情報授業実践記録
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県立学校における
グループウェアの利用状況調査

富山県総合教育センター 研究主事
田原秀弘

 
1.はじめに

 2009年11月現在,富山県内の県立学校(高等学校及び特別支援学校)59校のうち,高等学校48校には,教師1人に一台のPCが配置され,インターネットへの接続に加え,ファイルサーバによる情報共有を行っている。
 一方,新学習指導要領「教育の情報化に関する手引」(文部科学省)では,第6章 校務の情報化の推進,第1節 校務の情報化の目的のなかで,『校務の情報化として「グループウェア」が整備されれば,一層,仕事の効率が上がる。』『グループウェアの掲示板によって,朝・帰りの職員打合せを短時間で終えたり,打合せの回数を減らしたりすることができ,児童生徒とふれあう時間や提出物の点検や教材・教具の準備を行う時間を生み出している。』など,教諭,管理職などの立場に応じた効果を列挙しており,グループウェアの導入を強く奨めている。
 そこで,この研究では,2つの調査を実施した。まず,富山県内の全県立学校(高等学校及び特別支援学校)59校におけるグループウェアの導入状況,利用状況,効果をまとめるため,ネットワーク運用担当者に電子メールと電話で調査した。さらに,効果的・効率的に活用されている県西部のF高等学校において,導入効果,先生方の感想,利用浸透のノウハウなどをアンケートし,ネットワーク運用担当者への聞き取りを通して,詳細に調査した。本結果を,未導入校や,導入はしていてもまだ利用が進んでいない学校に紹介し,その利用拡大に役立ててもらいたいと考えた。

 
2.調査方法

(1) 調査A

○対象
富山県内の全県立学校(高等学校及び特別支援学校)59校のネットワーク運用担当者
○時期 平成21年5月〜6月
○方法 電子メール,電話による聞き取り
○内容

・グループウェアの導入状況
・導入校に対して,
  利用状況(機能)
  導入効果
  利用拡大のノウハウ
  その他意見
・未導入校に対して,
  導入しない理由
  導入に向けての動き

(2)調査B

○対象 県内F高等学校
○時期 平成21年6月
○方法 職員へのアンケート
ネットワーク運用担当者への聞き取り
○内容 ・グループウェアの効果など
 
3.調査結果

(1)調査A

■グループウェアの導入状況 ■利用している機能(導入済み校)
(数字は校数) (数字は校数)

■グループウェアの効果(導入校)
校務運営に欠かせないツールである。
日常的にグループウェアが活用され,校務の基幹システムである。
机上ですぐに情報の確認や発信ができるので便利である。
時間や紙資源の節約にもつながる有用なツール。
業務の効率化につながっている!
導入していない学校に対する啓発はぜひ行うべきである。


■活用されている機能(導入校)
学校全体・分掌への連絡・メール・施設予約・To-doリストなどで利用されている。
スケジュール調整,掲示板,Webメール,施設予約等は良く活用されている。
会議室等の利用予約,行事の担当者への連絡などで利用している。
「日課変更を見るためにはグループウェア」という習慣が職員についている。
朝礼の時間を有効に使うために,掲示板を利用している。


■導入が進まない理由(未導入校)
教科指導,部活指導,進学指導などで日々,忙殺されている。
習得する時間・スキル・余裕がない。
専任職員の確保が絶対条件である。
管理者の負担がネックである。
先生方の意識を変えるための研修が必要。
紙ベースでないと駄目なものもあるのでは?


■導入へのアドバイス(導入校)
1人1台PCの時代にWordとExcelしか使わないのもおかしい。
便利さを体験して,浸透を図る。
「簡単」「便利」「手間が省ける」「楽できる」などの即効性が必要である。
最初の1歩を踏み出すことが大事である!
管理職の理解と積極的な活用があるかどうかにより,その学校での浸透度が 大きく違ってくる。

(2)調査B

■グループウェアの効果 ■利用している機能
(数字は%) (数字は%)

■グループウェアのメリット
コミュニケーションが取りやすくなった。
職員室の離れた先生とも繋がる感じがする。
都合の良い時間に見られるし,見直すことができて便利である。
回覧板機能で,意見が聞きやすくなった。
出張伺が簡素化されて良かった。
起案書などを管理職の机まで持っていかなくていいので便利である。

ワークフローはとても良い。

回覧板は便利!
文字で残っているので,忘れにくい。
電話や紙より,連絡が的確で速い。
ちょっとした連絡でも,手軽に送れて便利。
本校では,必要不可欠ではないか。
簡単なことはグループウェア!という感じで,朝の打ち合わせや,会議の時間が短くなった。職員会議は,1時間未満で終わることが多い。


