授業に生かす
英語目次へ
高校英語教育:試してみよう(3)
−図書室に英語の本を!−
東京学芸大学教授
金 谷   憲

はじめに

 この稿は,高校でちょっと違った角度から試してみてはどうかということを3回シリーズでお伝えしようというものである.今回はその3回目で,最終回である.
 今回は授業に間接的に役立ち,授業を豊かにするための環境整備のお話をしたい.

図書室に英語の本がない

 商売柄(?),私は中学校や高校にお邪魔する機会が多い.学校によって,いろいろな校舎や教室の作り方があって見るのが楽しみなのだが,その際に気づくのが,図書室が概して貧弱であることである.部屋そのものではなく,中身の話である.
 公立学校の図書室の中身はちょっと寂しい.私立校(もちろん学校にもよるが)の図書室には立派なものがある.図書室というよりも,むしろ図書館と言った方がよいようなものまである.アメリカのハイスクールなどの図書室を見せられるとあまりに立派なので少々がっかりしてしまう.
 それでも,中学校の図書室と比べると高校の図書室はさすがに充実度が違う.しかし,図書室の中に英語の書物を見つけることはむずかしい.あったとしても,百科事典ぐらいが関の山である.英語の書物はおろか英語の雑誌,英字新聞などは見あたらないケースがほとんどである.
 小学校などではこのごろ,「調べ学習」が盛んに行われている.つまり,授業で出された課題について個々の生徒が人に聞いたり,資料などを調べたりしてレポートする学習形態である.
 中高でもだんだんこの形式がとられるようにもなってきている.だから,小学校並み(?)というわけにはいかないまでも,高校の英語でも資料を調べて発表したり,討論したりすることが出てくるだろう.その時に「図書室に行って調べておいで」と言えるかというと,今のところそうなっていない.英語の資料はほとんど何もないのである.

図書室に英語の本を

 図書室に英語の本や新聞などを揃えておき,授業と併せて使うと,授業の幅を広げることができる.
 このシリーズ(1)でも強調したように,日本の英語教育,最大の問題点は,生徒の接する英語の量が極めて少ないことである.
 何とかして,英語の量を増やしたい.教科書の読み方などを工夫して,実質上,生徒の接する英語の量を増やすことも考えてみる必要がある.これについてはこのシリーズ(1)で書かせていただいた.それに加えて,教科書以外の英文を読ませたり聞かせたりする工夫が必要である.

英字新聞から始めよう

 まず,英字新聞ぐらいから始めよう.英字新聞をとっていても生徒は読まない(読めない)と思う先生方が多いだろう.確かに,ただとって図書室に置いておくだけではダメだろう.なにせ,日本語の新聞ですら読まない生徒たちが多い昨今である.
 工夫をするのである.週毎に当番を決めて,週刊ニュースダイジェストなどを作らせて,毎週発表させるなどというのはどうだろう.と言っても,あまりむずかしいことは考えず,その週の主なニュースの見出しだけをリストさせ,イラストを少しつけさせたものを教室に壁新聞のように張り出すだけ,といった程度のことにするのである.この程度なら,どの生徒にもでき,長続きしそうである.
 英字新聞を読むのは意外にむずかしくない.邦字紙と対照させれば辞書を引く手間も大幅に減らすことができる.また,こうすれば,邦字紙も読むことになる.
 語彙を増やすという観点からなら,1週間,1つの事件を追わせる方がいいかもしれない.大きな事件なら,毎日関連記事が載るはずだから,毎日その事件の記事を読ませれば,関連の語彙が生徒の頭に残りやすいはずである.
 コツは授業の中で生徒全員にやらそうとしないことである.クラスの何人かを当番にして週替わりで授業の外で担当させるようにするのである.英字新聞を購読することにしても,1部かせいぜい2部程度だろう.一時にたくさんの生徒が図書室に殺到しても,どうにもならない.また,授業で扱うだけの,時間的余裕はないはずである.

