情報目次へ(下)新科目「情報」の授業実践と教授法の開発

鳥取県立青谷高等学校  足 利 裕 人

 本校の「情報」の初年度(平成11年度)は,電子メールやWebの活用を取り入れた,「情報活用の実践力」に重きをおいた展開を試みた.しかし,今年度は,コンピュータについてさらに理解を深めたいと考え,「情報の科学的な理解」を特色とする「情報B」の内容を取り入れることにした.学習指導要領では,情報Bはコンピュータの仕組みと問題解決が主テーマであり,前半の中心となるディジタル化された情報のコンピュータの内部表現と,その処理の仕組みの実践に,仮想コンピュータの概念を取り入れた教材を準備した.またアルゴリズムと,モデル化とシミュレーションについては,高校生にとって身近な例を考え,視覚化を中心とした教材の開発や,参加型・体験型の演習を取り入れた指導方法を考案した.

○ 授業の内容と展開

1「仮想コンピュータ」教材の開発

 0と1の二値情報が,コンピュータで処理される仕組みを学習するためには,CPU(中央処理装置)の働きを理解することが必要になる.導入としてパソコンから取り出した実際のCPUを,スクリーンへ拡大表示し,また各生徒へまわして実際に触れさせる.この後,図解を呈示し,CPUに接続された記憶装置などの配置や,それらを連絡するバス(データなどの情報が通る配線)について指導する.
 展開として,簡単化したコンピュータである仮想コンピュータについて,開発したシミュレーション教材(啓林館「物理IA改訂版」p.124「計算の仕組」を元に構成した教材)を観察しながら学習し,それに基づいてロールプレイングを行わせる.
 仮想コンピュータのシミュレーション教材では,図1のようにプログラムカウンタ,命令レジスタ,演算レジスタが,それぞれ進行役,司会役,実行役のロボットに扮する.進行役のプログラムカウンタが指示する番地へ司会役ロボットが出向き,プログラム領域の命令を解読したり,データ領域のデータを読み上げたりして,実行役ロボットに指示を出す.この指示に基づいて,実行役ロボットは計算を行い結果を返す.各ロボットの行動は,実際のコンピュータの動作を忠実に再現しており,コンピュータの処理の仕組みをイメージ化するのに適している.また各ロボットの働きは,そのまま生徒が役割を演じることが可能で,体験参加型の授業展開がしやすいようになっている.


図1 演算レジスタの作業

 生徒はあらかじめ配布されたプリント教材に各命令や,データの変化を予想して書き込み,アセンブラによるプログラムを完成させる.また2進表示のプログラム領域やデータ領域部分についても,予想できる範囲で完成させる.次に仮想コンピュータのシミュレーション画面を繰り返し観察し,自分の予想が正しかったかどうか調べる.また,それぞれのレジスタの動きや,逐次動作で命令が実行されている様子を観察する.
 この仮想コンピュータの処理の仕組みが理解できたかどうかの評価に,図2のように生徒が3名ずつグループを作り,各ロボットの役割を演じるロールプレイングを行う.プログラムカウンタの役は,司会役がボードに張り付けられた命令の札を読み上げる瞬間を注意しながら,読み上げられるとすぐ,自分の持つ日めくり式の数字札をめくって,次の実行を示す.命令レジスタの司会役は,プログラムカウンタに指示された番地のプログラム領域のボード上の札に書かれた命令や,データ領域の数値を指示棒で示しながら読み上げ,実行役に正確に伝える.実行役は演算レジスタとして,ペンと白紙の計算用紙の入ったトレイとゴミ箱を準備している.司会役の指示に従って,計算過程を口頭で伝えながら,計算を行う.演算レジスタに記憶されたままになる数値は,紙に書いてトレイにしまい,不要になった数値は,用紙とともにゴミ箱に捨てる.適宜役割を交代することにより,理解を深める.


図2 ロールプレイングの様子

2アルゴリズム,モデル化とシミュレーション教材の開発

 初学者にとってまず,アルゴリズムは難しいという印象を取り除くのが最大の課題である.「情報B」では並べ替えと探索を取り扱うこととなっており,実際に生徒達数名の班を作って,自分たちで背の順に並ぶ方法を考えさせ,発表させた.隣り合う者同士で位置を交換していったり,一人が全体の生徒と順に比べたりと,よく知られたアルゴリズムに近い方法を考案する班も出てくる.また,数字の書かれたカードで並べ替えや探索を行う指導を実践し,教材化した(図3).
 高校生の日常生活で,学校祭の模擬店の準備や年賀状のように,作業が分担でき,日程表を工夫することによって効率が上がる題材がある.また,登校日数が少ない月に,最も経済的に電車を利用する乗車券の購入方法の問題や,「この機種は高機能だが高価だ.安価なものは機能が低い.自分はどれだけの機能が必要なのだろうか」といった,「あちらがたてば,こちらがたたない」という身近なトレードオフを伴う問題解決が実感できる題材を選び,日程表を作らせたり,モデル化を行って,表計算ソフト上でシミュレーションを作成し,比較させたりした.


図3 並び替えのアニメーション教材

○ 生徒の感想,課題等

 授業を補助する分かりやすいアニメーション教材の開発や操作マニュアルの作成,および,今回のロールプレイングのような参加型指導方法の改善など,この1年半の実践を通して,多くの課題が見えてきた.人前でのロールプレイングを恥ずかしそうに行う生徒は多いが,授業後の感想は,楽しく興味深く学習できたと良好である.情報機器を用いたプレゼンテーション能力の育成が叫ばれる今日,実際に身体を動かしながら学習を深め,またプレゼンテーションを行うような参加型授業スタイルは,どんどん取り入れる必要がある.

○ 参考

 仮想コンピュータは,8ビットの基本的な構造のコンピュータである.記憶装置にプログラム領域とデータ領域を持ち,CPUにプログラムカウンタと命令レジスタと演算レジスタの3つのレジスタを持つ.このコンピュータは命令を8通り持つが,ここでは2つの整数の和の計算を行うだけなので,以下の4個の命令のみ学習する.
 LOAD N(変数Nの値を演算レジスタへコピーする)
 ADD N(演算レジスタの値に,変数Nの値を加える)
 STORE N(演算レジスタの値を,変数Nのデータ領域にコピーする)
 HALT(実行をやめる)
それぞれの命令の説明は,それぞれの2進表示とともに図4の解説アニメーションで学習する.


図4 命令解説のアニメーション

参考文献
高等学校「物理IA改訂版」 啓林館
足利裕人 情報補助教材CD-ROM「コンピュータの仕組み」 大日本図書

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