地学授業実践記録
野外巡検「長崎市岳路海岸」
長崎県立長崎南高等学校
藤原秀樹
 
1.はじめに

 学校の周囲にある露頭を見ることで、学習した知識や内容を実際に自分たちの目で確認し、自然に触れることにより、地学への興味関心を喚起する目的で、2年生の地学選択者を対象に例年実施している。しかしながら野外巡検は、学校の場所によっては実施困難である場合もある。今回は立地条件に恵まれた長崎南高校での地学野外巡検の内容について紹介する。
 
2.岳路海岸へ

 長崎南高校では、野外巡検の実施日に地学選択者の午後の授業をすべて地学とし、昼休みからバスで移動・昼食をとり、約30分で目的地へ到着する(下の地図を参照)。約1時間強ほど海岸沿いのA地点からD地点までで観察する。この地域には、古第三系の砂岩・れき岩といった堆積岩が広く分布するだけでなく、九州最古(4億5,700万年〜4億8,000万年前)の岩石といわれるハンレイ岩(野母変ハンレイ岩複合岩帯)や長崎変成岩類(黒色片岩や緑色片岩)も分布し、地質学的に魅力的な場所である。しかしながら、短時間内に巡検を終わらせる必要から堆積岩の観察に時間の多くをさいている。

 
3.A地点(堆積構造の観察)

 A地点の砂岩には斜交葉理(クロスラミナ)が見られ、地層の上下の判断や古水流の向きの推定、およびクリノメーターを使って砂岩の走向・傾斜の測定を行う。
 また、この地点には海食洞があり、干潮の時間をねらってこの場所を訪れると、海食洞を通り抜けることができる。いたるところで斜交葉理(クロスラミナ)が観察されるので堆積当時は水流の向きがよく変化する場所だったことがうかがえる。

A地点の斜交葉理(クロスラミナ)

 
4.B地点(田子島の海食台の観察)

 波の侵食作用によってできる海食台が観察できる。
 海面と海食台の関係を干潮時の海面の状況から推察させる。

田子島の海食台

B地点から観察している生徒

 
5.C地点(れき岩層の観察)

 れき岩層中のオーソコーツァイト〔正珪岩〕に注目した。オーソコーツァイト〔正珪岩〕は石英の微粒子だけから構成されている岩石であり、砂漠などの大陸環境で形成されたといわれる石英砂岩である。日本での産出は全てれきとして発見されている。石英だけでできているので非常に硬いことをハンマーでたたくことで確認した。

C地点

オーソコーツァイトのれき(直径10cm程度)

 
6.D地点(変はんれい岩)

 この地点での生徒の学習活動は、変はんれい岩の観察と急に岩相が変化することにより岩相の境界が存在することを認識することである。またこのD地点より西側の切り立った海食崖を観察することにある。変はんれい岩は、1975年猪木幸男、柴田賢、服部仁博士らの放射年代測定により、4億5700万年〜4億8000万年の九州で最も古い値がでている。つまり九州最古の岩石である。この変はんれい岩は放射年代の値から古生代に形成された岩石だということがわかる。A〜C地点で見てきた堆積岩は新生代古第三紀の岩石で、この両者はアバット不整合で接していると考えられている。
 生徒たちはこのD地点付近の砂が、A地点や岳路海水浴場の砂の色と異なり緑色をしている理由がこの変はんれい岩にあることをすんなり理解できたようだった。また、砂(粒径1/16〜2mm)の色が自分らのイメージ(砂浜の砂の色や校庭砂場の砂の色)としてないものもあることを認識できたようだ。
 
7.おわりに

 野外巡検についての生徒の反応はよく、取り組みも積極的である。クリノメーターやハンマーなどは、これまで長崎南高校で地学を担当された先生方がかなりの数を購入していたので準備する必要がなかった。生徒2人で1セット(クリノメーターとハンマー)としている。また、巡検レポートは冊子にまとめるようになっており、巡検帰りのバスの中で感想等をまとめて提出させている。
 実際には巡検といえないほど短時間で行っている。ルートマップの作成などはできないが、地質的に多様な場所であるので地学で学習した様々な内容を生徒自身の目で確認できる内容となっている。

巡検レポートの冊子 表紙