地学授業実践記録
地質図幅集CD-ROMを活用した
地層の広がりの指導
北海道札幌稲雲高等学校
伊藤友彦
 
1.はじめに

 札幌稲雲高等学校は札幌市の西部,手稲区にあり,手稲山(標高1024m)の山麓(標高92m)に位置している。手稲山は第三紀の火山活動により形成された火山であり,安山岩質である。
 例年,地学の指導では,地質図や地質断面図について苦心している。指導を難しくしている原因としては,生徒に立体的な地質の広がりのイメージをなかなか持たせることができないことや,実際の地層とのつながりを生徒に実感させることができていないことが原因であったと考えている。そこで,産業技術総合研究所・地質調査総合センターから発行されている20万分の1数値地質図幅集「北海道南部」CD-ROMを教材として利用し,具体的に自分たちが生活している地域の地質がどのように構成されているかを立体的に復元した。これを基に地質図を見て地質構造を理解することを目的とした実習を行っている。なお,この実習を行うようになったのは,平成17年度北海道立理科教育センター研修講座を受講し,教材開発に取り組んだことがきっかけである。
 
2.資料

 教材としたのは,産業技術総合研究所・地質調査総合センター発行20万分の1数値地質図幅集「北海道南部」CD-ROM,地質図幅中の記号や空間的な広がりを知るための資料として,教科書「高等学校地学 I 改訂版」(啓林館007)90ページから93ページを用いた。
 
3.準備

(1)地質図幅集CD-ROMおよびプリントアウトしたもの
(2)スチレンボードまたは発泡スチロールボード(5mm厚)
(3)カーボン紙
(4)発泡スチロールカッター
(5)セロハンテープ
(6)ボールペン,カッター,両面テープ
 
4.実習

 実習は概ね4段階に分けて行った。

(1)事前指導
 事前指導ではまず,地形図から等高線を読み取る練習を行った。その後,地質図幅のプリントアウトをそれぞれに配布し,教科書90ページの図19および図20を参考に,どのような地質の構造が見られるかを,考えさせた。

(2)モデル製作
 モデル製作は,100mごとの等高線で地形を階段状に形成し,その段差をカラー紙粘土で埋めることにより行った。地質の違いによって紙粘土の色を変え,重なり方や,同じ地層の広がりを認識できるように考慮した。

 

[1]
地形図とカーボン紙を重ね,印字面が発泡スチロールにあたるようにのせる。
[2]
目的とする等高線をボールペンや鉛筆等でなぞる。
[3]
地形図とカーボン紙をはずし,描かれた線にそって発泡スチロールカッターで切る。
[4]
[1]〜[3] を繰り返し,出来上がった発泡スチロールを重ね,両面テープで固定する。

[5]
等高線で地質図を切り離し,地形面に貼り付ける。
[6]
地形の段差を地質の違いに留意して色違いの紙粘土で埋め,完成。

Jg:
十万坪砂礫層
Vt:
手稲山火山噴出物(安山岩)
Vtp:
手稲山火山噴出物(砕屑岩)
Hag:
烏帽子岳安山岩質集塊岩層(集塊岩)
Hea:
烏帽子岳安山岩質集塊岩層(安山岩)
Tgf2:
三樽別川緑色凝灰岩層

(3)モデル解釈
 完成したモデルを用いて,地質構造の解釈を行った。事前指導の段階で自分がイメージしていた形と一致しているのか,そうではないのかを検証し,確認する。その後,紙粘土の重なり方と広がりから具体的な地質構造を考えさせた。

(4)事後指導
 指導の最終段階として,生徒に配布した地質図幅に任意の直線を引き,その直線に沿った地質断面図を作成した。実習を行った手稲山山麓は火山噴出物に覆われる地形のため,比較的単純な構造であったが,製作したモデルと比較しながら考えることにより,その構造を理解できたようである。

 
5.まとめ

 地学に限らず理科という教科は実際のものに触れる,見るということが指導上非常に有効である。しかしながら,地理的条件や時間数上の制約など思うように行かないのが現状である。今回の実習についても近くにありながら見ることができない部分をモデルの利用によって補足を行ったに過ぎない。理想的には地表踏査や地質図製作を通して指導することができればと考えているが,上記制約等により非常に難しい。今後もさらに様々な実習を通して指導の幅を広げて行きたいと考えている。

Eメール;tomohiro3040@hotmail.com