第8回 啓林館「教育実践賞」について

教育実践大賞 審査結果の一覧へ審査委員会の講評

教科の枠をこえた科学的な体験活動の支援・指導のあり方を求めて
〜児童が行う身近な川の水質調査活動を通して〜

茨城県稲敷郡美浦村立大谷小学校
桑名 康夫

2008年7月 学校近くの高橋川の水質調査
2008年7月 学校近くの高橋川の水質調査

1.テーマ設定の理由

平成20年度新学習指導要領には,『横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して,自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに,学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにする』とある。本実践にあたり,この文言について分析した。

本実践における探究的な学習とは,身近な河川や霞ヶ浦の水質を調査し,課題を見付け,解決方法を考え,実験・観察を通して結論を導く活動である。調査活動を行えば,自ずと結果が得られる。結果を集計・分析することで,推論したり,結論が得られたりする。その際,推論の中に新たな疑問が生まれ,その疑問が次の課題として設定されることになる。課題が設定されれば,その解決のため,思考をめぐらすことになる。このような科学のプロセスの繰り返しを通して,『自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力』を育成できる。また,グループで探究的な活動に取り組む場合,互いに相談したり,協力し合ったりすることを通じて『問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考える』ことにつながる。

以上のことから,身近な河川や霞ヶ浦の水質を調査する活動は,ねらいを達成するのに最適であると考えた。

2.研究の構想(図1,2)

1) 身近な河川や霞ヶ浦の水質を調べる活動を科学のプロセスに沿った流れにし,科学的な探究活動にする。

2) 科学的な探究活動を通して,児童が新たな発見ができるように導く。

3) 水質調査に参加する児童みんなで協力して取り組めるようにする。

4) 活動後,児童が論文や掲示物に活動のプロセスや結論をまとめることができるようにする。

5) 児童が今後の課題について明らかにすることで,次年度の活動意欲が持てるようにする。


総合的な学習の流れ
活動内容 調査方法 関連教科と内容
  • 霞ヶ浦について調べよう
    テーマを決める
  • インターネット
国語
  • 質問の方法
  • 専門家から学ぼう
    水質について
    霞ヶ浦の歴史他展示物から学ぶ
  • 専門機関
    (霞ヶ浦環境科学センター訪問)
国語
  • 伝え合う
道徳
  • 生命尊重
理科
  • 水中の生き物
社会
  • 生活と食料生産
  • 専門家から学ぼう
    水質調査方法
    プランクトンの観察
  • 専門機関
    (霞ヶ浦環境科学センター)
  • 専門教師
    (水質調査の仕方を霞ヶ浦湖畔で体験)
国語
  • 聞き取り調査
道徳
  • 生命尊重
理科
  • 水中の生き物
  • 環境調査・保全
  • 水に物が溶けたときの水質変化
    各自実験を行い,継続観察する
    プランクトンについて説明を聞く
  • 専門教師
    中学校科学部の調査紹介
    各自簡易水質変化実験
理科
  • 実験方法
  • 環境問題
国語
  • 分かりやすくまとめる,話す

図1 総合的な学習の時間単元構想案を具現化した計画


高橋川の水質調査の流れ
活動内容 調査方法 関連教科と内容
  • 調査地点を決め,水質調査
  • 一般的方法
    透視度,COD,アンモニウム,
    硝酸,りん酸,pH
理科,社会
  • 環境調査,地域探検
  • 結果の分析
  • 疑問,課題の設定
データの集計,考察
  • 川の流れに沿った水質変化
  • 場所によって水質が異なる理由
  • COD,アンモニウム,硝酸,りん酸の意味と理解
理科,国語
  • データの読解
  • ねらいに即した考察
  • 方法,仮説を考える
  • 課題の解決
    • COD,アンモニウム,硝酸, りん酸
    • 水が混じると水質が変化する
    • 水底の状態で水質は変化する
    • 浮遊物があると水質が悪い
    • 浮遊物はプランクトンである
  • 身近な水溶液の水質調査
  • 水溶液を混合前後の水質調査
  • 容器に土やコンクリートを入れて水質調査実験
  • ろ過前後の水質調査
  • 顕微鏡で観察
理科
  • 実験と条件設定
  • ねらいに即し計画,実験
  • 器具の使い方
道徳
  • 郷土愛
社会
  • 国土と環境
  • 結果の分析,考察
  • 研究をまとめる
  • 論文作成
国語
  • ねらいに即した考察
  • 分かりやすい表現
  • 正しい文法

