化学授業実践記録
水の電気分解と燃料電池
愛媛県立東温高等学校
大原 聡
 
1.はじめに

 最近話題の燃料電池は、クリーンなエネルギーとして注目されている。教科書にも実用電池の一つとして掲載されているが、生徒の身近なところにはあまり存在していないため、「高価なもの」「かなり先の技術」というイメージが強い。そこで、身近にある安価なものを用い、簡単な燃料電池を作成することで、そのイメージを払拭させたいと考えた。
 燃料電池の燃料となる水素と酸素は水の電気分解により生成させ、電気分解と燃料電池の化学反応をまとめて学習できるように実験装置を工夫した。教師が事前準備と予備実験を行えば、実験装置を生徒一人に一つずつ作製しても50分の授業時間内に収めることができる。経済的にも問題はないので紹介したい。
 
2.実験の内容

(1) 事前準備(ほとんどのものが100円均一ショップで購入できる。図1)
ストロー1本(なるべく無色透明なものがよい。)
鉛筆の芯1本(両端を削り、バーナーで木の部分を焼くと芯の部分だけ取れる。)
消しゴム(ストローの径にあわせて、コルクボーラーでくりぬく。厚さは5mm程度。図2)
ふた付きカップ1組(なるべく無色透明なものがよい。)
グルーガン(樹脂を溶かし、樹脂が冷えたら固まる接着剤。ホームセンターなどにある。)
お茶(烏龍茶,緑茶など安ければ何でもよい。)
9V乾電池1個,わにぐちクリップ付き導線2本,電子メロディー1個,はさみ,定規など
図1 図2
 
(2) 実験装置の作成
[1] ストローを長さ4cmで切る(2つ)。鉛筆の芯は半分の長さで切る。
[2] 切ったストローの一端に消しゴムをしっかり差し込む(もう一端はあけたまま)。
[3] 消しゴムがずれないようしっかり押さえ、鉛筆の芯が折れないよう注意しながら消しゴムに刺す(図3)。ストローから出す芯の長さは、カップの深さにより変わるが、今回は2cm程度。ストローの穴をのぞくように見たとき、芯がストローの中心にくるように調節する。
[4] [2],[3] の作業を繰り返し、同じものをもう1セット作成する。
[5] カップのふたにボールペンの先などで穴を2カ所あける。穴の大きさは、ストローの外径よりも大きくなる程度。
[6] ふたの穴に [4] で作成したストローを、消しゴムのある方を上にして差し込む。
[7] ふたの穴とストローのすき間をグルーガンで接着し、完成(図4)。
図3 図4
 
(3) 水の電気分解
[1] カップにいっぱいにお茶を入れ、きちんとふたをする。
[2] ふたを押さえながらカップを逆さにし(図5)、ストロー内をお茶で満たす。ストロー内にお茶が入りにくい時は、カップを軽く振ったり、ストローを指ではじいたりする。
[3] 9V乾電池を鉛筆の芯に接続し、5分程度電気分解を行う。気体発生の状態や両極で発生する気体の体積比を観察する。
(4) 電子メロディーを接続し、放電
電気分解をやめ、電極に電子メロディーを接続する。(図6)
図5 図6
 
(5) 発展学習
 水の電気分解において、以下のように実験条件を変えた場合の結果を予想させ、班内で分担して実験する。実験結果を観察し、その理由を考えさせる。

[1] 薄めたお茶を使う。
[2] 温めたお茶を使う。
[3] 電極の距離を離す。(カップにあける穴の距離を変える。)
[4] 芯の硬さを変える。(HB,B,2Bなど)
[5] 芯の太さを変える。(シャープペンの芯を使う。芯の太さはいろいろあるが、やや短い。)
[6] 赤鉛筆を使う。(木の部分を焼くと芯が取り出せない。カッターなどで木の部分を削る。)
 
3.実験の結果

(1) 2の(3)(4)について
 実験条件や使用する材料により結果は変わるが、図4の装置を用いて実験した結果、陰極からは水素が、陽極からは酸素が発生し、約3:1の比でストロー内にたまった。電子メロディーは10分以上鳴り続けるが、ストロー内にたまった気体を使い切る前に止まってしまう。これらの原因はいろいろ考えられるが、検証できていないので今後研究していきたい。

(2) 2の(5)について
[1] 薄めたお茶の方が気体の発生量は少ない。(溶液中のイオンが少ない。)
[2] 温めたお茶の方が気体の発生量は多い。(絶対温度に比例する。)
[3] 電極の距離を離した方が気体の発生量は少ない。(内部抵抗が大きくなる。)
[4] 芯の硬さが硬い方が気体の発生量は少ない。(黒鉛の含有量が少ない。)
[5] 芯の太さが太い方が気体の発生量は多い。(表面積が大きい。)
[6] 赤鉛筆を使用すると反応しない。(赤鉛筆は黒鉛が主成分ではない。)
 
4.おわりに

 今回紹介した実験は不完全な部分が多く、研究すべきことは多々ある。しかし、この実験の目的は、身近にある安価なものを用いて生徒が実験装置を自作することで、燃料電池に興味・関心を持たせることにある。1セットにかかる費用はおよそ25円で、40人分作成しても1000円程度である。準備にやや時間はかかるが、生徒はいつも以上に楽しく活動していた。また、この装置は水以外の様々な溶液の電気分解にも使用できるので、参考にしていただきたい。