情報授業実践記録
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『Webページのコンセプト』を
考える授業の実践
−言語活動の充実とネット活用の融合−

埼玉県立朝霞高等学校
春日井 優

 
1.はじめに

 平成21年3月に改定された高等学校学習指導要領の総則では,教育課程の実施等に当たって配慮すべき事項として「各教科・科目等の指導に当たっては,生徒の思考力,判断力,表現力等をはぐくむ観点から,基礎的・基本的な知識及び技能の活用を図る学習活動を重視するとともに,言語に関する関心や理解を含め,言語に対する能力の育成を図る上で必要な言語環境を整え,生徒の言語活動を充実すること」(第1章第5款の5の(1))というように,生徒の言語活動の充実が挙げられています。
 これまで私は情報科の実習においてさまざまな作品を制作させてきましたが,作品を制作するという点に重点を置いてしまっていると感じながら授業をしていました。これまでも生徒が作品のコンセプトや内容の選定理由というような作品の制作意図を言語化させることは行っていましたが,指導は十分ではありませんでした。このため,よい作品を制作する生徒であっても,残念ながら自分の作品の言語化が十分にできない生徒が多数いました。
 今回の学習指導要領の改訂を機に,「作品のコンセプト」という抽象的な概念を言語化することと,グループによる討論を行うことで,より言語活動が充実する指導法のひとつの提案を行い,その授業実践の報告を行います。

 
2.授業実践

(1)本内容の授業での位置づけ

科目 情報C
内容 Webページの制作「○○の紹介」(○○の部分は各生徒が決める)
授業計画

課題の提示・Web ページの作り方
コンセプトを考える
テーマの決定・ページの検討
Web ページの作成
相互評価
Web ページの修正
修正したWebページの相互評価

       計  

1時間
2時間(本内容はこの部分)
3時間
5時間
4時間
3時間
4時間

22時間

対象 全日制 普通科 1年次生 40名
実施時期 9月〜12月(クラスによっては1月中旬まで)
場所 コンピュータ室

(2)授業の流れ

[1] コンセプトとは何か?

 CMの映像を見せ,コンセプトという言葉・考え方を説明します。
 (ねらい)コンセプトという言葉を初めて聞く生徒がほとんどです。そのような生徒に対して,ものづくりから広報活動まで一貫してコンセプトに基づいて企業活動が行われていることを理解させることにより,コンセプトの重要性を理解させます。併せて,生徒自身がWebページを作成するときに,コンセプトを持って作品を制作することが必要であると認識させることを目的としています。

[2] コンセプトを考えよう 1

 専門学科を持つなどの特色のある高校のWebページを見せ,そのWebページのコンセプトを考えさせて言葉にさせます。回答方法はWebを利用したアンケートシステムを利用します。アンケートシステム上のリンクをクリックすることによって,高校のWebページが個々の画面に表示されます。生徒はそのWebページを見て,アンケートシステムに回答します。全員が回答し終わったら,集計結果を中間モニターに表示して生徒の回答を確認します。ここでは,特色のある学校のWebページを利用したため,生徒の回答は概ね似たような表現のものが並びました。
 (ねらい)特色のある高校のWebページを利用することにより,Webページのコンセプトを言語化しやすいと考えました。これにより,コンセプトという抽象的な概念に不慣れな生徒でも比較的言語化しやすいであろうと想定し,言語化することに慣れさせることを意図しています。高校のWebページを利用したのは,生徒にとって日常生活している場所であるので,本校の様子との比較により差異を見つけやすく言語化しやすいと考えたからです。
 今回利用したアンケートシステムの特徴として,生徒が全員回答したかどうかが確認できること,回答後すぐに集計を行い表示できること,集計には氏名が表示されないことが挙げられます。これらの特徴によって回答することに対しての心理的ハードルを下げ回答することへの抵抗感を弱めることができ,確実に全員に回答させられると考えました。