図2 高橋川の水質調査の構想


3.研究の実際

1) 目的

総合的な学習の時間を通して,霞ヶ浦の水質や,水質調査活動への意欲を高める。
水質調査活動結果から,児童の疑問を誘発し,解決するような科学的研究にする。
身近な水溶液の水質調査を行うことで,児童がCOD,アンモニウム,硝酸,りん酸,の4通りの見方・考え方で水質変化を捉えることが出来るようにする。
水中に漂う浮遊物を取り除くと水質は良くなるか,という課題に対して,児童が4通りの見方・考え方で論じることが出来るようにする。

2) 仮説

霞ヶ浦環境科学センターや漁業組合との連携によって,専門的な視点から具体物を見たり操作したり,または説明をいただいたり,霞ヶ浦で水質調査活動を行ったりすることにより,霞ヶ浦に対して興味関心が高まり,水質調査活動に取り組む児童が増えると考えた。
児童が水質調査に取り組み,得られたデータを分析すれば,場所によって水質が違うということに気づく。そして,それを課題として設定し,その解決のための活動を行うことで小学生による科学的な研究として成り立つと考えた。
水質調査の結果を得れば,CODなどの水質を表す言葉そのものが疑問となる。従って,この課題の解決のため,身近な水溶液の水質調査という基礎的な実験を行うことになり,しだいに水質の4通りの見方・考え方が身につくと考えた。
水の汚れの代表的な指標である「水中の浮遊物」はろ過すれば水は透明になり,誰でもきれいになった,と思う。そこで,児童にこの課題を考えさせ,実験を通して解決に導くことで,水質についての4通りの見方・考え方を養うことが出来ると考えた。

3) 方法

総合的な学習の時間に霞ヶ浦に関した課題を作り,課題解決を目指して調べた。
大谷排水,信太排水を含め,高橋川の上流から河口(霞ヶ浦)まで水質調査を行った。
水質調査活動のまとめを行った。
11月に研究発表を行う予定である。

4) 研究意欲を持たせる総合的な学習の時間

総合的な学習の時間には,霞ヶ浦の水質,生物,歴史等について学習するにあたり,できるだけ専門機関との連携を重視して活動が行えるように配慮した。また,この活動を機会に,水質調査に取り組む意欲を持つ児童が増えるよう,期待した。

課題設定

まず初めにインターネットを利用して,各自の疑問に思うことを調べた。その結果,大きく分けて,霞ヶ浦の生物,水質,魚類,今の霞ヶ浦と昔の霞ヶ浦,の4つに分かれた。そこで,学習の計画として,


ア. 霞ヶ浦環境科学センターで水質や生物について学習する。また,展示物を活用して霞ヶ浦の成り立ちについて学習する。

イ. 漁業に携わる方々からお話を聞き,霞ヶ浦の魚類,漁業について学習する。

ウ. 霞ヶ浦湖畔に行き,水質の測り方を体験する。


水が汚れる原因と水質測定

ア. 水に汚れが入るのは,家庭排水からどんな物が流れ込むのか考えさせた。

イ. 水中に食べ物(有機物)が入っていると,水中の生き物にとって餌になるかどうか考えさせた。

図3 水の汚れの意味の説明
図3 水の汚れの意味の説明

ウ. 餌になる物が水中にたくさんあると,COD値や生物が増えるかどうか考えさせた。

エ. 餌になる物(有機物)がありすぎる場合,水はどのようになるか考えさせた(図3)。

オ. 餌になる物がどのくらいあるか,その度合いを表すものをCODということを指導した。

カ. 餌となる物(有機物)の測定方法(過マンガン酸カリウムによる逆滴定法)を指導した。


水中に有機物が含まれると,その量によって汚れの度合いが大きくなる。その度合いをCODといい,化学的酸素要求量という。有機物を分解するために酸素を必要とすることから,有機物が多く含まれる場合,分解に要する酸素の量も多くなりCOD値も大きくなる,ということを指導していただいた。これによって,水中に食べ物などが溶け込むことで水が汚れる,という概念を得ることができた。

