地学授業実践記録
臨時地震観測データを授業に用いた実践例
鹿児島県立加世田高等学校
野間口一道
 
1.はじめに

 琉球弧北部から中部に位置するトカラ列島-奄美大島域は地震活動の活発な領域で,過去に大規模な地震が発生している。近年では,1995年に喜界島近海でM6.6・M6.7の地震が,ここ数年では,2000年に悪石島周辺で発生したM5.6とM4.8,2001年に奄美大島域で発生したM6.1の地震がある。このようにトカラ列島-奄美大島域は地震活動が活発であるにもかかわらず,地震観測網が貧弱であることから,規模の大きな地震に基づいた大まかな地震活動は把握されているが,小規模な地震を含めた精度の高い地震活動は把握できていない。そこで鹿児島大学付属南西島弧地震火山観測所(NOEV)では,1995年よりこの領域で臨時地震観測を行っており,定常観測点のみで震源決定した場合に比べ,より精度の高い震源決定を行っている。
 ところで,我々が日々ニュース等で目にする震源(震央)位置は自動決定されたものがほとんどで,誤差を含んでいることが多く,観測網が貧弱な地域ではその誤差はより大きなものとなっている。つまり,正しいと思っている震源(震央)位置は地域差がかなりあるということになる。また震源決定を行う人(コンピュータ)によっても誤差が生まれる。そこで,一通り地震について学んだあとに,生徒達が実際に県下で起こった地震の記録を基に震源決定を行い,観測点の違いによる震源位置の違いや互いの決定した震源位置の比較をすることは,地震についての知識を深めるだけでなく,災害の面から地震観測網の重要さを学ぶ良い機会であると考える。
 ここでは,野間口(2001)で発表した2000年悪石島周辺で発生した地震の余震活動を授業に用いた実践例を報告する。
 
2.資料

 まず,震源決定を行う際に重要となる観測点配置については図1のようになっている(研究当時)。大きな記号で示されたのが,研究で震源決定の際に使用した観測点である。観測点の種類には3つあり,気象庁が展開する観測点(○)と防災科技研が展開するHi-net観測点(◇),そして,各大学が展開する観測点(□・△)である。このうち定常観測点は地震記録が電話回線を通じてリアルタイムで観測所に送られる観測点(テレメーター)を指す。臨時観測点は定常観測点と同様にテレメーター化したもの()と,DATテープ(最近はHD)に地震記録を記録し,数ヶ月毎に回収に行くロガー型観測点()の2つがある。
図1 大きな印が今回悪石島近海での地震活動で,震源決定の際に使用した観測点である


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 図1を見ると離島を除く地域には観測網が密に配置されている。しかし,離島には地理的な影響もあるが,観測網が貧弱であり,島によっては近辺の地震活動が盛んであるにも関わらず,地震計が配置すらされていない島もある。悪石島や宝島(AKUS・TAKT)もその1つである。そこで,NOEVでは2000年10月に悪石島で発生した地震活動についてより詳細な震源決定を行うために臨時地震観測を実施した。なお,AKUS・TAKTに限っては地震発生の2日後に地震計を設置したために本震の震源記録は得られていない。
 図2は実際の地震波形で,図3はAKUS・TAKTを含まないデータで震源決定を行った結果である。本来地震活動は比較的狭い領域で発生するが,非常にまとまりが悪い。図4はAKUS・TAKTを含んだデータで決定した震源が図3の場合と比べてどれだけ移動したかを示した図である。臨時観測データを含むことで,まとまりがよくなっており,震源は東南東に約30km,深さ方向では10km〜20km浅くなっていることが分かる。図4の結果より,少なくともこの領域では震央距離にして30km・深さ的に10〜20kmの誤差を含んでいることが分かる。

図2 実際の地震波形記録

図3 悪石島近海の地震活動を臨時観測点抜きで震源決定した場合の震源分布図 

図4 2000年10月悪石島近海の地震において,臨時地震観測点データを併合処理して震源決定した地震と臨時観測点データ抜きで震源決定した地震の震源分布を比較した図

 
3.準備するもの

(1) 生徒実習用の地震観測点3点(KURO・NAGT・JAM)での地震波形
(2) 臨時観測点のデータを含めた3観測点での地震波形(AKUS・TAKT・JAM)
(3) 悪石島周辺の地図
(4) 電卓・定規
(5) パソコン・プロジェクター
 
4.実習

[1]  生徒たちに実際の地震観測点に記録された図2のような地震記録[検測支援システムWIN中の画面]から P 波到達時,S 波到達時を読ませ,P-S 時間を求めさせた。この際に,S 波到達時は波の周期が変わることに注意するよう指示し,最初に読み取りを行う観測点は3点(NAGT・KURO・JAM)とした。
 震央位置の決定には教科書「地学 I 」(啓林館、003)P37の図17の原理を用いて行った。その際に の値【角田・他(1991)】を用いて計算を行った。続いて,同じ地震についてAKUS・TAKT・JAMの地震波形から震源決定を行いKURO・NAGT・JAMの地震波形から求めた震源と比較させた。
[2]  震源決定が終わったら,互いに震源位置を確認しあって,私が震源決定を行った位置と比較させた。
[3]  続いて,私の研究結果についてプロジェクターを用いて示した(図3・4)。ここでは,既存観測点のデータのみ(図1の大きな記号で示された観測点のうちAKUS・TAKTを除く観測点)で決定された震源位置と臨時観測点のデータを含めたデータ(AKUS・TAKTを含む)で震源決定を行った場合の比較を行った。このとき、臨時観測点の設置等についても説明を行った。
 
5.まとめ

 生徒たちは,震源近くの観測点の有無で,震央(震源)位置に大きな違いが生まれることに驚いた様子で,観測点によって震央(震源)位置に地域差があることも理解してくれたようである。今後も少しでも地震について興味・関心を持ってもらい,今後の地震災害に対する意識を高めるためにも,各研究機関と連携をとって生きた地震情報を供給し続けていこうと考えている。