はじめに
私は「楽しくてためになる」というキャッチフレーズに,学校の授業が近づいてもよいのではないかと考えています.語学の学習には,長い時間や,気の長くなるような反復練習が必要です.その苦しいことに敢えて挑もうとする気持ちになるには,授業で味わった達成感や,楽しんだ記憶が重要な支えとなるのではないかと思うのです.
リスニングやスピーキングの授業ではコミュニケーションしたくなる雰囲気作りの大切さが多く言われます.個人作業と思われがちなリーディングやライティングにおいても,教師対生徒だけでなく,生徒同士の活動を通じて授業への参加意識を高め,学習へのモチベーションを高める効果があるのではないでしょうか.
先ず,すべての活動の基本となる生徒同士の人間関係づくりのために実施する,カウンセリングでのエンカウンターと呼ばれる活動を紹介します.続いてリーディングとライティング,スピーキングにおいての私の試みを述べてみようと思います.
1 エンカウンター
私は英語を学ぶ一番の目的はコミュニケーションの道具を身につけることだと信じています.それを明確に示すために,実施する活動です.言語,非言語どちらも大切だと強調し,実感してもらいます.
手順
[1] まず机を教室の隅に片づけて,自由に動き回れるようなスペースを作ります.
[2] 全員が立ち上がり,歩き回りながら全員と挨拶と握手をします.目をそらさずに見ること,好意をもった表情で,力強い握手が誠意の表れであることを十分強調してから開始します.
[3] 机を動かし,ペアーに分かれて5分間,好きな音楽やスポーツなどについて,交代で質問し相手に答えます.
[4] 再度机を動かして4人のグループになり,お互いに自分のパートナーを紹介しあいます.(教師は時間をときどき明示し,偏りが少なくなるように調整します.)
[5] 机を動かして8人グループになり,現在の感想を一言ずつ言います.(日本語を混ぜてもかまわないことにします.
2 リーディング
生徒は英語を日本語に置き換えた時,英語が分かったものと思いがちです.教師の側が「作者の意図はどこにあるのか」とか,「読者としての自分の言葉で第三者に説明できるか」といった点を生徒に求める重要性を感じます.
(1)内容理解のための活動例
生徒が協力して作業をすることにより内容理解を深めることを目的としています.
手順
[1] skimming(概要の理解)と scanning(必要な情報のみを手際よく抜き出す)を含んだ内容理解の問いを用意します.前者についてはパラグラフごとの小見出し,後者については特定の単語や数字などを尋ねる問いを作るわけです.
[2] クラスを4〜6人のグループに分け,答えを相談しながら配布した紙に書き込んでいきます.
[3] 生徒が回答した紙をその場で回収します.
[4] 再度黙読の時間を与えます.
[5] 正解率が低い答えには解説を加えながら解答していきます.
(2)リスニングと組み合わせた内容理解
内容理解のためのT&Fですが,ペアで確認する時間を当てるところがミソです.
手順
[1] 本文の読みの後,教師が読み上げた文が内容と合っているかどうか個々にT&Fで答えます.
[2] 横の席に座っているペアのパートナーと答え合わせし,答えが違う場合はなぜそうなるのかを確認し合います.
[3 ]教師は6,7名指名して答えを板書し,間違いの集中する答えのみ説明を加えながら解答します.
一人ひとり指名をした場合,自信がないために「わかりません」と言ったり,時間がかかったりすることがありますが,事前に相談するわずかな時間を与えることで,生徒も教師も重苦しい雰囲気から自由になれます.
3 ライティング
(1)何を書くか考える
最近の教科書は,環境問題や文化比較,差別問題等,生徒に考えさせたい題材には事欠きません.
教科書で安楽死の問題が出てきたときに何を書くかに重点を置いて活動した例を書きます.
手順
[1] 安楽死賛成派と反対派の2つがほぼ同数になるようにクラスを分けます.(自分の意見ではなく無差別に分けます.)
[2] さらにそれぞれを4〜6人の小グループにし,グループ毎に論拠をできるだけたくさん考え,箇条書きで列挙します.
