地学授業実践記録
シーロスタットによる太陽観測
茨城県立水戸第二高等学校
岡村典夫
 
1.はじめに

 太陽観測は,昼間にできる数少ない天体観測である。また,日々表面の様子が変化する珍しい観測対象でもある。白色光で太陽を観測させるには,以下の方法がある。

 a.サングラス等の接眼フィルターを利用する方法
 b.対物レンズの前に対物フィルターを被せる方法
 c.太陽投影板を利用する方法
 d.シーロスタットを利用する方法

 これらの方法で,最も安全なのはcとdである。cは屋外で10cm程度の太陽像を投影するのが限界なので,少人数の観測には向くが,人数が多くなると望遠鏡が何台も欲しくなる。多人数に対し最も有効なのは大きな太陽像を暗くした教室で投影できるdである。また,スケッチを描くときも机の上に太陽像を投影できるdは有利である。

 
2.本校のシステム

 今までのシステムは,上の写真のように五藤光学製のシーロスタットに,同光学製口径80mm,焦点距離1200mm(F15)の屈折望遠鏡を取り付けていた。接眼レンズは同光学のMH25mmである。なお,シーロスタットはかなり古いものなので,4年前に転勤してきた際にモーター部分は交換してある。望遠鏡も古く汚れや傷が目立ったのでクリーニングおよび再塗装をして,光軸の再調整もしてある。
 このシステムでは,倍率が高すぎて,接眼レンズから比較的近い位置に太陽像を投影しなければならなかったので,一度に観測させられる人数は15名前後が精一杯であった。また,アクロマートレンズなので色収差があり太陽像の縁に青い着色が見られた。

 そこで,今年度からは上の写真のように望遠鏡を高橋製作所の短焦点屈折望遠鏡口径78mm,焦点距離630mm(F8.1)の望遠鏡に変えた。直角プリズムを使い,接眼レンズを同製作所のLE30mmにすると,黒板付近にスクリーンいっぱいの太陽像を投影できる。この望遠鏡は色収差の少ないフローライトレンズが使われており,太陽像の縁に着色はない。コーティングも良いので2mm口径が小さくなったが光量は減っていない。また,倍率を下げたことで視野が広くなり,太陽の導入もしやすくなった。ただ,LE30mm接眼レンズは太陽観測に向いているとは言えず,耐久性が心配である。

 
3.太陽像について

 白色光で見られる太陽表面の構造は,周縁減光・黒点・白斑・粒状斑である。

(1) 周縁減光
 暗室の中で見るのでコントラストが良く,観察しやすい。

(2) 黒点
 黒点は11年周期で増減するので,今はあまり多くない。しかし,拡大率が大きいので,小さな黒点でも十分に観測可能である。写真は直径7000km程度の黒点であるが,この大きさでも半暗部と暗部の区別も容易であり,シーイングさえよければ半暗部の微細構造も観測可能である。寿命の長い黒点が現れれば,前日に写したデジタルカメラの画像と重ね合わせることで,自転の方向を簡単に示すことができる。

(3) 白斑
 白斑は太陽像の中心付近にあるときには観察しにくいので,周縁部にあるものを観察させるとよい。特に,黒点群が周縁部にあるときは黒点群の周辺に観測できる。

(4) 粒状斑
 よほどシーイングが良くないと観測できない。投影像ではざらざらとした感じに見えるだけであり,教科書のような鮮明な像は望むべくもない。

(5)その他
[1] 日周運動
 赤経モーターを止めれば,西へ太陽が思いのほか速く動く様子が観察できる。
[2] 雲
 観察する日が快晴とは限らない。太陽が薄雲の中に入れば雲が勢いよく動く様子が見られる。
[3] 鳥
 鳥が太陽の前を横切るとき,太陽像の外側では光って見え,太陽像の中に入ると黒く見える。生徒は必ずこれは何かと質問してくるので,「これがUFOだ」と答えると授業が盛り上がる。
[4] とんぼ
 秋には,赤トンボが大量に飛ぶので,上空で太陽の前を横切ることがある。

 
4.太陽スペクトルの観察

 太陽のスペクトルを観察させるには,プリズムさえ用意すればよい。また,フラウンフォーファー線を観察させるには直視分光器で十分であるが,シーロスタットを利用すれば簡単に非常に明るいスペクトルと小さいながらもフラウンフォーファー線を投影することができる。下の写真は五藤光学のHM25mmの接眼リングに直視分光器をエポキシ接着剤で取り付けたものである。

(1) スペクトル
 スリットを全開にすると,非常に明るく鮮やかなスペクトルが観察できる。この像を利用して,赤外線および紫外線の説明をすると実感を持って理解してくれるようである。下の写真は幅1m程のスペクトルである。

(2) フラウンフォーファー線
 スリットを少しずつ閉めながら,直視分光器のピントを合わせていくと,少しずつ暗線が見えてくる。スリットを絞るので暗くなり,大きな像にできないのは残念だが,フラウンフォーファー線の説明をするには十分である。この像を見せた後に,直視分光器を配れば,自分で明るいフラウンフォーファー線を見ることができるはずである。

 ただし,直視分光器のアミチプルズムを接着しているバルサムは熱にあまり強くないので,長時間の観察には向かない。

 
5.スケッチ

 スケッチをさせる際にも,太陽投影板よりシーロスタットの方がスケッチ用紙をよく固定できるので,スケッチしやすい。下の写真は,ケルナー25mmの接眼レンズを利用して,直径15cmのスケッチを描いているところである。

 
6.今後の課題

(1) シーロスタットの入手
 五藤光学では,10年ほど前からシーロスタットを製造していない。上述のように太陽観測には極めて有効なのだが,学校にない場合は手に入れようがない。残る方法はどこかのメーカーに特注するか自作するしかないであろう。どこかのメーカーで安い価格で生産してくれることを切に願っている。

(2) Hα光での観測
 Hα光で観察する太陽は,ダイナミックで美しい。しかし,フィルターがあまりにも高価で購入できそうもない。そこで,デジタルカメラをもってHαフィルターを備えた施設に遠征するしかないのである。下の写真は,さしま郷土館ミューズの20cmクーデ式望遠鏡に9cmのコロナドフィルターをつけて写したものである。

(3) シーイング
 拡大率が大きくなるために,シーイングの悪い日はどうしても大気による揺らぎが大きくなってしまう。そのような場合には,天井や床に太陽像を投影し,拡大率を下げるしかないようである。

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