地学授業実践記録 |
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雲の実験あれこれ |
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慶應義塾高等学校 松本直記 |
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1.はじめに
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なかなか演示実験のやりにくい地学ですが,気象分野には楽しい実験がたくさんあります。特に大気の性質や,雲粒の発生・成長には,生徒が思わず「おぉ!」と歓声をあげる実験がありますので紹介したいと思います。 |
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2.大気の断熱変化
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空気を圧縮したり膨張させると温度変化を伴う断熱変化。断熱圧縮の演示には,「圧気発火器」が効果的です。教材商品としても販売されていますので,比較的簡単に準備することができます。ただし,若干の熟練が必要ですので,予備実験は欠かせません。
力むとまっすぐにピストンを押せないので,力まず垂直に押し込むのがコツです。また,燃やすワタ(ティッシュの切れっ端でも可)は,心配なくらいにほんの少しで大丈夫です。
断熱膨張の実験は,炭酸飲料の気が抜けないようにペットボトルの飲み口にねじ込める加圧ポンプが有名です。何種類か同じような商品があるのですが,「Fizz Keeper」というものが一番良いようです。この商品も個体差があって,うまくいくものといかないものがあるので,いくつか購入して良いものを把握しておくのがよいと思います。
図2 断熱膨張実験に使うペットボトル用ポンプ この演示は,断熱膨張によって,[1] 温度が下がり,[2] 水蒸気が飽和に達し,[3] 結露して,[4] 雲粒ができる,というストーリーです。しかし,段階が多すぎるので「温度が下がる」部分を切り離した方がいいと思います。
まず,温度が下がることを示し,次にFizz Keeperのポンプでペットボトルの空気を圧縮し,雲をつくる実験を行います。このとき,使用するペットボトルは必ず炭酸用のものを用いること。お茶などの普通のペットボトルだと破裂して怪我をする危険性があります。
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3.雲粒の発生
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雲粒が発生するには,気体から液体への状態変化のきっかけとなる凝結核の存在が重要です。ペットボトルとFizz Keeperの実験で,凝結核として線香やマッチの煙を入れて再実験すると,煙を入れないときよりたくさんの雲粒ができることが観察できます。しかし,この実験の欠点は時間がかかることです。かなり頑張って空気を入れないと雲粒ができないので,同じ実験をくり返すことも手伝って間延びしてしまいます。 そこで,写真のような実験道具を利用しています。WARD'Sという教材会社の Cloud-Forming Apparatus という製品です。 http://wardsci.com/product.asp?pn=IG0004010
持ち手の部分を握ったり,緩めたりすることで,フラスコ内部に温度変化を生じさせて雲粒をつくろうというものです。ただ,フラスコの内側を水で濡らしただけでは,ニギニギしても雲粒はできません。ピンチクランプを外し,ぎゅっと握った状態でゴム管の所から線香やマッチの煙を入れてやると,ぱっと握り手を緩めた瞬間にフラスコ内に雲粒ができます。再び握ると内部が昇温して雲粒は消えます。このように非常に反応性がよいので,効果的に現象を見せることができます。
雲粒と凝結核の関係で,「過飽和」という言葉が出てきます。過飽和を起こしやすい物質としては酢酸ナトリウム水溶液があります。フラスコに高濃度水溶液をつくっておけば,常温では過飽和の状態になりますので,フラスコが割れないようにプラスチックのゴミ箱にでもたたきつければ,瞬時に水溶液から固体が析出して固まります。状態変化をするときに「きっかけ」が必要だ,という実例を示せるのですが,なかなか準備が大変です。
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4.過冷却水と氷晶の成長
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中・高緯度の代表的な降水過程である「冷たい雨」では,過冷却水滴と氷晶が混在していることが重要です。氷点下になったらたちまち凍ってしまうと思っている生徒は多いので,状態変化するにもきっかけが必要であることを実際に見せたいところです。
状態変化の「きっかけ」として,小さな氷粒を試験管に投げ入れます(図9)。すると,試験管の中の過冷却水はたちまち凍ります(図10)。
昨今,「過冷却冷蔵庫」というものが流行っているそうです。 |
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5.おわりに
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授業で取り扱う対象がとても大きかったり,イメージしづらいものが多かったりと,可視化には苦労する地学の内容ですが,気象の授業では現象そのものを見せられるので,いろいろと演示実験を織り交ぜながら授業展開することを心がけています。その中で,雲関連の演示実験を紹介させていただきました。有名なものばかりですが,何かがお役に立てば幸いです。
なお,Cloud-Forming Apparatus の実験は桜美林大学の坪田幸政先生に,過冷却水の実験は東京学芸大学附属高校の須藤俊文先生にご指導いただきました。どうもありがとうございました。 |