English Expressions A la carte
英語表現アラカルト
英語目次へ
Is not this THE carpenter's son
ナザレに大工は何人いたのか
旭川工業高等専門学校教授
十河 克彰
 吉幾三さんが歌う歌に、「テレビもネェ、ラジオもネェ…」、「だから俺ァ東京へ行くダ」、というのがあります。あれもない、これもない、と日本語は「ない」ことを強調しますが、英語は、反対に「ある」を前面に打ち出します。

I was born and brought up in a one-horse town.

 馬は昔、どこにでもいた、ありふれた動物でした。その「馬が、1頭いる村」に私は生まれ育った。すなわち、「面白いものなど何もない、退屈なド田舎で生まれ育った」ということになります。あまりにも人はこの表現を口にするものですから、バリエーションは無数にあります。たとえば、 one-shop town, one-drugstore town, one-doctor town, 等です。
 英語聖書講読時のことです。先生はアメリカ人牧師です。
 イエスが故郷、ナザレに帰り、シナゴーグで村人に説教をします。聞き終えた人たちは、

“Where did this man get this wisdom and these miraculous powers?”

Matthew 13-54, New American Standard Bible
「この男はかかる知恵、かかる力ある業をどこで習得したのか」(筆者訳)

と言って驚き、続けて言います。

“Is not this the carpenter's son? Is not his mother called Mary, and his brothers, James and Joseph and Simon and Judas?”

Matthew 13-55, New American Standard Bible
「これはあの大工の息子ではないのか…」

 ナザレ村の人は、イエスの教えに感心もしましたが、あの大工の小倅の wisdom に驚いたのです。しかも、どこぞの、偉い人に師事したとか、また、ローマに留学した話など、聞いたとこともありません。どうもこれは、インチキくさい、というわけです。
 ところで、と私、「ナザレの村には大工は何人いたのですか」、と聞きますと、牧師先生は、怪訝な顔をしました。なぜかかる自明のことを聞くのか、というわけです。でも答えてくれました。

 「当然一人である」。
 「なぜそう言えるのですか」。
 「the carpenter、と定冠詞が付いているからである。もし村に複数の大工がいたら、“Is this a carpenter's son?” となる」。

 合点のいかない私の顔を見て、先生は、「例えば、とある学校を訪問し、教頭を紹介されたとする。 This is the vice-principal. と the が付いていれば、教頭は一人である。しかし、 This is a vice-principal. と不定冠詞なら、教頭が複数いる学校と分かる」。
 すっかり感心した私は、先生に聞きました。 

 「英語圏の子供は、この違いは何歳ぐらいで理解するのですか」。

 先生の答えです。

 「どんな子でも4,5歳になれば、自然に理解する」。

 こう言われては、50歳を過ぎた英語教師の私は、何か言わねばなりません。言いました。

“Nazareth was a real one-carpenter town, wasn't it?”

 先生はニッコリしました。