■デメリット
情報の見落としが心配である。
情報が速すぎて,ついていけない。
スケジュールに入力する作業が増えた。
 
4.6つの利点

(1) コミュニケーション・ツール
 導入されている学校では,重要な情報ばかりでなく,ちょっとした連絡も机上で手軽に送受信され,教師間のコミュニケーション・ツールとして,大きな役割を果たしていた。情報伝達のICT化により,教員同士のフェイストゥフェイスの関係が希薄化するとの懸念も考えられたが,聞き取りによれば,“手軽さ”が情報伝達頻度の増加と,伝達対象の拡大をもたらし,その懸念を払拭していることがわかった。

(2) 情報伝達の確度向上
 受け取った情報は,結果的にネットワーク上に情報が保存されており,ポータルからいつでも再確認できる。付箋機能,To-doリスト機能などを用いてアクセシビリティを高めることで,電話や紙より,情報伝達の確度が向上していた。
 また,回覧・インフォメーション機能により発信した情報は,削除や訂正が容易なので,誤送信の防止,情報の更新による鮮度維持に役立っていた。

(3) 朝礼,会議の縮減
 連絡事項や簡単な指示などは,インフォメーション機能を用いて流されており,会議の縮減,朝礼の削減が実現されている。例えば,F高等学校では,「詳細はグループウェアで確認下さい。」との連絡が日常化し,職員会議が1時間未満で終わっていた。多忙化が指摘されている昨今,生徒と関わる時間の拡大に貢献度は大きいと考えられる。

(4) 紙の減量
 F高等学校のアンケート結果からわかるように,職員の意識として,「紙の減量」が実現されている。連絡メモを作成し,コピーして(時には枚数分手書きして),職員個々の担当箱や机上に配布する場合に比べて,その効果は目に見える形であることがわかった。

(5) 時間と労力の節約
 F高等学校では,「県内出張伺」とその「復命書」,「冷暖房使用願」が,ワークフローで電子決裁されていた。職員が複数の職員室に離れており,管理職への稟議書の提出には,時間と手間を要していたようだが,電子決裁の実現により,効率的な情報伝達が実現されていた。
 また,導入前は,出張や休暇等の情報は,本人,教務担当,管理職,事務方などが重複して記録されていたが,情報の一元化によりグループウェア上で共有され,校務の効率化が格段に向上していた。

(6) メンテナンスの容易さ
 ネットワーク運用担当者は,異口同音に「年度当初以外は,ほとんどメンテナンスの必要がない」と答えている。また,一般企業向けであるグループウェアは多くの機能を有しているが,学校現場では利用する機能が限られており,使い方の周知は図りやすいようで,担当者の負担は予想以上に軽いこともわかった。

 
5.結論

 「本校では必要不可欠」「校務の基幹システムである」との意見に象徴されるように,グループウェア導入校では,「校務運営に欠かせないツール」となっていた。紙の減量が実感されており,ワークフロー,回覧板等の機能による情報の共有,会議や打ち合わせの縮減など,校務の効率化も進んでいた。グループウェアが,今までにない情報の流れを校内にもたらし,教師間の円滑な連絡,効率的な事務処理の推進に大きく貢献し,校内LANの活用が拡大していた。
 一方,導入されない,あるいは,利用拡大が進まない学校からは,職員の多忙な現状,スキル向上のための研修等の充実,意識改革の必要性などが指摘された。また,グループウェアが日常業務に浸透しているはずのF高等学校でも「生徒と関わる時間が拡大した」と感じている職員は,半数以下に止まっていることもわかった。節約された時間と労力が,他の事務的業務に使われ,生徒に振り向けられていない懸念もある。
 この調査をもとに,グループウェアが校務の効率化,紙の減量等に大きく役立つツールであること,コミュニケーション・ツールとして,職員間の意思疎通の向上につながること,などを周知し,未導入校への普及を図るとともに,導入はしていてもまだ利用が進んでいない学校の利用拡大に役立ててもらいたい。
 
6.今後の展開

 富山県では,2006年4月より,学校内の職場環境向上を促す「とやま学校パワーアップ方針」を定め,質の高い教育の提供につなげることを目指している。業務の合理化の推進を謳う中で,「業務のIT化(校内LAN,共有フォルダの活用など)」をすすめ,教員の「ゆとり」の確保で,教員が生徒と向き合う時間を確保することをねらいとしている。グループウェアは,その方策の一つとして注目されている。
 県総合教育センターでは,現在,1人一台PCの有効活用の観点からも県立学校全校への配備に向けて努力しているところであるが,各学校,関係各方面にグループウェアのメリットを具体的に説明し,情報提供するなどして,導入・利用拡大を図っていきたい。また,導入校に対しても,ネットワーク運用担当者との連携を密にし,学校規模,ネットワークポリシー,職員のスキル等の状況に応じた運用フォローを実施していきたいと考えている。
 
7.参考文献

・「教育の情報化に関する手引」(文部科学省)
・「とやま学校パワーアップ方針」(富山県教育委員会)