選択理科の教材例(補助資料)

1.はじめに
 平成14年度(2002年)からはじまる選択教科の時間数の拡大に伴い,選択理科の年間授業時間数が,最大限1年では年間30時間(週1時間弱),2・3年では年間70時間(週2時間)にもなり,現在,各学校で実施されている「選択理科」の授業では,ややもすると以前の「クラブ活動」や「ロケットづくり」等の興味・関心や制作活動と,その発表だけで終わっているような現状では,本来の理科教育の目的である科学的思考力を十分には伸長できないと考える。これからは,科学的思考力をさらに発展・応用する内容をも含んだ教材が必要となってくる。つまり,教師のより一層の創意・工夫が選択理科では必要とされてくる。
 本稿の「選択理科」は,拡大された時間数に対応すること,そして,選択の時間を最大限に利用し,「必修理科」や日常生活での体験で学習した自然の事物・現象に関する正しい知識のさらなる定着を図り,それに続く,発展・探究・応用へと科学的思考力や概念形成を図るための手助けとなる補助教材として執筆した。つまり,自ら課題(興味・関心・要求)を見つけ,自ら考え(方法・集計・分析),主体的に判断(考察・整理・処理)し,課題を解決する資質や能力を育て,さらに次の発展へとつなげていきたい。
 ここでは,教科書等で学習した内容を発展させているので,内容については,小学校で学習した内容や日常生活等の中で気づいたこと等を発展させ,中学校の必修理科で学習する教科書内容に合わせているので,併用していけば,さらなる効果が期待できると思う。
 学習の流れを具体的に示したのが下の表である。

 選択理科の学習の流れ科学的思考力
テーマ,課題の設定(自然や事象に対する興味・関心・要求)不思議なこと・疑問点(課題を見つける)
課題解決の方法,計画の立案想像力,予想(到達目標,推測)
基礎準備(観察・実験・調査の準備,方法・手順等)観察力・実験,薬品や器具の活用力
発展学習(観察結果・実験,図・表・グラフ化等)思考力・洞察力,データ処理力
探究(考察,推測,規則性,課題解決等)規則性の発見,予想と結果の比較
まとめ・発表(知識の整理・獲得・定着化)表現力(プレゼンテーション),説得力
応用と発展(技能や知識の蓄積,知の総合化)知識の集約化と新たな課題の発見力,応用力
オリジナル(知識の応用,技術・知的開発)創造性,企画立案力

 課題解決・問題解決活動を繰り返す習慣を通して,理科好き・科学好きの生徒を育成するとともに,ねばり強く自然や課題を主体的に研究・探究する能力や態度,企画性,科学的思考力等を身につけさせ,21世紀の科学・技術・情報化の社会に「生きていく力」を身につけさせていきたい。
 ただし,この補助資料は,最初に選択理科(必修理科)の学習の仕方(流れ)を生徒自身が身につけるための資料なので,生徒に「課題を見つける力」がついてくれば,生徒の課題や発想を元にした学習展開を大事にしていただきたい。

2.課題学習の展開(教師用の例)
 (1) 研究課題
簡単なモーターを制作し,その仕組みを知る。(1〜数人程度,約3〜5時間)
 (2) 予想(推測)
モーターが回る仕組みは,電気や磁石が関係していると考えられる。[教科書:1分野下「磁界のはたらき」]
 (3) 基礎準備
{実験・観察の準備,方法・手順,装置(右の図)}
1) 準備物:U磁石,乾電池,乾電池ホルダー,クリップつき導線,導線(エナメル線),板,(紙)ヤスリ,ゼムクリップ,セロハンテープ,画びょう
2) 方法
 エナメル線を試験管に5回ほど巻きつけ,輪の直径の方向にエナメル線の端を出す。
 エナメル線の両端のエナメルを紙ヤスリで一方は半分,もう一方は全部削り落とす。
 ゼムクリップを使って軸受けをつくり,板に画びょうで固定する。
 軸受けに乗せたコイルが,中央にくるように磁石を置く。
 電池に接続して電流を流す。最初は回りにくいので手でコイルを回転させる。
(単一乾電池の数を1〜2個と決めて行うこと)
 エナメル線の巻き数を10回,20回,……と増やしていく。
 エナメル線を,乾電池や50cm3ビーカー等に巻きつけ,ア〜カの手順で行い,回転の仕方を調べる。
3) 工夫点
ゼムクリップを画びょうを使って板に固定した。
 (4) 発展(観察・実験結果,図・表・グラフ化):[結果(下の表)]
巻き数/直径試験管乾電池50cm3ビーカー
5回回転しない回転した回転した
10回回転しない回転した回転した
20回回転した回転した回転が速い

