新たに開発した地震関係の立体モデル
前大阪府岸和田市立野村中学校
濱塚 博
1.はじめに

 中学校理科の中で,とりわけ地学分野では,生徒自身が制作したり自らさわって確認できるような教材が少なく,指導面でも説明中心の授業展開になってしまうことが多かった。生徒の興味を引き,しかも,とりわけ難しい立体的な認識をしっかり身につけさせる教材の開発は,楽しい授業や課題研究を行う際にも非常に大切なことではないかと思う。
 そこで,筆者は今までに,取り扱いやすい手作りができる地学分野の実習教材をいくつか開発してきた。たとえば,専門的で難解なボーリング資料を,コピーして利用するだけで学校の地下の様子が手軽に生徒に実感できるようにした,「手作りで実感できる簡易立体地下模型」(平成元年度東レ理科教育賞受賞作)がそれである。その他にも,やはりパネルを組み立てることで簡易な立体を構成する方法として,「地形モデル(等高線モデル)」やその応用としての「地層の傾斜モデル」「不整合面を立体的に表現したモデル」や「褶曲モデル(プランジを表現)」を開発してきた。(以下の写真を参照)
↑ 手作りで実感できる簡易立体地下模型 ↑ ↑ 地形(等高線)モデル
↑ 地層の傾斜モデル ↑ 不整合面モデル ↑ 褶曲モデル

 これらの筆者が開発したモデルは,いずれも安価な厚紙や塩化ビニル板を差し込んで組み立てる簡易な立体で,視点の移動が簡単で立体物の認識の大きな手助けとなり,しかも分解すれば収納が簡単であるという,多くの利点を備えた教材である。
 ところで今回ここで紹介するのは,「地震と断層」関係にまとを絞って新たに開発した手作り実習教材である。併せて,授業での活用例も紹介することにする。実際にモデルを作ってそれを手に取ってみると,そこから思わぬ発見が生まれるてくることがある。

2.簡易な地震立体モデルの制作

 いずれもパネル化して作る立体の応用例で,上面の地表を表す半透明なパネルを下の2〜3枚のパネルで支えたものである。

地震の等発震時曲線モデル

仮に震源から地震波が四方八方に球形に広がっていく(どの方向にも一定の速さで伝わる)とすると,場所によって地震波が地表に伝わる時刻に違いが生じるが,その到着時刻の等しい地点を結んでできる等発震時曲線は,震央を中心とした同心円状に広がることが分かる。
 震源の深いモデルと浅いモデルを作ると,地表面では等発震時曲線の間隔が,震源の深いモデルの方が広くなることが理解できる。

授業での活用:このモデルは同心円をたくさん書かねばならず手間がかかるので,生徒には制作させない。授業では,指導書の中にある等発震時曲線の間隔が違う地震の2例をプリントで示し,何が原因で間隔が違うようになったのかを考えさせる。震源の深さの違いで地表ではどのような違いが現れるのかを気づかせるためのモデル2種をあらかじめ用意し,提示してやると理解させやすい。
同じ速さで地震波が地表に伝わっても,震源の深さで間隔が違ってくる。

地震の等発震時曲線モデル(写真右)と
震源・震央モデル(写真左)

震源・震央モデル

震源・震央を求めるには,観測地地点で初期微動の継続時間を求め,大森公式を使うとおよその震源までの距離が分かる。A,B,Cの各地点から震源までの距離をとって地図上にコンパスを使って描いても,円の交点は1点にはならない。このパネル化立体だと震央の位置と震源までの深さが一目瞭然となる。
 パネルの材料としては,透明な0.5〜1mm程度の塩ビ板かアクリル板を使用するとよい。あらかじめコンピュータで作図し,透明シールに印刷したものを透明な板に貼り付けてから,アクリルカッター等を使用して切り込みを入れると,きれいな提示用のモデルが作れる。

授業での活用:生徒用には,安価な厚紙に印刷プリントを貼り付けさせる方法で制作させる。一部コンパスによる作図と色塗り作業をさせることで,課題学習に応用できる。紙製のモデルでは透視はできないけれどもある程度の立体感が得られ,作図作業をすることなどで理解を深めさせることができる。