|
小学生と東大生
小学生の英語学習を取り上げたテレビ番組で,小学生と東大生が数人ずつ一緒に輪になってテストを受ける場面がありました.まず東大生の一人が「きゅうり」の絵を見せられて,英語でヒントとなる単語を言いました.“vegetable,green,long.”しばらくの沈黙のあと,小学生の一人が,“cucumber!”と正解.次に全員に「ごみ箱」の絵が見せられたのですが,“garbage can!”と叫んだのはやはり小学生でした.ゲスト達は一様に驚き,東大生をもう一度小学校に入れた方がいい,というようなコメントがあって番組が終わりました.しかしこれは驚くようなことではありません.今までの日本で実際に求められた英語力は,主に大学で専門分野の文献を英語で読むためのもので,「きゅうり」とか「ごみ箱」の様に日常生活の何でもない言葉など,出る幕はありませんでした.逆に小学生に教える英語は,身近なものについてのやりとりに限定されているからです.
問題は,いったいあの小学生達が,大きくなって,“cucumber”や“garbage can”という言葉を使うだろうかということです.筆者の娘も幼稚園の2年間をアメリカで過ごしましたが,帰国したときには全く不自由しなかった日常生活の英語を,中学に進学する頃にはすっかり忘れてしまっていました.日本では英語を使ってもいじめられるのが関の山で,生活で英語を使う場面が全くなかったからです.結局,外国語は日常使っていなければ,どんなに優秀な人でも使えるようにはならないし,逆に使ってさえいれば,誰でも使えるようになるのです.この当たり前のことを脇において,教科書や教え方を変えてみても全く無意味なのです.いくら英語で話そうと思っても,日本での英語母語話者の割合は1万人に5〜6人ですから,そんな機会はめったにありません.今までほとんどの日本人が英語を使えなかったのは,英語教育が悪かったわけでも何でもなく,しごく当然なことだったのです.
マルチメディアの発達
せっかく英語のやりとりを習っても,使う場面が全くないという長年の状況を,今マルチメディアが画期的に変えようとしています.自分の部屋で,毎日いくらでも英語が使えるようになったのです.それも気の進まない「勉強」としてではなく,「遊び」感覚で,英語を楽しんで使えるようになりました.
まずInputで英語を使う場合は,今までは活字メディアを通したものがほとんどでした.そのセリフを言った人の声の調子も,顔の表情もなく,無味乾燥のアルファベットだけが並んでいました.そんな英語をいくら暗記しても,実際の場面で自然に,自信をもって使うことはできません.それが,1989年のNHKによるBS放送開始を皮切りに,CNN,BBCと,英語圏で楽しまれているテレビ番組が一日24時間そのまま私たちも楽しめるようになったのです.
高校レベルのListeningでは,例えば,あのディカプリオが子どもの頃に出演している「シーバー家 」(NHK教育,水曜午後6:45より)を家で日本語で見させておき,教室では生徒達に「これを英語でどう言うのかな」と思った個所を発表させた後,英語版を聞かせて解説します.英語で表現したいという気持ちにさせ,声の調子や身振り手振りまで含めたsituational contextを英語表現と結びつけることができるので,これは理想的な学習方法です.
CNNが受信でき,インターネットにつながっていれば,例えばCNN Newsroom(火〜土,午前1:30〜2:00)がお薦めです.これはアメリカの中・高生を対象にした番組で,曜日ごとに,環境,国際,経済,科学技術,ジャーナリズムの特集も組まれ,さまざまな問題を分かりやすく解説してくれます.キャプション付きなので,録画しておけばそのままでも使えますし,テキストとして生徒に配付したければホームページ1)から簡単に印刷もできます.その上,毎回の内容について詳しい解説や関連情報を満載したガイドまで用意されていて2),まさに至れり尽くせりの充実ぶりです.
Readingについても,生徒は今までのように,ごく限られた教材をむりやり読まされるのではなく,無限ともいえるウェブサイトの中から,自分の興味にピッタリ合ったホームページを選んで読めるようになりました.例えば,7〜12才の子供を対象にしたYahooligans 3)を利用すれば,キーワード検索で面白そうなサイトを見つけることはもちろん,DownloadをクリックしてPictures,Sounds,Videosからお望みのものを手に入れることもできます.趣向を凝らしたサイトが次々に現れて,驚きながらいろいろ遊んでいるうちに,「勉強」という意識が全くないまま英語学習がしっかり成立しているのです.
Time誌の子供版,Time for Kids4)もウェブサイトで楽しめます.単語はともかく,構文は簡単なので,高校生でも充分楽しめます.漫画が好きならStrip Library 5)がお薦め.Peanuts からTarzan まで,およそ60のStrip(=数コマ漫画)の中から自分の英語力にあったものを選んで,毎日楽しむこともできます.
