メディア社会と情報教育
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インターネットは,人と「つながる」ための道具である
静岡大学情報学部助教授
堀 田 龍 也

1.電子メールで「つながる」

 電子メールをはじめて足かけ14年になる.当時はパソコン通信の出始めで,しかも回線速度は現在のISDNのおよそ200分の1であった.
 それでも,時間と距離を超えて情報交換ができるというのは画期的だった.筆者は当時,小学校教諭だったので,学習指導案の添削,教育ソフトの共同開発,電子メールでの研究会の運営,沖縄やハワイの小学校との交流学習など,思いつく限りの実践研究を試してみた.
 これらの経験からわかったことは,電子メールというツールは,「会うことがある人との関係を,より深くする」ものであるということである.
 サイバースペースは,相手に顔が見えず,実際に会わずしてバーチャルな会話をしたり,そのために従来では会うことがないような人とも接触できるようなイメージがあった.14年間の経験の中には,確かにそういうことも少なからずある.しかしどちらかと言えば,たびたび会っている人たちとの関係を,会っていない期間も電子メールで補完し,相手との関係をより密接にするツールとして機能することが多かったように感じる.
 その証拠に,おもしろい実践は,何度も相手と会ってお互いをよく知り合うことから生まれていったし,現在電子メールを交換している相手のうち,まったく会ったことがない人はほとんどいない.実際に会って,議論して,時には一杯飲んで,その議論の続きを電子メールで進めてきた.逆に電子メールで情報を交換しあっていれば,会ったときにはすぐに本題から入ることができた.
 たとえきっかけが電子メールだったとしても,いずれその人と会い,そしてその後も関係が続けられる,そういうツールが電子メールである.

2.Webページで「つながる」

 自分のWebページを持ったのは,今から7年前のことである.自分の考えや,やっていることをいったいどこまで書いてよいのか,とまどったことを思い出す.こんなことを書いても読んでくれないのではないか,あるいは笑われるのではないかという不安が少なからずあった.
 Webページを持つことによって,自分の情報が世界中に広がるような印象があったが,結局,筆者のWebページを見てくれる人は,よく知っている人がほとんどであった.一時期,サーバーにしかけをして,どのドメイン(インターネット上の住所)から筆者のWebページにアクセスがあるかを記録して分析したことがあったが,自分の研究室の学生3割,地元の現場の先生4割,友だち1割,自分が1割で,判断ができないアクセスは1割に過ぎなかった.知らない人があまり訪れていないことに,思わず苦笑した.
 Webページは,「知らない方々にお知らせする」ツールという側面は確かにあるものの,訪問してくれる人は,すでに何らかの関係がある人か,あるいはWebページを見てくれたことによってその後,関係ができていく人であるということだろう.Webページもやはり,「会うことがある人との関係を,より深くする」ものだと考えた方がよいのかも知れない.
 官公庁のような情報,観光協会のような情報を,個人がWebページで発信できることはまれである.むしろ,仕事と生活の狭間のような情報,どちらかといえば私見も含んだ情報を,ある程度理解してくれる人たちに向けて発信している例が多い.ちょっと人間くさい情報が,マスメディアとは異なる魅力だと思う.

3.リアリティーが伴うということ

 かつて,「テレビゲームはバーチャルで,人の心をダメにする」という言い方があったが,現在の多くのゲームは,よりリアリティーを伴うものになっている.実際に自分がダンスをしたり,車の運転をしたりするゲームは,一度やってみればわかるように,実は現実の自分の能力をより高めるためにバーチャルの世界を利用しているのである.
 これがコンピュータと人間との上手な共存の仕方なのかも知れない.
 インターネットも,その操作はどんどん簡単になり,そのうち,いつアクセスしているのかわからないぐらいになるだろう.大切なことは操作法の習得ではなく,これらのメディアを活用して,どうやって相手と「つながる」ことができるのかだということに,多くの先生方や子どもたちが気づいていくだろう.
 実際,テレビ会議で交流学習を進めている学校では,お互いを知り合うほどに学習が深まることを体験している.その時,テレビ会議の機械の操作法を教えることが学習目標ではなく,テレビ会議を通してやりとりされる情報を,お互いが価値があると思って大切に交換しているのである.その時の便利な道具がテレビ会議なんだということを,身をもって知っていくのである.
 相手のリアリティーを感じるためにメディアを使う.そんなことが当たり前になる時がまもなくやってくる.情報教育は,そのことを意識して進められなければならない.

Eメール:horita@horitan.net