英語授業研究
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タスクベースカリキュラムの開発と
マルチメディア型LL支援システムの構築について

−高校生の英語学習ストラテジー研究を通して−
大阪府立千里高等学校
松 宮 新 吾

1.はじめに

 日本の英語教育はCLT1によるオーラルコミュニケーションやALTとのTTの導入など制度的・内容的に大きな変革を受けながらも,この10数年間ある一定の英語水準(TOEFL平均480-501点)を保ってきたということができる.しかし,全ての生徒に基本的・実践的なコミュニケーション能力を育成するという目標を達成しつつ,21世紀からの日本の英語教育を切り開くためには,学習者要因2を十分配慮し, SLA(Second Language Acquisition)理論などの枠組みに基づく教授・学習・評価方略の確立やカリキュラム開発が最重要課題であると考える.
 しかし,学習ストラテジー(learning strategy)や適性(aptitude)などの認知要因に関する研究や理解,さらに,英語教育への実践的な適用は十分であるとは言い難い.また,実践的なコミュニケーション能力の育成においては,(1)自主的・自律的学習能力(learner autonomy)の育成と,(2)有意味な認知理解形成を支援・促進するための各種方略の策定が重要である.そこで,学習者要因を的確に把握し,個々の生徒や対象集団にとって適切な処遇を与えるために,科学的な研究や分析に基づいた学習者理解と教授・学習・評価方略の確立が求められる.
 本稿では,筆者が実施した,(1)学習者要因(高校生の英語学習ストラテジー)の研究と,その分析結果をベースに開発した,(2)LL 演習用カリキュラムとLL演習支援システム,および,(3)開発したシステムの評価についての概略を紹介する.

2.高校生の英語学習ストラテジーに関する研究(SILL-J3の開発)

 R.L.Oxford(1990)は英語学習者が自己の学習方法改善のために自己診断的利用を目的とした50項目からなるSILL4を考案した.このSILLはlearner autonomy(自主的・自律的学習)の育成のためには欠くことができない重要な情報を与えてくれるものである.しかし現時点においては,日本の英語教育における社会言語的背景,歴史的背景や英語学習環境を反映した日本語版SILLは開発されていない.
 そこで,包括的視点に立って,普遍性と妥当性及び信頼性を備えた日本語版SILLの開発が急務であると考え,学習者要因の1つである学習ストラテジーに焦点を当て,高校生が英語学習の場面で用いる顕在的・潜在的な学習ストラテジーの実態や特性を把握するための日本語版高校生用英語学習ストラテジー質問紙(SILL-J)を開発した.
 R.L.OxfordのA NEW SYSTEM OF LANGUAGE LEARNING STRATEGIES(1989)をベースに,(1)SLA理論の重視と認知方略の幅広い組み立て直しと,(2)learner autonomyとself-regulated learningの重視(メタ認知方略・情意方略の機能的側面の強調)をポイントとしてSILL- Jを開発した.特に,日本の社会言語的環境や日本での英語教育・英語教授法の変遷や現行のカリキュラム特性や検定教科書の編成方針などを考慮に入れ,英語学習全般に関わる総括的な66の質問項目からなる調査質問紙を作成した.
 調査研究の結果,開発したSILL- Jが調査対象校のカリキュラム特性や社会・学習環境を高いレベルで忠実に反映することができるものであり,調査対象集団の全体的傾向と特色を把握することに適していることがわかった.また,外的基準として調査対象校の学校環境の差異や,調査対象集団を学年・成績・多文化経験の有無・男女という水準で分類し,属性別に英語学習ストラテジーの分析を行ったが,それぞれの水準特性を的確に把握することができ,質問紙としての弁別力の高さが確認できた.
 質問紙調査の結果分析では,項目分析,因子分析,分散分析,重回帰分析などの統計的手法を用いたが,これにより,調査対象集団においてユニバーサルに形成されている因子と,カリキュラム特性や学習環境などの影響を受け形成されたローカルな英語学習方略要因とを明確に分離・特定することができた.

3.カリキュラムおよびLL支援システムの設計・開発

 調査の結果から,筆者の勤務校では,「L2ベースでの有意味化を支援することができるハイパーテキスト・マルチメディアデータベースを利用することにより,言語,文化,社会的なギャップの理解が促進され,L2による理解や産出の量的・質的拡大を図ることができる」を授業仮説として設定し,カリキュラムやLL支援システムの設計・開発を行った.そして,仮説検証授業を通しそれぞれの有効性を「L2ベースでの有意味化の支援・促進」をキーワードとし評価・検定した.