[3] コンセプトを考えよう 2

 乳製品メーカー数社のWebページを見せ,それぞれのWebページのコンセプトを考えて言葉にさせ,アンケートシステムに回答させます。全員が回答し終わるまで待ちます。
 (ねらい)生徒がコンセプトという概念に多少慣れたところで,さまざまなWebページを見て,それぞれのWebページがどのようなコンセプトで制作されているかを考えさせたいと考えました。乳製品メーカーのWebページを選んだのは,消費者として特定のメーカーに思い入れを持っているということも少ないと考えたこと,各メーカーの製品の差がわかりにくいこと,そのため商品パッケージやWebページなどに商品の差や企業イメージなどを反映させているはずであると考えたからです。また,各社のイメージカラーが赤,青,黄色などといった異なる色が使われており,題材にすると多岐におよぶ回答が期待できると考えました。

[4] コンセプトを反映させる方法を考えよう

 コンセプトになりうる言葉を提示し,その言葉を反映したWebページにするための工夫を3つずつ挙げ,回答させます。今年度は言葉として「暖かい」,「高級感」,「希望」を取り上げました。
 (ねらい)Webページの制作という授業の一環として,「コンセプトを考える」という授業を行っています。先の「コンセプトを考えよう1・2」では,Webページからコンセプトを言語化するということを行いました。しかし,Webページの制作という授業で行いたいのは,他者に伝えるときにどのようなコンセプトで伝えるとより伝わるのかということを考えて,そのコンセプトを実際のWebページに反映させて制作させることです。そのため,生徒が内容にあったコンセプトを設定し,そのコンセプトを具現化することができるように指導したいと考えています。そのためにコンセプトをWebページの制作に反映できる方法を考えさせて回答させました。

[5] コンセプトを検討しよう

 4人1組のグループをつくり,「コンセプトを考えよう2」で取り上げたWebページから1つ,「コンセプトを反映する方法を考えよう」で取り上げた言葉から1つを選んで,グループ内で意見交換を行い,グループとしての結論をまとめます。相談するときには,アンケートの回答結果を参考にしてもよいものとしました。また,グループの結論には必ず理由を明確にするように求めました。
 (ねらい)同じWebページや言葉であっても,他人と捉え方が異なっていることを生徒に認識させた上でWebページを制作させたいと考えていました。アンケートの回答結果を見ることでも差異は感じられるが,他の生徒との討論を行うことでWebページを制作する場面で,より伝わるために必要なことを生徒が考えるようになると期待したことによるものです。

[6] 発表

 グループで検討した結果を各グループの代表が発表します。

(3)授業を実践したときの様子

写真1
 写真1はCMを生徒に見せているときのものです。教材研究でいくつかのCMの映像やWebページを検索して,授業の展開に合わせて選定しているのですが,CMの放映時期が終わってしまいWebからCMの動画がなくなってしまったり,企業のWebページ更新によりWebページの構成が大きく変わってしまったりというような予想外(?)の展開が生じることがあります。授業の展開に支障が生じないよう,教材準備の際に意識しておく必要があります。
 写真2はWebページを見て生徒がコンセプトを入力しているときのものです。入力結果が匿名で集計されるため,心理的抵抗が少ないので全員が何らかの意見を入力しました。集計時に匿名ではありますが,無関係な入力などをしてもすぐに入力した生徒が特定できることも伝え,情報モラルを意識させることも行っています。
 図1は入力した意見を集計したものです。入力結果がデータベースに蓄積されるため,生徒の入力が完了した時点ですぐに集計し結果を表示することができます。即座に全員の意見を見ることができるため,生徒は驚いていました。紙ベースでは,集計の手間がかかり即時に生徒へのフィードバックを行うことが困難です。また,生徒の意見を即時にフィードバックする方法では,挙手または指名により生徒に発言させることが従来では行われていましたが,限られた人数しか行うことができないので,より多様な意見を多く取り上げるにはネットの活用が有用と思われます。
写真2 図1

 写真3はグループで検討しているときのものです。ディスプレーに表示されたクラス全員の意見を見ながら,Webページのコンセプトが何であるかを相談している様子です。
 本校のコンピュータ室の机の配置が討論に向いていないということもありますが,あまり議論を活発にできず1人か2人で意見をまとめてしまうというグループも多く見られました。討論を活発に行わせるためには,更なる工夫が必要であると感じました。

