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Fill'er Up
満タン
旭川工業高等専門学校教授
十河 克彰

 アメリカ映画での話です。砂漠の中の一本道を走る一台の車が上空からロングショットで映しだされます。視界に人間の営みを感じさせるものはありません。やがて2、3軒の家屋が見えてきます。モテル、食堂、ガソリンスタンドがあります。走ってきた車の男はスタンドに車を止めます。従業員が「満タンですか」と聞きます。うなずき、食堂に入りコーヒーを注文します。コーヒー・メーカーが故障で、代わりの飲み物が出されます。男は仕方なしにそれを飲みます。支払いの時、店の人が「店のおごりです」と言います。
 ところで英語で、「満タンにする」は何と言うのでしょう。“Fill'er up.”です。アポストロフィを取ると、“Fill her up.”ですが、“Fill'er up.”と短縮します。「彼女を満たせ」です。男性が運転する車は女性なのです。女性でしたら、“Fill it up.” と言います。男性は車を女性扱いし、女性は物扱いにします。車に対する男女の想いの違いが出ていて面白いと思います。そう言えば、カナダ滞在時、車好きの下宿の landlady が、「男性は女性よりも車を大切にするようね」と言っていたのを思い出します。
 「店のおごりです」、「料金はいりません」、「お代は結構です」に当たる英語は、知らなければ全く見当もつきません。“on the house” と言います。このフレーズの起源は、パブです。エリザベス時代、 English public houses のことを、“tippling houses”と呼んでいた頃にできました。当時、パブの主人は客が2、3杯お代わりするたびに、お代なしの酒(a free drink)を出すのが慣わしでした。そのサービスを、“on the house”と言います。現在は、酒だけでなく、店がただで客に提供するものには、何にでも使用できる表現です。ラスベガスのカジノを訪れたとき、酒、タバコが “on the house”でした。ハウス、つまり店のおごりです。もともと商売上の用語ですが、日常、ジョークでしたら使えます。

参考資料
The Facts On File Encyclopedia of Word and Phrase Origins, Revised and Expanded Edition, 2000, Checkmark Books.