2020年度用 中学校理科教科書内容解説資料 未来へひろがるサイエンス
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科学技術の発展により医療も目覚ましく進歩し,わたしたちは安心してくらせるようになっている。X線CT❶をはじめ,PET❷,MRI❸などの技術によって体内のようすを撮さつ影えいできるようになった。なかでも, MRI は磁じ気きを用いているので,放ほう射しゃ線せんの被ひ曝ばくがなく, 患かん者じゃの体に負ふ担たんをかけない。また,正常な細胞にははたらかず,がん細胞だけに効果のある分ぶん子し標的薬が開発されている。この薬は, がん細胞が増ぞう殖しょくのためにつくる特有の分子のはたらきを阻そ害がいするので,周囲の正常な細胞にはほぼ影えい響きょうを与あたえず,副作用を減らすことができる。さらに,患者自身の皮ひ膚ふなどの細胞を使い,傷きずついた組織や器官を再生させる医療なども開発されている。 科学技術の発展と医い療りょう               ロボットアームを患者の腹部にあけた小さな穴あなから挿そう入にゅうし,モニターで確かく認にんしながら病巣をとり除のぞく。患部を3次元映像にするなどの情報処理技術が発展したことで可能になった。   手術支し援えんロボット84図   MRI83図X線の透とう過か量りょうのちがいをコンピュータで計算して体内のようすを画像にするもの陽よう電でん子しという小さな粒りゅう子しを使って体内のようすを画像にするもの磁界をかけて体内の水素原子の分布を調べて,体内のようすを画像にするもの❶❷❸神こう戸べ大学,兵ひょう庫ご県神戸市   病院における科学技術の利用85図小型なので,手術室に持ちこみ,患者の情報を確認しながら手術を行うことができる。(a) タブレット端末に表示した体内のようす患者の体内の3次元データをもとに3Dプリンターで患部の立体模型をつくる。血管や病びょう巣そうが再現されているので,事前に手術方法の検けん討とうや予行演習に用いることができる。(b)3Dプリンターでつくられた肝かん臓ぞうの模も型けいロボットアームモニター(a)装置の外観(b)脳の画像 今,再生医療といわれる技術が注目されています。なかでも,山やま中なか伸しん弥やが世界ではじめてつくった人工多能性幹かん細さい胞ぼう (iアイPピーSエス細胞) は医療を大きく変えるといわれています。iPS細胞とは,ヒトの皮膚などの細胞の遺い伝でん子しを操作することでつくり出した細胞で,体をつくるいろいろな細胞になることができます。これを利用すれば,ある組織や器官が傷ついても,患者自身の細胞からつくったiPS 細胞を使って組織や器官をつくり,患者本人に移植することが可能になります。組織や器官を再生させる医療技術3-249-K-z-ed01-siPS細胞 5101520環境  4章 科学技術と人間 249日本古来の耐たい震しんの知ち恵えを現代に活かす世界で起こる地震の約10%が日本付近で発生しており,日本は地震大国といわれています。しかしながら,日本には幾いく度どの地震でも倒壊せずに現げん存そんする,古い建築物が数多くあります。世界文化遺い産さんに登録されている京きょう都と府の東寺にある五ご重塔は,木造の塔としては,日本一の高さです。1644年に再建され,その後,370 年以上もの間,地震で倒壊することなく現存しています。これは柱の構造をくふうするなど,地震による建物のねじれを少なくするための高度な建築技術によるものといわれています。じゅう の とう例えば,各層そうは順々に重ねて積み上げ,ゆるやかに接合しているため,地震が起きても各層が交こう互ごに振しん動どうしてゆれを吸きゅう収しゅうすると考えられています。もし,各層がしっかりと固定されていれば,上層ほど大きく振動して中層部が損そん傷しょうしてしまうことも考えられます。また,塔の内部には周囲の柱や梁はりと固定されていない心しん柱ばしらがあり,これも塔全体のゆれを小さくするはたらきをしていると考えられています。このような地震のゆれから建物を守る技術は,現代の超ちょう高こう層そうビルの建築などにも参考になることが多く,高さ 634 mの東とう京きょうスカイツリーにも五重塔の心柱に似た構造が活かされています。