情報目次へ高校における情報教育(1)

静岡大学情報学部教授 永野和男

新しい酒には新しい革袋を

 1999年は高等学校の先生にとって注目の年であった.平成15年度から実施される新しい学習指導要領が検討・発表される年だったからである.学習指導要領の改訂はおよそ10年おきに実施されており,さほどめずらしいことでもないが,今回は少し異なる.規制緩和の時代に入り,教育の目標や仕組みも大きく変化しつつある.特に普通教科「情報」の新設が目をひく.高校において新しい科目ではなく教科が設置され,しかもそれがはじめから2単位の必修教科(情報A, B, Cの3科目のうち1つ以上を選択必修)と認められたのは,きわめて異例なことである.時代の大きな流れを感じる.
 教科が新設されたということは,それを教えるための新しい教員免許が必要になる.文部省では,課程認定や集中的な教員研修を実施して,平成15年までに必要な教員数を確保すべく免許の交付計画を進めている.巷でうわさされているような「理科や数学の授業で当面代行する」という処置はとられない.すべての高校で情報 A, B, C を新設する必要があり,「情報」の免許をもった教師を平成15年4月までに確保しなければならない.幸い,「情報」の免許取得を希望する教師は多いので,さほど心配する必要はない.
 では,どのような教師が研修によって「情報」の免許を取得できるのか.この点については,近々その方針が検討されるが,内容から見て,情報系の学部や学科を卒業し,すでに数学や理科,工業数学などの教科の免許を取得している現職教員が最も近い位置にいると考えられる.なぜなら,情報科学の基礎やアルゴリズムとデータ構造,データベースなどの原理や構造などの専門的な知識を必要とするからである.
 しかし,他の教科の担当者も無関係ではない.「情報」は,情報科学の専門科目でも,プログラミング演習を中心とした情報処理教育の延長線上の科目でもない.しいていえば,「情報活用」を軸として,その背景となる原理や仕組み,社会的な影響などについて演習や討論などを中心として学習を進める,まったく新しい概念の教科である.情報の基礎だけでなく,マルチメディアによるデザイン,作品制作,インターネット利用による社会調査などについても幅広い知識と指導できる技術が必要とされる.まさに教師自身が情報社会で生きぬいていくための能力が要求されるのである.
 新しい酒には新しい革袋を.ここでも,教師の自己改革が求められている.