授業に生かす
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オーセンティック・アセスメントと
ポートフォリオ評価(1)
兵庫教育大学助教授
吉 田 達 弘

「興味・関心・態度」をどう評価する?

 私の勤務校では,多くの小・中・高の現職教員が大学院生として在籍していて,現場での問題を直接的に聞くことができます.昨年は「英語学力評価論」という授業を担当したのですが,この授業でも,英語科での「評価」について,どのようなことが問題なのかを認識し,共有することができました.例えば,現行の学習指導要領では,生徒の「コミュニケーションに対する興味・関心・態度」について観点別評価をすることが要求されていますが,多くの教師たちはこれに悩んでいます.考えてみれば,生徒たちの「興味・関心・態度」はいつも一定のものではなく,教材,活動,また,教室の雰囲気でも,変わってくるものでしょうから,これを評価するというのは非常に難しい作業です.また,「興味・関心・態度」といったものは,元々当の本人が内省的に振り返ることでわかるもので,外側にいる人間が「評価」できるたぐいのものでないかもしれません.大学院生も,結局,挙手の回数を数えてみるとか,ノートを提出させてどのくらいきれいに書けているかをみることで観点別評価を行うといった苦肉の策をあげていました.このようなやり方でないと,最終的に点数化し,評定できないからだと言います.しかし,ここで考えたいことは,私たちは,子どもたちの活動について見えたものを,どうにか数量化(点数化)しなければならない,という意識が強すぎるのではないかということです.「評価」とは,目標を設定し,それに沿って計画を練り,授業を実践し,最終的に出てきた成果を,最初の目標と照らし合わせる,必要であれば,目標を修正していくという一連の行動のあり方です.したがって,「評価」は「評定」とイコールではありません.しかし,多くの授業では,最初の目標の設定がなされないまま授業が進められます(教科書中心のシラバスです).目標設定がなされていれば,生徒たちも自分たちのやっている活動や出てきた成果がどのように位置づけられるのかが見えるはずです.もし学習活動がうまくいかないということになってくれば,目標を修正することも必要でしょう.このように,評価は目標や活動へのフィードバックを与え,生徒にとっては学習を,教師にとっては授業を振り返る材料を提供してくれるものでなければなりません.現状の学習活動では,フィードバックを与えてくれるはずのテストが,唯一の目標となり,また,このテストも学期や学年の最後におこなわれ,教師にとっても,生徒にとっても,目標や学習活動を修正するのには役立つ情報になっていません.
 さて,「興味・関心・態度」に戻りますが,これらの要素について,評価についての一律の基準を立てることは,そもそも可能でしょうか.すでに述べましたとおり,「興味・関心・態度」は,個々人でばらつきがあり,また,その度合いは,そのときに何を使って,どんな活動をしているかに強く依存しているはずです.ですから,英語に興味があっても,それを態度に表せない生徒,また逆に,英語という科目にそれほど関心はないのだけれど,(成績のために)教師の前では,はきはきと振る舞う生徒,たまたまそのときの教材に食いついてくる生徒といろいろいるでしょう.したがって,「興味・関心・態度」を見極めなければならないとすれば,それは,実際の活動の中,状況,文脈の中でおこなわなければなりません.新学習指導要領で大きな柱になっている「実践的コミュニケーション能力」にしてもそうです.外国語能力の標準テストに関しては,かなりの開発が進んでいますので,それらのテストが理論的前提としている(仮説構築物としての)言語能力の測定は可能でしょう.しかし,コミュニケーション能力は,常に対人的であり,社会的であり,発達的です.また,授業は,それぞれの教室で異なった文脈の中で展開されているでしょうから,いわゆる標準テストだけで,生徒の力を測ることは困難でしょう.したがって,私たちは学習の結果(テスト)ばかりでなく,生徒たちが,どのように学習をおこない,どのように進歩してきているかというプロセスにもっと注目していかなければなりません.問題は,どのような方法でプロセスを見極めていくかです.そこで,新しい評価法の一つとして,近年わが国でも注目され始めた「ポートフォリオ」を用いた評価法を本号と次号の二回にわたって,ご紹介したいと思います.

ポートフォリオとは?