3.1. TBLT5ベースのカリキュラム開発について
 開発したカリキュラムは,SILL-Jの調査結果から明らかになった2つの効果的な英語学習ストラテジー因子(「L2ベースの学習方略因子」・「有意味化による学習方略因子」)をLL演習の学習活動の中に位置づけることにより,L2(言語・文化)の理解・産出の量的・質的拡大を促進しようとするものである.今回は,映画「The Cure」(1995,MCA UNIVERSAL)をLL演習用に教材化した.特に,リスニングとライティングによる学習タスクを主とし,意味中心・機能中心の言語的相互作用が核となった学習活動が展開されるよう,また,CLTの基本的理念であるコミュニケーション能力の育成(学習者を中心とし,統語論的正確さよりも伝達の過程や成果を重視し,協同的な活動を通し社会的に適切な言語使用能力や自己表現能力を育成する)を支援することができるよう配慮した.
 このカリキュラムは,タスクが断片的となりがちな一般的なTBLTの学習活動とは異なり,ストーリーの展開に沿って,内容の把握・理解や自己表現活動を行うという一貫性を持たせた学習タスクで構成した.以下にその成果の概要を示す.
(1)L2での言語的,文化的な有意味化が有意に促進され,L2使用・産出において,顕著な質的・量的な拡大が確認できた.
(2)L2ベースの学習方略は,英語学習における生徒の有能感や効力感を高めた.

3.2. LL支援システムについて
 開発したマルチメディアデータベース型LL支援システムは,L2ベースによる有意味化を支援・促進するためのツールとして位置づけた.そのために,フィルムスクリプトのキーワード検索が可能なテキストデータベースに,映像データベースをハイパーリンクさせたLL支援システムを開発した.
 また,L2ベースで文化・社会・歴史的な背景知識を学習するために,CD-ROM版の百科事典を利用することができる環境を構築した.
 本LL支援システムの特色は,キーワードの入力により,キーワードが含まれるシーンが連続的に再生され,学習者の情報検索型・探求発見型の課題解決学習を支援することができるということである.
 本システムにより,学習者の分析的能力が活発に喚起され,L2ベースでの有意味化が促進された.また,LL支援システムがL2ベースの有意味化を促進したことにより,ライティングタスクでのL2産出が質的・量的に極めて有意に増大した.

3.3. 評価方略について
(1) 中間言語の積極的評価
 学習者が用いる中間言語の積極的評価を行うことにより,L2産出の量的・質的拡大が促進され,L2ベースの学習方略を促進・定着させることができた.
(2)タスクの評価と従来の英語学力評価テストとの相関
 本仮説検証授業で実施した評価テスト項目をタスクベースの評価項目と従来型の評価項目とに分類し,英語実力考査得点とそれぞれの相関関係を検定した.その結果,タスクベースの評価項目は,実力考査などで測定されてきた英語学力とは異なった学習者の英語能力的側面(コミュニケーション能力の下位項目)を測定していると判断することができた.すなわち,本評価方略は,コミュニケーション能力の測定に,より適したものであった.

4.今後の課題と改善へ向けての示唆

4.1. 日本語版高校生用英語学習ストラテジー質問紙(SILL-J)について
 SILL-Jの妥当性や信頼性をより高めるためには,質問項目の表現の曖昧さや,ワーディングの不適切さを改善し,学習者要因を的確に抽出することができるよう質問項目を精選・精緻化する必要がある.

4.2. TBLTのカリキュラムについて
 TBLTにおいては,学習の対象となるタスクが学習者にとって有意味(meaningful)であるばかりでなく,カリキュラムを構成している学習タスク群が,ストーリー性を備えているなどの一貫性や,学習者にとって有意味化を図りやすくすることができるように構造化されたものであることが重要である.そのためには,学習タスク相互の関連性や整合性を配慮し,授業展開の中に適切に位置づけられなければならない.

4.3. マルチメディア型LL支援システムについて
 開発したシステムにより,学習者自らが「学び方を学ぶ」(learn how to learn)能力を育成することが可能となるよう,さらにintegrateされたものへと改良していく必要がある.また,LL支援システムを,個別ベースで利用することができるCALL環境での試用や検証が望まれる.

1 Communicative Language Teaching
2 情意要因(affective factor: 興味・関心・態度・動機づけなど)と認知要因(cognitive factor: 学習ストラテジー,学習者特性など)とに大別することができる.
3 日本語版高校生用英語学習ストラテジー質問紙
4 Strategy Inventory for Language Learning
5 Task-Based Language Teaching

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