外国語を用いて積極的にコミュニケーションを図ろうとする子どもの育成~複式学級における外国語活動の取り組み~

島根県雲南市立田井小学校 杉谷 学

1はじめに

本校は,雲南市吉田町田井地区にある全校児童26名の極小規模の学校である。学級編成は低,中,高学年の3つの複式学級と1つの特別支援学級で構成している。

吉田町は本年度より文部科学省の英語教育強化地域拠点事業の指定を受け,域内の三刀屋(みとや)高等学校,吉田中学校,吉田小学校とともに,第3学年からの外国語活動や第5学年からの英語科の実施に向け,実践研究を進めているところである。平成26年度は,第3,4学年及び第5,6学年で外国語活動を週1時間(年間35時間)実施しており,平成27年度は,第3,4学年については前年度と同じ週1時間の外国語活動の実施,第5,6学年については,週2時間の英語科の実施を予定している。

本校の学校教育目標「ふるさとを愛し,人のため地域のために役立つたくましい子どもの育成」の実現に向け,「かしこく・やさしく・つよく」を合い言葉に取り組んできた。研究主題を「伝え合うことを通して自らの考えをより確かにし,豊かに表現できる子どもの育成」とし,外国語活動を通して「外国語に慣れ親しみながら,積極的にコミュニケーションを図ろうとする子どもの育成」を目指し,実践研究を進めている。

田井地区は,学校の環境整備をはじめ,朝の読み聞かせや教科等の学習における地域講師として,年間のべ600名以上の支援ボランティアの協力が得られる地域である。学習においては,地域の「ひと,もの,こと」を題材,教材として最大限に取り入れ,「地域を学ぶ,地域で学ぶ,地域に学ぶ」ことを教育活動の特色としている。

2授業実践例(第5,6学年外国語活動を中心に)

(1)外国語の音声や表現への慣れ親しみの深化を図る取り組み

本校の外国語活動においては,多くの表現を覚えたり,文構造に関する抽象的な概念を理解させたりすることは目標としていないが,児童の柔軟な適応力を生かし,これまでに慣れ親しんだ音声や表現に継続して慣れ親しませていけば,コミュニケーションを図る活動において自分が伝えたいことをより豊かに表現できたり,相手が伝えたいことを確実に受け取ったりすることができると考えている。そのため,毎時間の導入において「フリー・トーキングタイム」(3分程度)を設定している。授業はじめのあいさつを一斉の機械的なものではなく,各児童が自分の状況(気分や健康状態)を教師に伝えるところからスタートしている。

  1. 教師とのあいさつをする。
  2. カードを選択させる。(What color[number] do you want[like]? など)
  3. 選んだカードの絵をトピックにして教師からの質問に答えさせたり,教師に質問させたりする。(Do you like[have/want]? / 3 Hints Quiz など)

教師にとっては,その単元のコミュニケーション活動で児童が使えそうな,もしくは使ったら良いと思われる既出表現を意図的に用いて会話することで,児童に継続的な慣れ親しみやその深化を図ったり,新たな表現に触れさせたりすることができる。また,児童にとっても外国語指導助手(ALT)や担任等を相手に,慣れ親しんだ表現を自由に使う機会となり,即興性のある会話を楽しむ態度の育成につながると考えている。

また,この活動では教師が1人で複数名の児童を順番に相手にするが,直接は会話をしていない児童も,教師と友達のやりとりを聞くことにより,音声や表現への慣れ親しみを深めることができると考えて取り組んでいる。


ALTとのフリー・トーキングタイム

(2)異学年の学習集団(複式学級)のメリットを生かした取り組み

高学年の複式学級には,外国語について1年間の学習経験のある6年生(4名)と初めての学習となる5年生(4名)が在籍し,1学期は音声や表現への慣れ親しみや情報量にかなりの差があった。このことは,児童英検のスコアを比べてみても明らかであった。

