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It's Greek to Me
チンプンカンプン
旭川工業高等専門学校教授
十河 克彰
 経典はもともと,梵語,サンスクリット語で書かれ,中国に入り漢文に翻訳され,日本に導入されました。中国で勉強した日本人僧侶は,漢文で経を学びましたから,レ点などはもちろん使用せず,文頭から読み下していきます。しかも発音も中国音ですから,我々が経を聞いても,チンプンカンプンです。これと似ているのが,カトリックです。新約聖書の原典はギリシャ語ですが,それをラテン語に翻訳して,カトリックの人は使っています。ラテン語は中世ヨーロッパの知識人には,必須のものでしたが,庶民には無縁の物でした。
 昔,UK,US の学校では,ラテン語を教えました。Goodbye, Mr. Chips のチップス先生はラテン語の先生です。しかしギリシャ語はいけません。全く分かりません。それで,

It's Greek to me.

 という慣用句が誕生したそうです。「英語はまったく分からない」,でしたら,

English is Greek to me.

 と言います。
 私より,はるかに読解力のある国語の先生が,日本語で書かれている本を前にして,チンプンカンプンだといって嘆いていました。PCのマニュアルです。

The manuals of the computer he bought were Greek to him.

 日本語で書かれていてもギリシャ語なのです。
 漱石の「博士問題とマードック先生と余」に,この表現が出てきます。先生を自宅に訪ねたとき,先生は漱石を座らせ,一冊の本を取り出し,朗々と読み聞かせます。そして漱石に感想を求めます。すると漱石,まったく一言も理解できず,「英語ですか」と聞くと,先生は,「ギリシャの詩だ」と答え大笑いした。とあります。この会話はおそらく英語で行われたはずです。多分。

漱石:It was Greek to me. English?
先生:Greek poem!

 漱石は,‘Greek’ に「珍粉漢」の文字を当てています。