キ. 過マンガン酸カリウムで逆滴定を行いCOD値を求めた。


資料に過マンガン酸カリウムを過剰に入れ,水中の有機物を完全に分解する。シュウ酸を投入後,過マンガン酸カリウムで逆滴定し,初めにあった有機物量を求めてCOD値を求める,という操作を指導していただいた。また,透視度計で透視度の測定も行った。これらの操作や,過マンガン酸カリウムの紫色の変化によって,水質の変化を観察でき,水質調査への関心が高まった。

ク. グループごとの滴定結果を出し合い,一覧表にした。

ケ. 水に牛乳を滴下した場合と,霞ヶ浦の水のCOD値を比較し,汚れの度合いについて話し合った。

水に牛乳を数滴滴下したものと,霞ヶ浦の水はどちらが汚れているか,との質問に対し,児童は「霞ヶ浦の水の方が汚れている」と一斉に答えたが,実測では牛乳であったことから,予想外の驚きと共に,水の汚れに対するCODという新しい視点が芽生えた。

霞ヶ浦のプランクトンの観察

ア. 用意したプランクトンは,朝,霞ヶ浦でプランクトンネットを使って採集したものであることを説明した。また,なぜプランクトンネットを使わなければならないかについても説明した。

イ. 顕微鏡の使い方を指導した。

ウ. プランクトンを取り,プレパラートにする方法を指導した。ミジンコなどの大きな物を観察する場合,ホールスライドガラスを使うよう指導した。

エ. はじめ,4倍対物レンズでブランクトンを見てから,そのままピントを調節しないで10倍対物レンズにするように指導した。

オ. プランクトンがよく見えた場合,各自デジタルカメラを借りて写真に写した。

カ. いろいろなプランクトンを投影し,名前や特徴,生息環境などを紹介した。


児童は,はじめて見る珍しいブランクトンを興味深く観察し,デジタルカメラにおさめた。これによって,水中の浮遊物や生き物に対して関心が高まったと考えられる。

霞ヶ浦の歴史

図4 展示室で霞ヶ浦の歴史学習
図4 展示室で霞ヶ浦の歴史学習

ア. 展示場を巡回し各展示物について説明した(図4)。

イ. 霞ヶ浦の成り立ちについてビデオを視聴した。

ウ. 水道水,天然水などいろいろな飲み水を試飲して区別できるか判断させた。

エ. 霞ヶ浦の魚類について展示を見ながら説明した。

オ. 各自,自由に展示物を見学させ,まとめさせた。

絵,年表,動画で見る霞ヶ浦の歴史では,昔は海だったこと,しだいに陸地化して淡水湖になり,今のようになったことなどを知り,児童たちは大変感動した。


霞ヶ浦湖畔で行った水質調査

図5 水質調査体験
図5 水質調査体験

ア. 簡易測定方法である,CODのパックテストについて説明し,一人一人配付した。

イ. 沖宿(霞ヶ浦湖畔)まで行き,湖岸で水質測定方法について説明した後,各自CODを測定した(図5)。

ウ. 水質調査の場合,CODの他にもいろいろな調査項目を調べることを指導した。
・天気,気温,水温,電導率,アンモニウム,硝酸,りん酸,DO,水量,水の色,波,生物,植物など

エ. 調査結果,観察結果などを記録用紙に記録させた。

オ. 途中の蓮田の水質を,比較のために測定させた。

カ. 蓮田と霞ヶ浦の水のCOD値の比較をさせた。


パックテストで,自分でも水質を測れるということが分かって,水質調査に対して大変関心が高まった。水質調査をやってみたい,という意欲につながったと考えている。

漁業に携わる人たちの話

図6 見せていただいたアメリカナマズ
図6 見せていただいたアメリカナマズ

ア. 安中漁業組合の方と事前に打ち合わせを行い,日時や内容について決定した。

イ. 児童からの質問内容をまとめ,類型化して安中漁業組合の方にあらかじめ知らせた。

ウ. 児童に対して次の内容で説明をいただいた。

エ. 実際に霞ヶ浦にいる魚を見せていただいた。

オ. 児童からの質問に答えていただいた。

カ. 児童の感想を発表し合った。


網にかかったアメリカナマズ(図6)のヒレに長靴ごと突き刺されること,網から取り外す時に手をさされて1ヶ月近く傷が治らなかったことなど,在来種が外来種に取って代わってきた内容の話を印象深く聞いていた。また,児童の感想から,霞ヶ浦の水質の変化に伴い,漁獲量が少なくなったこと,魚種が変化したこと,などの漁業関係者の悩みを聞いて,水や生物に対する問題意識を持ったことがよく分かった。