こうしたホームページの英語を読む作業自体もずいぶん簡単にできるようになりました.例えば,BABYLON 6)を一度インストールしておけば,画面上の知らない語句にカーソルをあててクリックするだけで瞬時に意味が現れ,辞書を引くときのように思考が途切れることなく,簡単に読み進めることができるのです.
可能になったOUTPUT
マルチメディアの発達のおかげでInputが簡単にできるようになったのもさることながら,何といっても,手軽にOutputができるようになったことがまさに画期的な出来事といえます.いつでも好きな時に,どこからでも,実在する外国の人に1対1で発信することなど,ひと昔前には夢のまた夢の話でした.それが今では,インターネットにさえつながっていれば,いつでも,どこでも,外国の人達と実際に英語を使ってコミュニケーションを楽しむことができるのです.
まず手始めにEメールをさせてみましょう.例えば Keypals Club 7)にアクセスして,こちらの情報を入力すると文通希望者のリストが現れます.その中からクラス単位,もしくは個人単位で適当な相手を選んでクリックすると,こちらからのメール画面になり,書き終われば自動的に送られる仕組みです.あるいは,Penpal Box 8)では,5〜16才までの子供たちが書いた自己紹介文を直接見た上で相手を選ぶことができます.ここもクラス・個人単位で相手が見つかるようになっており,生徒達は紹介文を読みながら相手を選んでいる間にも,無意識のうちに英語学習ができるのです.他にも,世界中の英語教師の間で人気の高いウェブサイト Dave's ESL Cafe 9)の開設者 Dave Sperling 氏による Dave's ESL Email Connection 10)や,写真付きのリストまである Cyberfriends 11),性別と年齢で分類してある PenPALS,Inc.12)など,すべて無料で相手を紹介してくれます.
お喋りも簡単にできます.schMOOze University 13)という仮想大学に入学すれば,居合わせた人たちとキーを叩いてチャットができるのですが,初心者の相手もしてくれますので,高校生でも充分楽しめます.記録に残そうと思えば,そのまま簡単に保存でき,教材として使えるのも長所です.便利なクライアントソフトは日本語の説明付きで手に入ります14).
顔を見ながらマイクでお喋りすることもだんだん普及してきました.例えばマイクロソフトの NetMeeting 15)や Vocal TecのInternet Phone 16)などをインストールして,マイクとカメラを接続すれば,いわゆるテレビ電話が楽しめます.ただし,今のところ映像も音声もとなるとかなりの負荷がかかりますので,代表の生徒にさせてみるのがいいでしょう.
インターネットの可能性
英語教育でのマルチメディア,特にインターネットの活用はまだ始まったばかりですが,その可能性は限りなく大きなものです.とりわけ,実在する外国の人と一対一の双方向コミュニケーションを可能にしたことは,今まで日本を外国から隔てていた見えない壁に大きな風穴を開ける出来事でした.生徒達はやっと本物のコミュニケーションの道具として,毎日英語を使うことができるようになったのです.それと同時に,まず使用から始まる帰納的な学習が初めて可能になりました.まさに母語の習得と同じように,使いながら覚えていく自然な学習ができるようになったのです.
さらに最近では,Eメールやチャットでの,いわば一対一の交信の段階を経て,様々な目標達成のための行動の一環として,世界の仲間達と新しい人間関係を築きながら共同作業を進め,その成果をホームページにまとめて世界に発信するようなプロジェクトも増えてきています.教室での授業を越えて,そうしたネットワークやプロジェクトといった新しい仕組みを作ってやることこそが,これからの英語教師の大切な役割になろうとしているのです.
<注>
1)http://cnn.com/TRANSCRIPTS/nr.html
2)http://learning.turner.com/newsroom/index.html
3)http://www.yahooligans.com/
4)http://www.timeforkids.com/TFK/
5)http://www.unitedmedia.com/comics/ peanuts/a_striplib/index.html
6)http://www.babylon.com/jap/から無料でダウンロードできる.
7)http://www.mightymedia.com/keypals/
8)http://www.ks-connection.org:80/penpal/penpal.html
9)http://www.pacificnet.net/~sperling/eslcafe.html
10)http://www.pacificnet.net/~sperling/student.html
11)http://www.cyberfriends.com/
12)http://www.bestmall.com/penpals/
13)http://schmooze.hunter.cuny.edu:8888/
14)http://members.tripod.co.jp/schmooze/JPN/index.html
15)http://www.microsoft.com/windows/netmeeting/などから無料でダウンロードできる.
16)http://www.ipc.ne.jp/iphone/download.htmから7日間の試用版がダウンロードできる. |