課題研究理科の指導


学習ソフト「天気の変化」の制作と授業展開
川崎市立菅生中学校
伊井 豊彦
1.はじめに

 日本の天気は変化に富み,日本の文化・芸術から産業まで大きく影響を与えている。日常生活を豊かにするためにも,日本の天気の変化について理解を深めることは大切である。近年コンピューターを利用した授業展開が増えてきている。川崎市総合教育センターにおいて,各種のソフトの開発が行われた。理科研究会教育機器研究推進委員会もこのソフト開発に参加し,日本の四季折々の天気の変化の特徴を捉えその変化の規則性を発見し理解する道具としてのソフトを制作した。

2.気象の学習におけるコンピュータ利用のねらい

 気象は日々の生活に密着した自然現象であり,身近でなじみの深いものである。しかし,生活の中ではどうしても局地的な気象現象に目がいき,空間的な広がりをもったマクロ的な目で気象現象を捉えることは十分ではない。そこで,ひまわりの雲画像などを利用しながら,広い範囲での大気の動きをつかむことから,各地の気象現象を理解し,その変化を予測する力を身につけさせたいと考えた。
 また,発展的内容として,日本の各季節の天気の特徴を,雲画像と天気図から理解し,深めさせたいと考えた。

3.ソフトの概要

 (1)  ソフトの仕様

1. コンピュータの環境:インターネットエクスプローラ5以上
2. データ量:303Mバイト程度
3. データはすべてHTML形式で記録されており,ハードにコピーして利用することがのぞましい。(CDでの利用も可能)

 (2)  ソフトの使い方と内容

[使い方]
1. エクスプローラから「天気の変化」を選択することで,タイトル画面が表示される。
2. タイトル画面には,以下の7つの項目が設定されている。
雲画像・天気図・データ
確認問題
予想問題
ガイド
検索
リンク集
年間雲画像

[内容]


1. 雲画像・天気図・データ

1) 雲画像・天気図・データを選択した時,以下の10種類の気象現象から1つを選択する。

[前線通過,冬型,春一番,関東に雪,五月晴れ,梅雨,夏型,台風,秋晴れ,秋雨]

2) 各気象現象において,雲写真,天気図,雲写真・天気図(両方を重ねて表示したもの)を選択することができる。

3) 雲写真や天気図は,画面上部のバー(「天気図の画面」上に印で示している)で,動かすことができる。

4) 画面の「データ表示」を選択すると,5都市の1時間毎の気象データを表示する。また,その中の2都市まで,データをグラフで表示することができる。
前線や台風の通過時の風向や気圧の変化の理解を深めるためのデータの活用を考えた。

2.
 確認問題

 確認問題は,10種類の気象現象について雲の様子や天気図が理解できているか確認するものである。
問題を解くことで,自分でその理解度を知り,必要に応じてもとに戻って学習に取り組むことができる。
問題量は多くないが毎回違ったパターンで出題される。

確認問題の画面(台風を選択したとき)

3.
 予想問題

 天気の変化を予測する問題で何日間かの変化を見たあとに,その後の天気を予測する問題である。10種類の気象現象についての規則性を理解しているか,問題を解くことで確認することができる。

予想問題の画面(台風を選択したとき)

4.
 ガイド

 ガイドは,日本の気象に関係の深い地域を示した地図,天気の予想をするときのアドバイスを表示する。

ガイドの画面

5.
 検索

1) 検索は,気象に関する現象や用語を文章・写真・動画で簡潔に表示した。気軽に思い出したり確認するためのものである。教科書,資料集やほかの資料などと併用していっても効果的であると考えた。
2) ジャンル別とアイウエオ順の2種類から検索することができる。また,各説明文の中にもリンクがあり,関連した内容を検索できる。



6.
 リンク集

 リンク集は,最新の気象情報を得たり,学習を深めたい時に,インターネットに手軽に接続できるようにした。リンク集は,官公庁・政府機関等,学会,大学,気象情報関連団体等の各分野から選択できる。