5) 児童が自ら取り組んだ研究

興味を持った児童が集まって活動した高橋川の水質調査

ア. 調査メンバーの確認と,水質調査計画の打ち合わせを行った。

イ. 水質調査後は,調査結果をまとめて論文作りまで行うことを約束させた。

ウ. 調査場所を話し合って決定し,高橋川,大谷排水,信太排水の計7地点に決めた。


図7 高橋川調査場所

エ. 保護者の参加があることから,協力体制づくりをした。

オ. 測定器具の一部は,地域の保護者から中古品をいただいたり貸していただいたりした。

カ. はじめての水質調査であることから7地点(図7)の調査を2日に分けて行った。

キ. フィールド用紙に記入する児童,バケツで水を取る児童を決めた。

ク. 気温,水温,pH,DO,透視度を測定する児童をそれぞれ決めて分担した。

ケ. 容器に水を採る場合,空気を入れないように指導した。2本採集させた。

コ. 持ち帰った水の水質を測定させた。ビーカーにラベルを貼る,並べる,などの手順を守らせた。

サ. パックテストで,COD,アンモニウム,りん酸,硝酸を測定した。

シ. 測定値を一覧表にまとめさせた。

総合的な学習の時間では少し学習したが,実際の活動ははじめてであること,小学5年生ということを考慮し,安全面,保護者の引率を効果的に利用する,調査地点を少なくする,活動時間が長くならないようにすることを考慮して取り組ませた。何度か繰り返す内に,活動に少しずつ慣れてくるのを感じた。

得られた結果の集計,分析,考察について

図8 水質調査結果を記録した野帳
図8 水質調査結果を記録した野帳

ア. 水質調査結果一覧表を野帳用紙(図8)に添付させた。

イ. 水質調査結果一覧表を見て,どのようなことが分かったか考察させた。

ウ. 高橋川本流に沿って,上流から河口にいくにつれて水質がどのように変わっているか考察させた。

エ. 大谷排水と信太排水が合流すると,水質はどのように変化するか考察させた。

オ. 疑問点や不明な点を出させた。

はじめて学習する,COD,アンモニウム,硝酸,りん酸の4つの調査項目は,専門的であるが,これらの理解が,水質を考えるための重要な視点でもある。そこで,これらの学習ができるような活動を取り入れなければならないと考え,疑問を出させるように心がけた。


水質調査の結果生じた疑問と仮説

児童と共に導いた疑問点,仮説は次の5つである。

児童から出た疑問や予想はあいまいなものが多い。そこで,一つ一つ確認しながら仮説として成り立つものへと作り上げていった。話し合いの末,教師,保護者,児童ともに納得できる仮説が完成した。

身近な水溶液の水質調査


図9 身近な水溶液の水質調査を記録した野帳

まず,どのような水溶液で,どのような調査項目(COD,アンモニウム,硝酸,りん酸)が高くなるか調べさせた。はじめて学習することであるため,言葉の意味だけではなく,実際の水で値がどう出るか,ということに重点を置いて理解させなければならないと考えたからである。

ア. 疑問点を明確にさせ,どうしたらそれが解決できるか考えさせた。また,野帳用紙に実験のねらい,方法,準備物などを書かせた。

イ. 家庭で使用するいろいろな水溶液や物質を準備し,水に溶かして水質を調べさせた。

ウ. パックテストで測れる程度の濃度になるように水に溶かす指導をした。

エ. 対照実験として水道水の値も調べなければならないことを指導した。

オ. 身近な家庭排水,全10種類と水道水の水質調査を行い,一覧表にまとめさせた。

カ. 一覧表を野帳用紙に添付し,考察させた(図9)。


この実験を通して,汚れを4つの視点で見たり考えたりできるようになった。また,肥料は極端にアンモニウム,りん酸が高いことなど,溶かした物質の特徴も理解できた。さらに,このことを河川の水に当てはめて考えることにもつながった。