1) モーターが回っているとき,電流の流れる方向(電池の向き),磁界の方向(N極→S極の向き),回転する向きには,どのような関係があるか。
2) コイルの巻き数を変えると回転の速さは,どうなるか。
3) モーターが回っているとき,電流や電圧の関係はどうなっているか。また,回転の速さとの関係はどうなっているか。
4) 試験管以外に,コイルの直径を単一乾電池や50cm3ビーカー等の大きさにしたときのコイルの巻き数と回転の速さにはどんな関係があるか(上の表を参考)。
 (5) 探究(考察,推測,規則性,課題解決等)
*生徒用には,青色の文字の部分は記載していない。
1) 電流の流れる方向と,磁界の方向,力の向き(回転する向き)の間には,直角の関係があった
2) コイルの巻き数を増やすと回転が速くなった。ただし,試験管の巻き数が,10回以下のときは回らなかった
3) 電流・電圧の関係は変わらない(実際は,見えないくらい微小に変化している)
 電流計,電圧計は,どの位置にどのようにつなげばよいか考えてみよう。
4) 同じ巻き数であれば,50cm3ビーカーの方が速く回転した
5) 乾電池を2個,3個と増やしていくと,コイルの回転の速さはどうなるか。
6) 磁石の強さを強くしていくと,コイルの回転の速さはどうなるか。
 (6) まとめ,発表(知識の整理・獲得・定着化)
1) 電流の流れる方向と磁界の方向とが直角(垂直)の関係になったとき,力の向き(回転する向き)の間には,右図のように,左手の親指(力の向き),人差し指(磁界の向き),中指(電流の向き)のような直角の関係がある
2) コイルの巻き数を増やすと,増やした分,磁界の中を流れる電流が増えるため力が大きくはたらき回転が速くなる
3) 電流計は,回路に直列につなぎ,電圧計は,回路に並列につなげば測定できる
4) 50cm3ビーカーの方が速く回転したのは,コイルと磁石がより接近しているためである(磁石に近づくと磁界が強くなるため)
5) 乾電池を2個,3個と増やしていくと流れる電流が強くなるために,コイルの回転の速さが速くなる
6) 磁石の強さを強くしていくとはたらく力(回転力)も強くなるため,コイルの回転の速さが速くなる
 (7) 応用・オリジナル(技能や知識の蓄積,知の総合化,知識の応用,技術・知的開発)
1) ミニ四駆等の使わなくなったモーターを分解し,その仕組みを調べてみよう。
 できれば,装置の仕組みの図を作成したり,中の部品の形などを調べ,そのような 仕組みになっている理由を考えよう。
2) 自分でモーターを工夫してみる。
3) オリジナルモーターをつくろう。
ア 乾電池モーター
イ フィルムケースモーター
ウ 使わなくなったモーターの活用
4) みんなにわかるように説明するための発表会(プレゼンテーション)の資料づくり→必修理科「電流とその性質」の単元の授業で,先生の了解を得て発表しよう。(自分の研究がどれだけみんなに理解されるか確かめよう)
5) 身近にあるモーターを使った物を探してみよう。(日常使っている機器,創造的なモーター,生物の体の中にあるモーター等)
6) これから必要とされるモーターを創作しよう。(環境に優しい,人に優しい)
7) 他の人が研究した物と組み合わせることはできないだろうか。→乾電池をつくろう。

3.生徒用の例(理科1分野:物理領域 ・備長炭乾電池をつくろう。)
 (1) 研究課題
備長炭を使って電池をつくろう(1〜数人程度,約3〜5時間)。
乾電池を分解してみよう。中に何が入っているだろうか。
 (2) 予想(推測)
乾電池の中には「炭」が入っていたことから,炭を使って,電池がつくれるのではないか。
 (3) 基礎準備
1) 準備物
備長炭,和紙,食塩水,クリップつき導線,アルミ箔,モーター
2) 方法(図は省略)
ア 和紙を食塩水に浸す。
イ 備長炭の端を見えるようにして,食塩水に浸した和紙を備長炭に巻きつける。
ウ その和紙の上に,備長炭に接しないようにアルミ箔を巻きつける。
エ 備長炭とアルミ箔の一端にそれぞれクリップつき導線をつなぐと完成
 (4) 発展
1) 備長炭に流れる電流や電圧はいくらになっているか。備長炭の長さ・太さや食塩の濃度,備長炭と和紙の接する面積との関係はどうなっているか。表にして表そう。
2) この電気は,いったいどのような仕組みで発生するのだろうか。電流が流れなくなってからの備長炭はどのようになっているか。
3) 備長炭以外の「炭」や「活性炭」などでも電池はできるだろうか。また,電流の強さはどうか。
4) これ以外でも,電池をつくる方法はあるだろうか。
 (5) 探究
1) 備長炭乾電池に電流を多く流すためには,何をどうすればよいと考えられるか。
→電流計や電圧計をどのようにつなげばよいだろうか。
→簡単な配線図(回路図)も描こう。
2) 食塩水の代わりに砂糖水を使うと電流は流れるだろうか。ほかに,電流を流すような水溶液があるだろうか。
3) 備長炭の固体の場合と粉末の場合とでは,違いはあるだろうか。
4) 炭を使わない電池があるだろうか。
5) 他の人が研究した物から電気をつくれないだろうか。
6) 身近にある乾電池を使った物を探してみよう。(太陽電池,自転車の発電器,生物の体の中でつくられる電気等)
 (6) まとめ,発表
1) 電流が多く流れるための条件は何か。
2) 食塩水のように,電気を通す水溶液(電解質)が電池をつくることができるか。食塩水以外に電流を通す水溶液は何か。
3) イオンの考え方で説明がつくだろうか。(化学変化で説明がつくか)
 (7) 応用・オリジナル

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