Reading Libraryで多読

 入門(?)は,英字新聞であったが,さて,いよいよ英語の本を使う話である.
 簡単な読み物のライブラリーを設けて多読をさせる話をしよう.これには高校での実際の取り組みがいくつもある.
 読ませ方はいろいろある.1学期に必ず何冊かは読んで,内容を報告することを義務づけるようなやり方もある.また,興味のある生徒にだけ任意で読ませるという場合もある.また,そうして読んだ場合は何らかの形で成績に組み入れるという高校もある.
 多読月間を設けるという手もある.山梨県の私立高校,山梨英和高等学校では,10年以上も前から4週間の多読プログラムを年に2回,実施している.
 これは,希望者を募って,60名ほどの生徒に,4週間の間,ライブラリーから好きな本を選ばせて,読ませるのである.ライブラリーはこの10年間で集めたもので,幼児向けの絵本のようなものから,かなり骨のあるものまで600冊程度である.読んだら短い感想やコメントを英語または日本語で所定の用紙に書き込ませる.教師は生徒の持ってきた用紙にサインをするだけである.
 このプログラムはマラソンという形をとっている.本には難易度と分量によってキロ数が明記されている.それにしたがって読んだマイレージ(キロ数)が出る仕組みになっている.むずかしくて厚い本を読めばそれだけ距離が出るのである.
 こうするとたった4週間の間でも読む生徒は相当たくさん読めることがわかった.今のところの記録は4週間で42冊である.
 また,こうした4週間の読書体験がリーディングの力に影響を及ぼしていることを示唆するような結果も出ている.(詳しくは参考文献参照.)

ライブラリーづくりは簡単

 英語の本を揃えると言ってもそんなにむずかしいことではない.Oxford University Press(OUP)やLongmanなどが出しているレベル別の読み物を集めてゆけばよい.OUPのBookwormシリーズなどは一番簡単なものは400語レベルである.日本流の数え方なら1000語前後であろうか.いずれにしても高校生の手に負えないというものではない.
 1冊はページ数も少ないので,単価も安い.5年計画ぐらいでぼちぼちと増やしてゆけば,あまり無理なく集められるだろう.
 あまり大きな声では言えないが,こうした読み物のサンプルを請求して,出版社からただでもらってしまうという裏技(?)もある.全部この手で行くのは道義上まずいだろうが,ライブラリーの一部はこの手でも,教育のためということでご勘弁いただけるのではないだろうか.
 絵本というのでは興味が湧かないという高校生には,本物(?)のペーパーバックのようなものがよい.native speakerの小中学生向きの読み物には日本の高校生にも使えるものがある.例えば,Carolyn KeenのNancy Drewシリーズ ,Franklin DixonのHardy Boysシリーズなどは有名である.
 どちらもハイスクールの名探偵がいろいろな事件解決に挑戦するというもので,Nancy Drewは女の子向け,Hardy Boysは男の子向けか.どちらのシリーズも100冊以上も出ている(出版POCKET BOOKS).ページは150ページ前後とかなり長いがミステリー好きの高校生がこれにはまって,英語好きになることも考えられる.

パソコンを図書室に

 英語の本を図書室に用意する話をしてきたが,これからは,必ずしも本の形をしていなくてもよいはずである.パソコンソフトでもよいし,CD-ROMということも考えられる.
 図書室は学校の情報センターなのだから,ネットに接続できるパソコンを図書室に数台設置しておきたい.
 パソコンはパソコン教室に設えて授業の中で使うという形式が一般的のようだが,それはそれでよいとして,それ以外に情報検索用のパソコンが生徒が常時使えるような場所(つまり,図書室)に備えられていると英語科としては大変に使い勝手がよい.
 このようにすると,英語I,IIやリーディングの時間に扱っている題材についての「調べ学習」をさせることもできるし,さらに,ディベートやディスカッションなどの資料を得るためにも使えるからである.
 皆さんの学校ではどうだろうか.私がこれまで見た範囲では図書室にパソコンがある高校は絶対少数派だった.
 ネットにつながなくても,図書室蔵書の検索には当然パソコンが使われる.本のあるところは図書室だけではない.職員室や校長室,その他の部屋にも先生方の机の上にもあるはずである.そういった本も含めてデータベースを作っておけば便利である.何も「情報教育」などと大上段に構えなくても,こうしたところから日常的に情報教育を行うことができるはずである.そして,英語の授業も豊かになることは間違いない.

シリーズ結び

 以上3回にわたって,高校の英語教育で,ちょっと違った角度から試してみたら意外な効果が上がりそうなことをお伝えしてみた.
 あまりむずかしく考えずに,ひとまず試してみていただきたい.うまく行かなければ,また他のことを考えればよい.うまく行かなければ止めてまた他のことを試してみればよいのである.地道な試行錯誤が実践を豊かにする近道なのだから.

(かなたに・けん)

参考文献
金谷憲,長田雅子,木村哲夫,薬袋洋子(1990),高校における多読プログラム−その成果と可能性−,『関東甲信越英語教育学会紀要』第5号,pp.19-28.
金谷憲,長田雅子,木村哲夫,薬袋洋子(1991),英語多読プログラム−その読解力,学習方法への影響−,『関東甲信越英語教育学会紀要』第6号,pp.1-12.