水が混じると水質は変化するか

図10 混合液の水質調査結果を記録した野帳
図10 混合液の水質調査結果を記録した野帳

次に,水質の違う水溶液を混合したときの水質変化について調べさせた。これは,高橋川本流に大谷排水や信太排水が合流するところがあり,合流地点で本流の水質が大きく変化していたため,水が混じると水質が変化する,と児童が考えたからである。

ア. 野帳用紙に実験のねらい,方法を書かせ,身近な水溶液を4)のように作らせた。

イ. 混ぜるという前提で,水溶液の濃度が2倍になるように作らなければならないことを指導した。

ウ. 水で2倍に薄めた混合前の液の水質を測定させた。

エ. 混合する水溶液の組み合わせを考えさせ,決定させた。その際,混合後の水質変化がわかりやすいように,高い値を示す項目のある水溶液を選ばせた。

オ. 混合後の水質を測定させた(図10)。

カ. 結果を一覧表にまとめさせ,野帳用紙に添付させた。

キ. 結果一覧を見て,考察させた。

川底のちがいで水質は変わるか

図11 野帳に書かれた考察
図11 野帳に書かれた考察

川底のちがいと水質について実験で調べさせた。高橋川本流の上流部,大谷排水,信太排水の川底はコンクリートであるが,中流域では川底が土になっていることから,児童が予想して調べることになった。水が流れる部分なので,水質を変化させる要因としては着眼点が素晴らしいと考え,実験を進めることにした。

ア. 野帳用紙に,この実験のねらいと方法を書かせた。

イ. 水溶液を4)のように作らせ,はじめの水質を測定させた。また,底に沈めるものを準備させた。

ウ. 容器にコンクリートなどを沈め,窓辺に並べさせ,8日間放置した。

エ. 放置後の水質を測定させ,一覧表にまとめさせ,野帳用紙に添付させた。

オ. 結果を見て考察させた(図11)。

浮遊物を取り除くと水質はよくなるか

浮遊物の正体と,ろ過前後の水質について調べさせた。水が濁っている場合,汚れている,濁っていない透明な水はきれいである,と誰もが思う。しかし,実際には,透明な水でも水中にいろいろな物質が溶け込んでいることから,実験すると予想通りには行かない。そこで,この浮遊物を取り除く実験を行う価値があると考えた。

図12 浮遊物の観察記録
図12 浮遊物の観察記録

ア. 野帳用紙にこの実験のねらいと方法について書かせた。

イ. 川の水を採集し,ろ過させた。ろ過前の水とろ過後の水を観察させ,透明度を意識させた。

ウ. 透明になったろ液を見せて,水質はどうなったと思うか予想させた。

エ. ろ液の水質を測定させ,はじめの水質と比較させた。

オ. 結果を一覧表にまとめ,野帳用紙に添付させ,考察させた。

カ. 見た目はきれいだが,水質は変化しない。その理由も考えさせた。

キ. ろ紙に残った物は何か予想させ,顕微鏡で観察させた。

ク. 顕微鏡の使い方を指導し,観察できたものをスケッチさせた(図12)。また,記録のため,写真撮影も行った。

ケ. 浮遊物の正体は何か,まとめさせた。


実験後,児童の反応は予想通りで,水は透明なのに水質は変化しないことに不思議がっていたが,たぶん何か溶けている,と予想する児童が多かった。この実験から,目に見えなくても,溶けている,存在する,という概念形成につながった。

6) 知識の獲得と研究の全体像をつかむためのまとめ・表現

掲示物つくりについて

図13 各ブロックに図を添付する児童
図13 各ブロックに図を添付する児童

ア. 模造紙に,テーマや活動をどのように配置するか,全員で考えた。

イ. 結果の一覧表,グラフ,活動の写真などを印刷しておき,各活動場所に配置してまとめの文を書く場所の広さを決定した。

ウ. はじめに,表,グラフ,写真を実験ごとのブロックに貼り付けた(図13)。

エ. 空いている場所に白紙を合わせて切り取り,文を書いた。書き方は,ねらい,方法,結果・わかったこと,の通り統一させた。

オ. 掲示物の作成は論文の下書きと考え,指導にあたった。

カ. 児童には,まず,下書きをさせ,保護者に見ていただき,さらに訂正後教師が指導した。児童はなれないため3回は下書きをしなければならなかったが,根気よく頑張った。