写真3 写真4

 写真4は代表者の発表の様子です。コンピュータ室は広く,またコンピュータのファンの音などにより声が伝わりにくいということもあり,生徒の発表はワイヤレスマイクを使用して行いました。マイクの感度を上げておいたので,小さな声の生徒でも全員に聞こえました。しかし,下を向いてしまったり,聞いている生徒の方を向かないで発表したりという発表者もいたため,発表の仕方についての指導を改めて行う必要があると感じました。

(4)評価について

 本授業においては,Webページからコンセプトを考え言語化できたかどうか,コンセプトを反映させる方法を言語化できたかどうかを,生徒個人に評価をさせました。評定を付ける際には反映させていません。
 Webページの制作の一環の授業の中では,コンセプトを明確に定義できたかどうか,できあがったWebページとコンセプトの一致度はどうであるかという観点で,生徒間の相互評価を行わせています。こちらの評価は他の項目の評価と併せて評定を付ける際に含めています。

(5)一昨年・昨年の作品との比較

 一昨年はコンセプトについてCMを通して説明しただけでした。昨年度はCMを見せ,いくつかのWebページのコンセプトをアンケートシステムに入力させ,その結果を中間モニターに表示して目立った回答に対して私がコメントをするといった形での指導でした。これらの2年間との比較をすることで,今回の授業の効果を考えてみたいと思います。その方法として,生徒が制作した作品のコンセプトを読み比べ比較をしたいと思います。
 一昨年度の傾向として,「知ってもらう」ということを書いていた生徒が多数を占めました。紹介するためのWebページを制作したので制作の目的にはなっていますが,残念ながら制作意図といえるものは少数でした。
 昨年度の傾向としては,「やさしさを伝える」「カラフルなページ」「幻想的」といったページの印象を制作意図として書かれたものが大幅に増えました。生徒がコンセプトを考え,言語化して表現するという経験は有効であると思われます。
 今年度の傾向は,「やさしさを伝えるために暖色系を使う」「写真を多く入れることでわかりやすくする」「明るいイメージになるように色やマークで賑やかにする」などの制作意図と具体的な実現方法を併せて記述するものが目立ちました。これは「(2)授業の流れ [4] コンセプトを反映させる方法を考えよう」として,今年度新たに追加した部分の効果があったのではないかと思います。
 コンセプトの部分の文章を読んだ主観的な感想でしかないので,今回の授業の効果とはっきり申し上げにくいのですが,指導を行うことにより生徒が制作意図を考え,具体的な実現方法と結びつけて記述できるようになるのに有効だったのではないかと考えています。しかし,コンセプトを考える授業を行うことで,生徒が制作意図をこれまで以上に言語化することができるようになるというように結論付けるためには,より正確な検証を行う必要はあると思います。
 現状では,残念ながらまだ生徒がコンセプトについて十分に理解しているわけではありません。生徒がコンセプトとは何かを理解し,作品の制作意図を明確にし,具体的な実現方法を考えてWebページなどの作品制作を行うことができるよう,さらに授業の展開を工夫することが必要であると思い,これからも継続していきたいと考えています。

 
3.おわりに

 今回のコンセプトについての学習はWebページの制作の一環として行いました。しかし,プレゼンテーション,動画の制作といった情報機器を利用した情報伝達の場面だけでなく,ポスターなどのように紙媒体を利用したものも含め,自己の考えや感情を表現したり,他者に何かを伝えたりといった場面でもコンセプトを明確にして他者に伝えるということは必要であると考えられます。
 ここに挙げた言語活動の充実は,「受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力という情報活用の実践力」を身につけさせるとともに,「自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法という情報の科学的な理解」を高めることにも有効です。そのため,より有効な言語活動を今後も検討する必要があります。
 情報の授業での実習は作品制作に重点が置かれてしまいがちです。情報科が実施されてから早8年が経ちました。そろそろ情報科の実習が作品制作させることが中心の実習であることから脱却して,制作や伝達の意図というものを明確にした上での作品制作を行うということに授業の重点が移ってもよい時期だと考えています。このような取り組みが,「読み・書き・計算に並ぶ4番目の基礎力」を身につけさせる実習,すなわち「国民必須の素養としての情報活用能力」を身につけさせる実習の発展につながるものと確信し,本実践がその一助となることを願っています。