に参加する授業」であったと思う。
 プロジェクターやパソコンを利用して数学の内容を動的に観ながら考えるということやWeb上の教材を利用するということは、生徒達の興味関心を高めるのに効果的であるのは間違いない。
 さらに、数学の問題を視覚的に捉えて、動的に観察する中で「自らの発見として」数学的性質を見出すことは、視覚メディア社会といわれる現代において、必然的に要求されるものであると思うし、このことを取り入れることが数学における教育の情報化の一歩であると考える。
(以上の内容は第56回九州数学教育研究(佐賀)大会で発表したものである。)