東寺の 「五重塔」 とその構造(京都府京都市)「東京スカイツリー」 とその構造(東京都墨すみ田だ区)震度6強相当でゆらしても損傷がなく, 高い耐震性能を示した。五重塔の模も型けいによる耐震実験(防災科学技術研究所,茨いばら城き県つくば市)各層が交互に振動してゆれを吸収する。柱や梁と固定されていない。心柱心柱ダンパー鉄骨部てっこつ水平断面心柱の約250mの範囲は,その周囲の鉄骨部との間が動くことができるようになっている。 510環境  3章 自然が人間の生活におよぼす影響241災害からの被害を減らすための考え方の1つとして,「自助・共助・公助」 というものがあります。「自助」とは,各自が自らとり組むことで,災害から自分の命や身を守る行動や備えのことを意味します。「共助」とは,地域や身近な人がたがいに助け合い, 被害を減らすことを意味し,「公助」とは,国や地方公共団体がとり組む支し援えんや備えなどを意味します。この3つが連れん携けいし合いながら,うまく機能することが,災害時の被害を減らすポイントの1つと考えられています。自分が住む地域の白地図を用意し,白地図と重ねながら3枚の透とう明めいのシートA~Cに次の事項をかきこんで,自作の洪水ハザードマップを作成してみよう。シートA地域の基本情報をかきこむ□ 道路を茶色にぬる。せまい道路は黄色などで区別するとよい。□ 海や河川,用水路などを青色にぬる。□ 市町村指定の一時避難場所や想定できる避難場所を緑色にぬる。シートB地域の実地調査で得た情報をかきこむ□ 危険な水路やマンホール,消火栓せんなど,防災に関して気になる場所に赤色や黄色のシールをはる。□ 坂の傾けい斜しゃのようすがわかるように, 高い場所に標高の数値をかく。シートC浸しん水すい方向や避難ルートをかきこむ□ 透明シートA,Bをもとに,浸水が広がる方向(紫色)や早く浸水する場所(青色)などを推すい測そくしてかきこむ。□ 浸水場所をさけながら,避難場所への安全な避難ルートをさがし,緑色の矢印でかきこむ。□ 地域の実地調査の内容を記入した付せん,撮さつ影えいした写真をはる。この章の学習を終えたら,基本のチェックにとり組もう。 62防災・減災における 「自じ助じょ ・ 共きょう助じょ ・ 公こう助じょ」地域版ハザードマップ作成手引書(熊くま本もと市) よりシートを重ねて完成シートBシートBシートAシートA白地図白地図シートCシートC3-240-K-z-ex01照合点照合点   地域での助け合いは,災害に強い町づくりにつながる。ボランティアで雪かきを行う中学生(長なが野の県木き祖そ村) 51015202530240平成24年度用教科書からのおもな改訂点・自然からの恩恵や災害について,主体的に話し合い,考えることができる場面を新設しました。→p.230-231・ライフサイクルアセスメントやグリーンサスティナブルケミストリーを紹介し,環境への負荷の判断や科学者の倫理についてもとり扱いました。 →p.255, 259経験から得た知恵を未来志向で考えることができるように,章導入での古絵図,身近に見られる災害への備え,中学生が行うことのできる防災・減災などを紹介し,全面改訂しています。p.282-285のサイエンス資料は,これからの自然災害に向けた特設ページです。自然が人間の生活におよぼす影響3科学技術の発展の過程を解説し,その恩恵を交通輸送手段,情報通信,医療,宇宙開発の話題をとり上げながら紹介しています。科学技術と人間4持続可能な社会を目指して,科学技術をどう利用していくか,生徒自らが考えることができるように,テーマを紹介しています。科学技術の利用と環境保全5編各学年の学習内容  p.249 3 年  p.240 3 年  p.241 3 年自然災害から身を守る知恵や工夫を随所で紹介しています。科学技術の発展と医療では,手術支援ロボット,3Dプリンターで作った透明臓器,iPS細胞を利用した再生医療など,最新の話題を多くとり上げています。21

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