キ. 指定場所に清書した用紙をのり付けさせ,掲示物の完成に至った。


この掲示物作成は,研究の全体像や論文の下書きとして重要な作業の1つと考え,ていねいに作るよう指導した。また,この作業は,科学研究の表現方法のパターンの理解にもつながっていると考えている。

論文作りについて

図14 書き方,形式の指導後の論文
図14 書き方,形式の指導後の論文

ア. 全員を集め,掲示物には,研究のまとめが書かれていることを押さえた。

イ. 論文の目次を配布し,全体の見通しを持たせた。特に,番号の付け方,順番についてはしっかりと指導した。

ウ. 原稿用紙の使い方について指導した。特に,書き出しは1升あけること,番号の下の升をあけること,目次で番号は1か(1)かかよく見て書くこと,写真をどこに入れるか印をしておくこと,などを指導した(図14)。

エ. 書けたら保護者の方に見ていただき,その後教師に見せるよう指導した。

オ. 清書ができたら,クリヤーファィルに入れて完成とした(図15)。

カ. できあがった論文を全員で読み返し,表記の誤り,誤字脱字の訂正をさせた。

キ. 論文と野帳の表紙を作成させ,すべて完成とした。


掲示物,論文はこれまでの研究を振り返り,自分の知識として獲得し,また,表現するという意味で重要な活動である。文章で表現することは,活動を理解していなければ出来ないことでもある。このようなことに馴れていない児童は,時間を要したり,何度も書き直したりしなければならなかったが,根気よくがんばって最後まで取り組むことが出来た。その努力を評価したい。

図15 左から論文,野帳,フィールド用紙
図15 左から論文,野帳,フィールド用紙

4.研究のまとめ

1)
総合的な学習の時間に専門機関との連携によって,霞ヶ浦に対して興味関心が高まり,高橋川の水質調査を行うことが出来た。
2)
児童が水質調査に取り組むことで,課題が生まれ,その解決を目指した小学生による科学的な研究として成り立った。
3)
課題を追究することを通して,水質の4通りの見方・考え方(COD,アンモニウム,硝酸,りん酸)を養うことが出来た。
4)
活動後,論文や掲示物をまとめることが出来た。また,次年度への意欲を高めることにもつながった。


5.今後の課題

1)
論文作成まで達成できた。今後,研究発表(大谷交流祭,11月予定)を行い,活動を通して身に付いたことをより確かなものにする。しかし,小学校という環境であることから,発表の場の設定が校内に限られる傾向がある。また,これだけの研究を小学5年生が発表できるようにするためには,相当な発表練習時間の確保が必要と思われる。
2)
小学校は,活動の時間の確保という点で難しい中,このような活動を続けるためには,保護者の理解と協力を得ることが必要,かつ課題である。
3)
児童は経験不足から活動に時間を要する。しかし,経験を積み重ねることで解決できる。従って,児童が自ら活動できる探究活動を保護者支援のもとで継続させることが課題である。
4)
本校は学習サポーターを多数募集していて,授業や校外学習で協力を得ている。そこで,次年度は,サポーターの方々をたくさん要請することで,この活動が能率的にできるようにすることが課題である。
5)
調査回数を増やし,信頼できる調査データを得ることによって,児童のより科学的な思考力の向上へとつながるであろう。そこで,今後の活動の工夫が課題である。

参考

茨城県稲敷郡美浦村立美浦中学校 科学部論文2001〜2007



審査委員会から
審査委員会の講評

教科の枠をこえた科学的な体験活動の支援・指導のあり方を求めて

教科の枠をこえ,霞が浦の水質調査やその調査活動の科学的な体験活動をとおして学習活動をしたもので,霞ヶ浦環境科学センターや漁業組合とも連携した本格的な水質調査活動であり,教師や協力者には大変な労力が必要なものであったが,子ども達には貴重な科学体験になったと考えられる。情動記憶にも鮮明に残り,科学の真のおもしろさが身に付き,将来的に科学の好きな子どもに育つことが期待できる。