手作り電池をつくってみよう
大阪府堺市立大浜中学校
富岡 俊彦
E−mail tomi@y7.net
1.はじめに
 「日々の授業実践の中で,電気学習では,特に,生徒に興味を持たせ続けることが大切である。もっともこれは困難なことでもあるが。」「興味を持続させる手段として,労を惜しまず,手作りの実験・実習をさせることが必要」と考えられる。とりあえず,「青少年の科学の祭典('97東京)」の実験解説集を資料として検討した。その中から,実習教材として授業に使えそうな「手作り電池」を選び,簡易活性炭電池を試作した。材料としてはフィルムケース・くぎ・アルミ箔・活性炭などを用いる。1個の起電力は約0.8Vで,電池をショートさせたときの電流は50mA程度であった。この性能では,2個直列にしても普通のモーターや豆電球を動作させるには無理だが,太陽電池用モーターや音楽モジュールなら動作させられる。簡単な作業なので,授業中生徒に作らせることはできる。
 この電池の電極をアルミ箔からマグネシウムに変えて試してみたところ,電池としての性能が向上し,豆電球や模型用モーターも働かせることができるようになった。
 電池は2年生の電気学習の最初と3年生のイオン学習で登場するが,この電池製作は,2年生の電気学習の電圧・電流の学習を終えて,オームの法則を学習させる前に行うのが効果的と思う。電池の性能を電圧・電流の測定技術をもってより詳しく調べられるし,電圧・電流の概念の定着を期待できる。オームの法則を学習する前に電気学習に興味を持たせることは,意義があると考えられる。

2.マグネシウムと鉄を電極とした電池づくりへの変遷について
  −マグネシウムリボンを使った手作り電池のテスト−

(1) 変更理由
 アルミ箔と鉄による電池は,実用性という点ではかなり劣る。
 そこで,イオン化傾向が大きくて手に入りやすく,比較的安全なものということで,アルミ箔の代わりに,マグネシウムを使うことを考案した。マグネシウムリボンは,使用に不便なので,テープ状のマグネシウムメタルを購入した。
(2) 電池の構造
今までの「活性炭電池」のアルミニュウム箔をマグネシウムメタル(テープ状で,幅3.2mm,厚さ0.24mm,長さ15p程)に切り替えたもの。
マグネシウムリボンを折り曲げ,束にする。それをキッチンペーパーで包み,フィルムケースに入れた活性炭の中に埋め込む。リボンの端は,負極の端子としてフィルムケースの外へ出す。
活性炭同士の接触を多くするため,活性炭はフィルムケースのふたを利用して,ぎっしり詰め込む。
他は今までの「活性炭電池」づくりと同じ。

3.マグネシウムメタルと鉄電極による電池の製作実験結果
(1) 起電力 1.6V
(2) 使用
 鉄道模型KATO,Nゲージ4両編成を,この電池4個直列につないで動作させた。結果として,41分間連続走行させることができた。
 走行速度約6.2cm/秒(初期時),4個直列つなぎの無負荷電圧6.2V,走行初期時の電圧5.2V,走行終期時の電圧3.9V
 使用終了時の電池内部の電解液pH値 12.5
(3) 性能について実験(1個の電池で測定)
 電圧降下の程度(ペンレコーダーでの測定)
図1は・豆電球(規格1.5V−0.3A)をつないだ場合。すぐに電圧が落ちていき,豆電球が暗くなる。
図2は,太陽電池用モーターをつないだ場合。電流量が小さいので電圧は安定している。

4.電池製作の要領
(1) マグネシウムメタルを15cm程度切り取る。
(2) フィルムケースに収まるように3重に折り曲げ,一方の端は,電極になるように長めにする。
(3) マグネシウムをキッチンペーパーで包んで,活性炭とは絶縁できるようにする。
(4) 鉄くぎをフィルムケース内に入るように,キャップから突き出るようにフィルムケースキャップに取りつける。
(5) 活性炭をフィルムケース内に入れる。
(6) 飽和食塩水を活性炭が浸るくらいに入れる。
(7) フィルムケースキャップの内側にキッチンペーパーを丸めたものをくっつけておき,キャップを取りつけたとき,活性炭を圧縮した状態になるようにする。


写真左・・・マグネシウムをキッチンペーパーで包んだものをフィルムケースに入れ,そこへ活性炭を入れているところ
写真右・・・完成した電池

5.指導過程
学習活動留意点
(1) 電池の種類について考える。
自分たちでつくった電池で何を動作させたいか考える。
 
(2) MgとFeを電極とした電池づくりの方法を学ぶ。
 
(3) 実際に製作する。
 
(4) 完成度のチェック
電圧測定の結果 1.0V程度以上あれば,各種動作実験を行う。
音楽モジュール,豆電球,太陽電池モーターなどを動作させてみる。
デジタルテスターなどを使用
アナログ電圧計では,電圧計内で電圧降下をしてしまい,測定値が小さくなる。
(5) いくつかを組み合わせてみる。
4〜5個直列につないでラジオを鳴らしてみる。
数個つないで,鉄道模型を走らせてみたい。
 

6.考 察
 まず,各電極の反応を考える。
 負極:Mg → Mg2 + 2eの反応と考えられる。
 正極:鉄が正極の根本であるが,活性炭全体も正極として働き,ここで,水素イオンに電子が渡されると思われる。水素イオンに電子が渡されると水素になり,その水素が活性炭に吸着され,水素ガスによる減極作用は起こらないと考える。
 さて,電解液として,濃食塩水を入れる必要があるが,その働きについて考えてみたい。
 おそらく,正極(鉄および活性炭)から水素イオンに電子が渡されるのに,Naイオンが多数存在することで,その効率がよくなるのではないかと考えている。正極 → ナトリウムイオン → ナトリウム原子 → ナトリウムイオン と短時間に連続して変化する中で電子が移動していき,最終的に水素イオンに渡されると考えるのである。電池としての寿命がつきる頃にpHが12.5,つまりアルカリ性になるのは,水素イオンが減って,そのため,イオン積が10の−14乗を保つことにより,水酸化物イオンの濃度が増加するからではないかと思われる。気体の発生は正極からは確認できないが,負極からは少し発生を確認することができた。
 とにかく,手軽に短時間で実用的に使用できる電池をつくることができる。生徒は,意欲的に楽しみながら実験をすることができたので,当初の目的を果たすことができたと思う。

*本研究についての紹介
 この電池製作の研究は,堺市中学校教育研究会理科部会第9研究委員会の共同研究で行ったものである。私が班長として研究を進めたものであり,他の研究委員及び理科部会監事の了解を得て,ここに寄稿させていただいたものである。


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