リンク集の画面

7.
 年間雲画像

1) 年間雲画像は1996年1月1日0時から12月31日24時までの1時間ごとの雲画像が収録されている。
 1年間を通してみることもできる(約20分)が,画面左側のカレンダーから月日を設定してみることもできる。
2) 「全画面表示」で,画面を大きくしてみることもできる。また,エスケープキーで元の大きさの画面に戻る。
年間雲画像の場合

4.授業展開例

[授業展開例1]

 (1) 本時の目標
  ・雲画像をもとに,大気の流れや雲の動きを大きく捉えて理解する。

 (2) 展開
学 習 活 動支 援
[課題]
 「日本付近の大気の流れや雲の動きの特徴を知ろう。」
 
[活動1]
 ○年間雲画像から日本付近での大気の流れや雲の動きを調べる。
 ○雲画像を見て,気づいたことを班で話し合う。
 ○その内容をカードに記入し,発表準備をする。

 ◇各班で調べる時期(季節)を選択し,課題を確認する。
[活動2]
 ○カードやコンピュータを使って気づいたことを発表する。
  ※日本付近では,雲は西から東に移動する。
  ※渦を巻いている雲があり,その巻き方は左巻きである。
  …など

 ◇発表の仕方について説明する。
 ◇各班の発表を聞く態度に留意する。
[まとめ] 大気や雲の動きには規則性があることを確認する。

[授業展開例2]

 (1) 本時の目標
  ・雲画像から日本の四季の天気がどの気団の影響を受けているか気づく。
  ・季節の天気図から日本の季節の特徴的な気圧配置を見つける。

 (2) 展開
学 習 活 動支 援
[課題]
 「季節と気団の関係を知ろう。」

 ◇既習事項を確認する。
[活動1]
 ○雲の動きを見て,日本の季節に影響を与える気団を見つける。
 ○雲の動きを日本付近の白地図に書き込む。
 ○雲の動きから,日本の季節に影響を与える気団を予想し,ワークシートにまとめる。
  ※北から南に雲が流れているので,シベリア気団が関係している。
  ※日本を横断する雲があまり動かないのでオホーツク気団と小笠原気団が関係している。
  …など
〈資料〉
 学習ソフト・教科書・資料集・各図書

〈班編成〉
 梅雨・夏・秋雨・秋・台風・他

 ◇机間指導で季節の特徴的な空気の流れに気づくようアドバイスをする。
 ◇各班のOHPシートを回収して,確認する選択肢課題を確認する。
[活動2]
 ○日本の季節の特徴的な気圧配置を見つける。
 ○学習ソフトの天気図や他の資料を使って季節の気圧配置を調べ,ワークシートに書き込む。
 ○OHPシートを利用して調べた結果を発表する。

 ◇発表は代表者にさせる。
 ◇各班の発表を聞く時は,それぞれの季節の特徴を比べるよう注意する。
[まとめ] 季節に影響を与える気団を確認する。

 授業では,生徒たちは興味を持って真剣に取り組んでいた。年間雲画像をていねいに見ることで,低気圧が北のほうにいくとやがて雲が消える,画面全体が雲におおわれることがない,低気圧と高気圧の移動の様子に規則性があるなどの発言があった。我々が考えていた以上の反応を生徒たちは示した。これらの現象がなぜ起こるのか,疑問を持ち互いに話し合うなど,初期のねらいに迫ることができた。

5.おわりに

 コンピュータをはじめとする教育機器の利用は,学習環境の整備とソフトの充実により,今後もさらにその価値は高まっていくものと考えられます。課題の発見と話し合い活動を充実させるためのソフトを作成しましたが,自然現象の規則性や課題を生徒が主体的に見つけ,解決していけるようなソフトを活用していくことが望まれます。
 ソフトの開発については,ソフト開発チームの先生方をはじめ,川崎市教育研究会理科部会の先生方,市内中学校の多くの先生方から,快く助言や協力をいただけましたことにお礼申し上げます。

〈本稿の図版資料〉
 ・雲画像:気象庁提供
 ・天気図:日本気象協会提供


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