6年生のモチベーションを下げずに学習を進めるための単元指導計画や教材,活動の工夫はもちろんであるが,6年生が発話や活動のモデルとなって活躍できるよう,ペアの組み方やデモンストレーションの仕方を工夫してきた。6年生の様子を見て5年生が活動の仕方を理解したり,5年生の活動に対して6年生がアドバイスをしたりするなど,上学年としての役割をもたせることで,6年生が自信を増したり自己有用感を得たりしている。


6年生がモデルを示してのペア活動

(3)地域を素材にし,他教科との連携を図った取り組み

外国語活動において,児童が簡単な英語を使って発信することに意味を感じる素材は,やはり身近な地域のことであろう。それは,これまでの学習等で何度も関わってきて親しみがあり情報量も多く,またほかの地域にはそれを知らない人も多いため,発信の必要性を感じるからである。

“Let’s go to TAI!” (『Hi, friends! 2』Lesson 5 “Let’s go to Italy.”)では,本単元の表現に慣れ親しんだのち,低学年が生活科「まちたんけん」のまとめとして作成し,掲示していた地図や絵などを見て,当時を思い出したりしながら自分のおすすめの場所や事柄を4つ程度選んで各自がパネルを作成した。第4時限目(最終時)は,発信の必然性をよりもたせた活動とするため,市内の住民や教員を対象にした公開授業として設定した。当日参観された40名ほどの大人(児童にとっては初対面)を相手に,児童は英語で場所を紹介したり,時には相手に質問したりしながら田井地区の紹介を行った。


授業参観者とのコミュニケーション活動 “Let’s go to TAI!”

「ランチメニューを作ろう」(『Hi, friends! 1』Lesson 9 “What would you like?”)は,市が取り組みを進めている「お弁当の日」(本校では年間3回程度実施)に関連させた単元づくりを行った。学級活動「健康によい食事」で,栄養教諭とのティーム・ティーチングによりバランスの良い食事等について学習したのち,栄養教諭の助言を得ながら昼食(弁当)の献立づくりを行った。この献立に基づいて家庭で弁当を作って持って来る日に外国語活動を合わせて実施し,授業では,“What would you like?” “I’d like ….”を使って店で食材を買う活動,買った食材から弁当のおかずを当てるクイズを設定した。最後に,「マイ・スペシャルお弁当」を英語で紹介し合い,会食をした。会食には栄養教諭も同席し,児童の作った弁当へのコメントをしたり,がんばりを評価したりした。

3おわりに

どのようにして各単元のコミュニケーション活動の必然性を作り,場面設定するかは,外国語活動の目標を達成するための大変重要な要素である。小規模校では,学級内で関わり合える児童の数が少なく限られているため,より一層の工夫が必要である。今年度は相手意識を持たせた活動とするため,授業公開の機会を多く設定した。これは,市内外の先生方に対して授業参観や授業研究の機会を提供する一方,児童にとっては来校者を相手にしてコミュニケーションを図る機会とすることをねらったものである。また,吉田小学校の友達に向けたビデオレター等のやりとりによるコミュニケーション活動も実施してきた。これらの活動や映像は,パフォーマンス評価としての見取りや資料として活用できることもわかり,今後も大切にしていきたいと考えている。

本校の中学年,高学年の担任は,これまで外国語活動の指導経験がなく,英語の教員免許を有しているわけでもない。事業指定により配置された専科教員(小学校2校兼務)と相談して指導計画を立てたり,指導についてのアドバイスをもらったりしながら,授業実践を重ねることで外国語活動の授業力をつけてきている。担任自身が外国語活動の時間を児童と一緒に楽しむこと,授業においては外国語を学ぶモデルとしての役割を果たすことが授業力をつける上で何より大切ではないかと感じている。

平成27年度から,高学年は外国語活動から英語科へと移行して実施していくことになるが,学級担任が行う小学校ならではの英語科の授業となるよう,目標の設定やカリキュラム策定を進めているところである。

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