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『理系のための中国古典名言集』
著者:藤嶋 昭
発行所:朝日学生新聞社
A5判:176ページ
定価:本体1600円+税
 中国古典の魅力は,簡潔な表現でありながら,ずばり人間や人生の真実に迫っていく名言の数々にあります。
 「以心伝心」,「温故知新」,「大器晩成」,「四面楚歌」を始め,中国古典に由来する四字句をよく使いますが,どの言葉もそれぞれ深い意味をもっていて,その由来を知ると感動することが多いものです。
 かつて日本の先人たちは,中国古典に学び,それらの名言を心に刻むことによって,人間を理解し,人生を生きる指針としてきたわけです。
 社会は激しく変化していても,その底には,変化しない部分が厳として存在していることがわかります。人間のもつ本質的な性格や行動を示す人間学は,変化しない部分の代表的なものと言えます。二千五百年前に書かれた『論語』を始めとする中国古典の人間学は,もっぱら原理原則を説いています。原理原則なるがゆえに,時代の変化にほとんど影響されていないので,現在の我々が読んでも,新鮮な魅力に富んでいるし,うなずける面が多いものです。変化の激しい時代だからこそ,なおさら原理原則に立ち返ってみる必要があると言えます。
 私自身は光触媒を中心に科学に関する研究をしてきた研究者の一人ですが,折にふれて,中国の古典を読み,様々な場面でその深い意味に影響されてきました。本書はタイトルの一部に「理系のための」とつけましたが,私を含めて理系の人間こそ,人間としての本質をとらえた中国の名言に親しむことが必要だと思っています。もちろん,理系以外の方々にも読んでいただきたいと思っています。
 ここでは多くの優れた中国古典の解説書など(巻末に参考にさせていただいた本をまとめてあります)を参考にして,『論語』や『荘子』を始めとする書物の中から七十四項目を選び,私が受けた感動などをもとにコメントをつけてまとめました。背景の写真とともに中国古典のすばらしさを味わっていただくことができれば幸いです。

(東京理科大学学長/東京大学特別栄誉教授・藤嶋 昭)