 ポートフォリオとは,もともと芸術家や写真家たちが自分の作品を入れて持ち歩いていたフォルダやファイルを意味していました.芸術家たちは,自分の作品の中から優れたものを選び出し,フォルダに放り込んでいました.教育においても,子どもたちがつくった作品,自己評価法,教師や他の生徒からのコメント,自分のパフォーマンスを撮影したビデオテープなどを蓄積していくフォルダと考えてよいのですが,ポートフォリオを用いた評価法といった場合,フォルダそのものよりも,学習のプロセスとプロダクト,あるいは生徒の自己評価をシステマティックに評価していく方法を指すといった方がいいでしょう.(ただ資料を集め,ファイルすればよいというわけではないことは,後述します.)また,生徒たちにとっては,ポートフォリオという一つの作品づくりといってもいいかもしれません(大隅,2000).
 ここ数年,わが国でポートフォリオを用いた評価法が注目されている理由は,2002年から施行される「総合的学習の時間」にあります.すでに実施している学校もありますが,総合学習の導入にともなって出てきている問題は,評価をどうするかです.総合学習では5段階などの評定は出されません.新学習指導要領には,指導のねらいとして,「自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること」,また,「学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにすること」と書かれています.つまり,問題解決の仕方を学び,その中で自分の学習を振り返ること(リフレクション)が必要になってくるのです.これは,主にテストによって生徒の知識・能力を測ってきた教科学習とは異なった評価を要求するものです.そこで,このところにわかに注目され始めているのが,ポートフォリオを使った評価法です(大隅,2000;加藤・安藤,1999).私は,このポートフォリオを使った評価法が,総合学習だけでなく,英語科にも十分に組み込むことが可能ではないかと考えています(実際,海外では外国語教育に取り入れ始められています).具体的に方法を述べる前に,海外でポートフォリオを用いた評価法が登場した背景をみてみましょう.

オーセンティック・アセスメント

 ポートフォリオを用いた評価法は,主に1970〜80年代のアメリカの教育の中で生まれ,今日では一つの運動体,あるいは制度をなしています(例えば,州によってガイドラインがつくられています[堀江,1997]).その背景には,それまでのテスト中心の評価への反省がありました.つまり,テスト中心の評価では,生徒たちの本当の学びの結果が見えてこないし,授業や学習を計画していくのに役立つフィードバック(情報)が提供されないというわけです.そこで,提唱され始めたのが「代替評価法(alternative assessment)」や「オーセンティック・アセスメント(authentic assessment)」です.「オーセンティック」とは,「本物の,真正の」といった意味ですが,ここでは,教室での学習活動の中で生徒たち自身が学習や到達度,動機づけ,態度を振り返る様々なやり方(multiple forms)を用いた評価法のことを意味します(O'Malley & Valdez-Pierce,1996).パリスとエイヤーは,オーセンティック・アセスメントの特徴として,次のような点をあげています(Paris & Ayres,1994: 7-8).

    1)教室でおこなわれている実践や生徒たちの体験に密着した意味のある評価をおこなう.
    2)できるだけ多くの活動から生徒たちが学んだ証拠を集め評価する.例えば,作品の音読や感想,創作,読書リスト,ジャーナルといったものが含まれる(注:ここでの「ジャーナル」とは,どのような活動をおこない,どのような内容を学んだかについて,書き記していく記録帳のことです.)
    3)評価の結果が,生徒や教師に直接フィードバックされるので,生徒たちの動機を高め,学習を促進させる.
    4)学習がおこなわれている場での価値や標準を反映した評価にする.また,地域に最も適した評価が行われ,結果は父母や行政機関にも提供される.

 この評価法の最大の特徴は,生徒たちが「自己評価」をおこなうということです.これまでは,<評価者=教師>でしたが,オーセンティック・アセスメントでは,生徒自身が評価者に加わります.そして,自己評価を実施すると,生徒たちは学習に直接関与するようになり,学習に必要な認知能力と学習への動機,態度を統合し始めます.もっと進んだ生徒になると,自ら活動や教材を選択し,時間や教材の使い方についての計画を立てるようになります.どうやら,この評価法を教室に取り入れていくためには,私たち自身が持っている「教えること」,「学ぶこと」についての発想を転換することが必要となってきそうです.
 ポートフォリオを用いた評価は,オーセンティック・アセスメントの代表的な方法なのですが,次回は,その具体的な方法について述べてみたいと思います.

(参考文献は次号に一括掲載します.)
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