[3] 回収した内容をプリントしておき,次の授業で打ち出された内容を参考に今度は生徒一人ひとりが意見をまとめます.英語の表現がわかりにくいときは日本語での説明を加えてもよいこととします.
ディベートのように無作為に賛成反対を決められることに戸惑いを覚える生徒もいますが,いろいろな意見を持った人たちがグループ内で話すことによって,一方的でない意見が書けたように思います.
(2)読みの後で作者に手紙を書く
文化比較を述べたあるレッスンを学習したとき,たまたまその作者は日本在住のアメリカ出身の方でした.住所も何とか調べられたので,その方に手紙を書くことにしました.
手順
[1] 意味や文法事項など一通り終えた教材を各自でもう一度読み,共感する部分あるいは反対意見を加えたい部分を探し出して書き抜きました.
[2] I read your article and I agree(disagree)with you 〜 because 〜 の文をそれぞれが書きます.
[3] ペアのパートナーに読んでもらい,気がついたケアレスミスや読んで分からないところは質問をしてもらいます.
[4] 自分で推敲します.教師に質問をしてもよいことにすると,この段階で多くの生徒が熱心に質問します.
[5] 手紙の形式を提示し,失礼のないような手紙に仕上げます.
この手紙には残念ながら作者からの返事は頂けませんでしたが,実在の人物がいる場合,本当のコミュニケーションのための手紙になるわけで,生徒の取り組みも真剣になります.
同じ要領で書いたALTの先生へのクリスマスカードには,書いた英文に込められた懐かしさの気持ちだけでなく,生徒が描く挿し絵の見事さに舌を巻きました.
ALTの先生は大変喜んでくれたようで,丁寧な返事が戻ってきました.
(3)文法事項を確認する
日本語から英語にする問題では,生徒は共通の間違いをしがちです.教師が解説するだけでなく,自分たちで間違いに気づいてほしいものだと,次のような活動をしてみました.
手順
[1] 生徒が書いた英作文から,文法や語法の代表的な間違いを含む英文を抜き出してプリントを作っておきます.
[2] 教師からヒントを聞いた後で,生徒はペアのパートナーと共に,相談しながら正しい文にしていきます.繰り返し正しい文を書くことになるのですが,この方法だとあまりに機械的にならずに練習できるようです.
[3] 正解は別に印刷しておき,後で配布します.
中学校の時から授業で繰り返し実施しているせいか,生徒はペアでの活動にはあまり抵抗がないようです.
指示を明確にし,短時間で区切った活動にすれば無駄話をする生徒も意外に少ないものです.
4 スピーキング
一言コメントで励ます雰囲気を作る.
たとえ母語であっても人前で話すことには緊張を伴います.それが外国語であればなおさらです.どうにかして encouragement を生徒同士で引き出せないかと考えて実施した試みです.
手順
[1] 1分間スピーチを一人ひとり順に行います.
[2] スピーチがきちんと聴けるよう,発表者以外の生徒は,内容と delivery について良かった点を小さな紙(B5を半分に切ったもの)に書きます.
[3] スピーチが終わった時点で,発表者に素早くコメントの紙を渡します.(ただしクラスの人間関係によってはいったん教師が回収し,改めて発表者に渡した方がよい場合もあります.)
[4] 教師のコメント(誉める点1つ,改良したいこと1つ)も,生徒のコメントと一緒にして渡します.
教師が書くより,クラスメートに誉められる方が支えられている実感を得やすいのでしょう.スピーチは抵抗があるがこのコメントをもらうのは楽しみだという感想を述べる生徒が何人もいます.
おわりに
生徒の力は実に多様です.英語力に多少問題があっても,大変ユニークな視点での意見を持つ生徒もいる一方で,テストでは優秀だが自分の言葉は持たず,メディアで繰り返されている評論家的意見をさも自分のものであるかのように繰り返すだけの生徒もいます.
ペアやグループワークを通じ,また教師が少しだけfeedbackの手伝いをすることで,生徒が互いの多様性と良さを認め合いながらさらに英語学習に意欲が増すことを願っています.
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