地学授業実践記録
「眉山−BIZAN−」の岩石ガイド
徳島県立城南高等学校
秋山治彦
 
1.はじめに

 眉山(標高290m)は徳島市のシンボルの一つです。山頂部まで自動車道が通じるとともに,東麓の阿波おどり会館からロープウエイも運行する観光スポットで,山頂からは徳島平野とその夜景を一望でき,晴れた日は淡路島や紀伊半島も望むことができます。本校は眉山南麓に位置し,本校校歌冒頭でも『眉山の若葉陽に照り映えて』と歌われ,親しまれています。

ちょっと珍しい雪化粧した眉山
(2011.2.15朝撮影)
本校グラウンドから眉山を望む
徳島県立城南高校へのアクセスマップ
(眉山がランドマーク)

 
2.三波川変成岩類産地としての眉山

 徳島県は東西に伸びる地質帯が南北に並んでおり,眉山,そして徳島市は三波川帯に位置しています(ただし徳島市の大部分は完新統の沖積層)。三波川帯は主として,中生代ジュラ紀に海底に堆積した泥岩・砂岩・チャートと,同じ時代に噴出した玄武岩質溶岩とが,白亜紀になって低温高圧型の変成作用を受けて結晶片岩となったもので構成されています。徳島ではこうした結晶片岩を石材として今でも多用しており,私たちにとって身近な岩石の一つとなっています。

緑色の塩基性片岩「青石」を用いた石垣

 眉山の地質は概ね東西走向・北傾斜を示しており,眉山を南北に見ていくと様々な結晶片岩を採集することができます。本校では,授業での野外実習や課題研究のフィールド,あるいは結晶片岩標本の採集場所として眉山を利用してきました。今回は眉山の岩石をごく一部ですがご紹介します。

 
3.眉山南麓:ざくろ石−角閃石片岩

 本校正門前の国道438号線を西進してすぐに,眉山パークウエイ入り口があります。パークウエイに入り,ため池の横を右折せず山頂方向に直進し,山の斜面を宅地造成した最上部まで行きます。少し藪をかき分け,落石防護柵の裏側に入ると露頭があり,その中にざくろ石を多く含む部分があります。この露頭は眉山の変成岩の中で,最も高温で変成作用を受けたものと考えられます。岩石の切断面を研磨すると,緑簾石の緑とざくろ石の赤とのコントラストが美しい石です。岩石を構成する鉱物としては,他に白雲母とバロア閃石などを含んでいます。

製作途中のざくろ石−角閃石片岩の薄片
偏光顕微鏡写真(開放ニコル)

 
4.眉山東麓:紅簾石片岩

 阿波おどり会館から北に300mほどの滝薬師の登山口から歩いて山頂方向に向かいます。途中で観音堂,御嶽神社の横を通ると,少し開けた平坦な登山道の分岐点に出ます。右手に少し下っていく道があるのでそちらに進むと,登山道右手に沿って結晶片岩の露頭が連なったところがあります。この結晶片岩は,紅色柱状の紅簾石,白雲母,赤鉄鉱,石英,曹長石を主な構成鉱物とする石英片岩です。紅簾石はかつてマンガン鉱床特有の鉱物と考えられていました。しかし1887年(明治20年)に,東京帝国大学地質学教室初代教授の小藤文次郎がこの露頭を調査し,世界で初めて結晶片岩中に紅簾石が含まれる産状を見いだし,学術的に注目されました。ちなみに,現在電波塔が建っている付近のピークを,昔は「大滝山」と呼んでいたので,小藤の産地記載も「眉山」ではなく「大滝山」となっています。

岩石表面に点在する紅色柱状の鉱物が紅簾石
偏光顕微鏡写真(開放ニコル)

 この露頭の近くにはかつて鉱石(小さなキースラーガー/層状含銅硫化鉄鉱床と思われます)を採掘していた直径1mほどの坑口が開いています。

土砂に埋もれた坑口

 
5.眉山北麓:点紋塩基性片岩

 本校から見て山の反対側の北麓は,南側に比べてやや険しい地形になっています。ここでは斑点状の曹長石を含有する緑色の点紋塩基性片岩が多く見られます。眉山の三波川変成岩類は,北側の点紋帯と南側の点紋を含まない無点紋帯に分けられます。

岩石表面の白い斑点が「点紋」
偏光顕微鏡写真(開放ニコル)

 
6.おわりに

 徳島市の主要な観光地の一つであり,2007年にはさだまさしの小説を映画化した「眉山−BIZAN−」のロケ地ともなった眉山ですが,実は結晶片岩の宝庫でもあります。各学校の理科室に,過去に理振等で購入された変成岩や岩石薄片の標本があれば,広域変成岩の代表である結晶片岩として徳島県産あるいは眉山(大滝山)産のものが入っているかもしれません。
 もし徳島へお越しになる機会があれば,観光地としてだけでなく,地質フィールドとしての眉山もぜひご覧ください。

〔参考文献〕
「徳島県地学図鑑」 解説・写真 岩崎正夫 徳島新聞社
「徳島県 地学のガイド 徳島県の地質とそのおいたち」
 奥村清 監修 徳島県地学のガイド編集委員会 編 コロナ社
「2007年企画展 ミネラルズ 展示解説書」 徳島県立博物館