「桑名の地層と大地の変動」の学習
−地域の教材化・意欲的に取り組む生徒・感動のある授業をめざして−
1.はじめに
 地層の学習をするなら,やはり地域を教材化したいものである。地域の地層が教材化できれば,生徒の興味・関心は高まり,学習意欲もわいてくるであろう。それに加えて,地域教材が地域の学習だけにとどまらず,地域と日本・世界とが結びついていくなら,学習意欲はさらに高まり,学習による感動も出てくるのではないかと考え,本実践を試みた。

2.桑名の地形と地層・地史の学習目標
 (1) 地形と地層は対応していることを理解する。
 (2) 桑名の地層は,東海湖と員弁川によってつくられたことを理解する。
 桑名の地形と地層
平野:沖積層 → 主に員弁川が鈴鹿山脈から運んできた砂れき層
坂道のある所
┌段丘(平らな面):主に員弁川が鈴鹿山脈から運んできた砂れき層
└丘陵:奄芸層群(東海湖の湖底でたい積)
 (3) 奄芸層群と段丘層は不整合になっていることを理解する。
 (4) 桑名にもしゅう曲や断層があることを理解する。
 (5) 桑名の地史について知る。
 桑名の地史
 今から300万年前,桑名は東海湖の湖底にあった。やがて,日本列島の地殻変動が活発になり,鈴鹿山脈,養老山地が誕生し,桑名背斜が形成され,桑名の土地も東海湖の湖底から出てくることになる。
 これによって,桑名には鈴鹿山脈の方から,砂やれきが運ばれるようになる。その後,氷河期や土地の隆起により桑名には3段の段丘が形成されることとなった。
 現在も鈴鹿山脈の方から員弁川が桑名に砂やれきを運んできている。
 なお,養老山地や桑名背斜・西方断層は,東から力を受けることにより形成された。この力は,太平洋プレートが日本列島に押し寄せてくることによって生じる力の向きと一致する。

3.指導計画 「大地の変化」(22時間)
 (1) 地震……………………5時間
 (2) 火山活動と火成岩……5時間
 (3) 地層とたい積岩………5時間
1) 桑名の地形
2) 明正中学校の地下10m

3) 地層ができるまで
4) 火山灰のたい積
5) 化石
6) たい積岩
 (4) 大地の変動……………4時間
1) 地形からわかる土地の動き
2) 地層からわかる大地の変動

3) プレートと大陸移動
 (5) 桑名の地層と地史……3時間

4.授業記録
 (1) 地層とたい積岩
1) 桑名の地形
 屋上からの眺めや地形図・航空写真から桑名の地形について理解する。
平地と丘陵地でできている。
桑名市は三重県の北部に位置し,市の中心を員弁川が,北側を揖斐川が流れている。
西の遠くに鈴鹿山脈,北西の遠くには養老山地,その奥には琵琶湖がある。
2) 明正中学校の地下10m
【質問】  明正中学校のグラウンドを地下10mまで掘っていくと,何が出てくると思いますか。
〔生徒の答え〕: 温泉,水,骨,貝殻,土,遺跡,アサリ,マグマ,石,粘土,砂,岩
【課題】  明正中の地下から出てきた砂やれきは,何がどこから運んできたのだと思いますか。
 事実から考えよう。何に注目するの?
 円れき,亜円れき。
 何で丸いの?
 転がってきた。
 自分で転がってきたの?
 水に運ばれてきた。
 地形図を見て。何が運んできたの?
 員弁川
 どこから運んできたの?
 鈴鹿山脈
 員弁川だけ?
 どうですか?
 揖斐川
 (桑名市の)場所によっては,揖斐川や大山田川ですね。
 科学の答えは?
 員弁川が鈴鹿山脈から運んできた。

【先生の話】
明正中学校のボーリングによる柱状図と標本を見せる。
沖積層の厚さ(ボーリング資料より)について説明する。

 図1 員弁川・木曽三川流域の沖積層

東にいくほど,砂れき層が厚くなっている。
さらに東には濃尾平野があり,木曽三川が運んできた砂れきがたい積している。
たい積,沈降を繰り返した。


 (2)

 大地の変動
1) 地形からわかる土地の動き
【課題】走井山には員弁川によって運ばれてきたれきがたい積しています。どうして員弁川より約20mも高い 走井山に,員弁川によって運ばれてきたれきがたい積しているのだと思いますか。
(標高:走井山 約30m 明正中学校 約8m)

【生徒の考え】
たい積したあとに,走井山が盛り上がった。
昔,海または川があって,走井山のところにれきがたい積した後,水位が下がりまた,れきがたい積し,さらに水位が下がり,今の時代になった。
走井山が上がったか,川底を削って流れる位置が下がった。
員弁川のれきがたい積して走井山の土地が盛り上がった。
員弁川がカーブしていて外側に土砂がたまった。そこが走井山となった。
他の生徒から反論:カーブの外側の方が流れが速いから削られる。土砂はたまらない。
昔,走井山と員弁川は同じ高さの所にあって,員弁川のれきがたい積して地震か何かで走井山が高くなった。
【質問】 課題の図には,員弁川が運んできたれきの地層が3段あります。どうして平坦な面が3段あると思いますか。
【先生の話】
河岸段丘・海岸段丘:土地の隆起
リアス式海岸:土地の沈降
現在の土地の垂直変動量(教科書の図)から現在も土地が変動していることを知らせる。

2)

 地層からわかる大地の変動

【課題】 図は市民病院付近の地質断面図です。
 どのようにして,このような地層ができたのだと思いますか。
【先生の話】
整合・不整合,しゅう曲の説明
日本各地の隆起量と沈降量(教科書の図)
プレートの押す力により山と谷(平野・湾)ができる。今も続いている。
今も山は隆起し続け,平野・湾は沈降し続けている。
山:浸食量よりも隆起量の方が多い。
平野・湾:たい積物の重さとプレートの力で沈降する。
課題のしゅう曲(桑名背斜)は,東から押される力によって形成されている。この力の向きは太平洋プレートが大陸のプレートを押す力の向きと一致する。


【課題】 図は大成小学校付近の地質断面図です。どのようにして,このような地層ができたと思いますか。
【先生の話】
正断層と逆断層と力の受け方
課題の断層は,東から押されている。この力の向きは太平洋プレートが大陸のプレートを押す力の向きと一致する。


 (3)

 桑名の地層と地史(ワークシートを使っての学習−略−)

5.おわりに
 生徒たちは,桑名の地形がどのようになっていて,それらがどのようにしてできたか,身近なことであるために,興味をもって熱心に学習できた。特に,走井山の河岸段丘,員弁川の河岸段丘とその下にある奄芸層群との不整合,西方断層,桑名背斜(しゅう曲)の学習では,学習内容が教科書に載っていることにより,ますます学習に意欲が感じられた。生徒たちは,「今,学習している桑名の地層のようすというのは,日本の他の地域や世界でも見られるのだ」あるいは,「教科書に載っている地層のようすが,私たちの身近なところにあるのだ」という感覚で学習を進めていった。
 また,「桑名の地層に見られる断層やしゅう曲がプレート説と結びついて考えられる」ことを学習したときに,生徒の中には,「オー」という感じで声が出てきたり,目の輝きが変わったりしたものがいた。地域の学習と世界のプレート説が直接つながるところは,ここだけしかなかったが,それでも,「オー」という声が出てきたり,生徒の目の輝きが変わったのを見て,大変うれしく思った。
 最後になりましたが,三重県北部の地層を長年研究されている松葉千年先生にいろいろご指導いただきました。心より感謝申し上げます。

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