授業実践記録

硬貨投げはメンデルの実験を再現できるか
大阪府大阪市立大淀中学校
安東 宏

 

1.はじめに

 メンデル(Gregor Johann Mendel,1822-1884)の遺伝の法則は,子に遺伝子が受け継がれるときの組み合わせについて確率を与えてくれるものである。

 ところが,メンデルの理論で雑種第2代での表現型の比が3:1であるならば,じっさいに4個体の子が生まれると,いつも優性形質をもった3匹と劣性形質をもった1匹ができるものだと誤解されやすい。

 そこで,硬貨投げでメンデルの実験を再現し,結果にはちらばりがあること,そして多くの結果を集めれば,期待値に近い値を得ることができることを理解させたい。

 

2.メンデルの実験について

 メンデルはエンドウのいくつかの形質について実験をおこない,表1の結果を得ている。

表1 メンデルの実験におけるF2の数
優性形質 F2の数劣性形質F2の数全数F2における
劣性の割合
丸豆5474しわ豆185073242.96:10.253
黄豆6022緑豆200180233.01:10.249
灰色豆皮705白色豆皮2249293.15:10.241
緑さや428黄さや1525802.82:10.262
ふくらんださや882しわのよったさや29911812.95:10.253
長茎787短茎27710642.84:10.260
花が軸性651花が末端性2078583.14:10.241

 いずれもひじょうに多数のサンプルから得た結果である。メンデルにならって,我々の硬貨投げ実験でも1000回程度のサンプル数を集めたい。

 

3.硬貨投げとメンデルの実験

 雑種第1代がもつ優性遺伝子をA,劣性遺伝子をaで表すと,生殖細胞はAとaのいずれかを1/2の確率でもつことになる。

 いっぽう,硬貨を投げて表が出る確率と裏が出る確率はともに1/2である。

 したがって,表=A,裏=aとして2枚の硬貨投げで雑種第1代の自家受粉による受精のモデルとすることができる。

 ちなみに,我が国ではアラビア数字による額面の刻印があるほうが裏面である。

 

4.実験

 実験は2人または3人でおこなう。

@ 2人が1枚ずつ硬貨をもち,同時に投げる。
A 出た硬貨の面を記録する。
B 同じ試行を100回くり返す。
C 10以上のグループについて,結果を発表する。
D すべての結果を集計し,AA,Aa,aaのそれぞれが出た頻度を求める。





○ ○ の 硬 貨
 表(A)裏(a)
表(A)  
裏(a)  

 

5.考察

 実験によって得られた結果が,期待値とくらべてどうであったかを議論する。

■結果の例
じっさいに10円硬貨を1000回投げてみた。
下の表のように20回ずつ記録しておくと,集計しやすい。

裏裏裏表表表
5114
686
4106
4133
686
255025
裏裏裏表表表
5114
5114
686
5132
794
285220
裏裏裏表表表
668
587
3134
587
5105
244531
裏裏裏表表表
4124
776
398
497
7112
254827
裏裏裏表表表
5114
2144
497
1145
4124
166024
裏裏裏表表表
4124
776
398
497
7112
254827
裏裏裏表表表
2126
5105
785
875
686
284527
裏裏裏表表表
3125
686
497
2126
695
215029
裏裏裏表表表
686
875
2135
596
2135
235027
裏裏裏表表表
1145
5123
785
9101
695
285319

1000回合計
裏裏裏表表表
243501256

この結果から,10円硬貨は表のほうが出やすいつくりになっているといえるか。

【参考文献】
1)R.A.Wallace:『現代生物学』上巻,(東京化学同人,1991)
 硬貨投げを用いた雑種第1代どうしの交雑モデルが紹介されている。
 本実験はこれに基づいたものである。
2)F.Reif:『バークレー物理学コース5 統計物理』上巻,(丸善,1970)
 コンピュータシミュレーションをはじめ,硬貨投げ実験についての詳しい記述がある。

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