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教師の方へ

私の実践・私の工夫(生活)

対象に対する見方・考え方の質を高める授業づくり

1年

鳥取大学附属小学校 西尾 牧子

1.はじめに

生活科は,子どもの生活圏を学習の対象や場として,それらと直接的に関わる活動や体験を大切にし,具体的な活動や体験の中から生まれる様々な気付きを得て,自立への基礎を養うことをねらいとしてきた。平成29年6月に学習指導要領が改訂され,生活科では「自分と身近な人々,社会及び自然との関わりに関心をもち,自分自身や自分の生活について考えさせること」から「身近な生活に関わる見方・考え方を生かし」ていくことだと改められ,児童自身の既有している見方・考え方を発揮したり,学習過程において,その見方・考え方を確かなものにし,一層活用したりすることが重要視されている。

生活科は,その教科の特性として,児童が自身の思いや願いを実現しようとしたときに活動に脈絡が生じ単元が構成されることが挙げられる。そして,児童は,具体的な活動を行う中で,より豊かに活動したいという思いをもち,思考や表現を繰り返していきながら対象に対する見方・考え方を深めていく。生活科の学びには,児童の興味・関心を広げ,対象に対する特徴や良さなどの個別的な気づきを自覚し獲得していくことが大切であり,そのためには,経験や体験を共有する時間や環境,学び合いの場面の設定が重要になると考え,本実践を行った。

2.単元について

(1)単元名 きせつとともだち「大大大すき!あきのにっこにこまつり」

(2)単元について

本単元は「きせつとともだち」という年間を通じて扱う単元のうち,3期目の秋を教材とした単元である。児童は,これまでに「きせつとともだち」という単元名通りに,季節に応じた遊びを考えて活動をしてきている。季節見つけをする活動を通して,それぞれの季節の特徴を生かした遊びを考えて,春は主に草花や虫,夏は主に日光や影,水や土と親しめる遊びを個々が存分に楽しむことを目的に学習活動を行ってきた。3期目を迎えた本単元では,個の活動を重視した遊びから,子どもたち同士の連携や協力といった協働学習に重点を移行する時期でもある。秋は,他の季節に比較すると,学習に生かせる材料が多種多様であり,協働学習の教材として扱えるものが格段に多い。身近な自然との関わりを通して秋を体全体で感じ,たくさんの自然物を使って遊びを考えたり,みんなで話し合って工夫したりしながら楽しく遊ぶとともに,児童同士がつながり合うことを期待できる魅力にあふれた単元づくりができる季節である。

(3)育てたい3つの資質・能力

【知識及び技能の基礎】

○季節の変化や自然の不思議さを感じ,自然と触れる遊びや遊びに使うものを工夫してつくっていくおもしろさが分かる。

【思考力,判断力,表現力の基礎】

○季節に応じた遊び方や楽しみ方を考えたり,遊びに使う材料を工夫したりして,自分なりの表現であらわすことができる。

【学びに向かう力,人間性等】

○身近な秋の自然に親しむとともに,それを利用した遊びに関心をもち,みんなと楽しみながら遊びをつくり出そうとしている。

3.資質・能力を育成する指導上の工夫

(1)経験や体験を共有する環境づくり


図1 小学校校舎付近の活動場所


図2 教室後方黒板の掲示場所

単元の導入では,特別な自然観察や遊びを意識させるのではなく,一人一人が身近な自然に充分に関わり,自由に遊んだり作ったりすることができるように活動時間を保証した。児童は,たっぷりと学習材に親しみ,いろいろな遊びを試しながらお気に入りのものや遊びを見つけていくと考えたからである。また,思い切り遊びに浸れるように,校庭や芝生,砂場,大学構内の山や森など,様々な活動場所を確保した。児童が自由に場所や道具を選びながら遊んだり作ったり,共有し合ったりすることができるように,校舎内外に学習材や使用できる道具を準備し,授業時間以外にも使えるようにした。(図1)

また,児童の思いが高まったときに,いつでも周囲へ発信することができるように,生活科の学習や帰りの会で「大大大すきタイム」を設けて発表したり,教室にいつでも書き込める掲示場所(図2)を準備したりし,互いの気づきを共有できるようにした。

(2)学び合いに迫る学習カードと教師の働きかけ

学びを見つめる場として,学習カードを書き,グループや全体で共有したりふり返ったりし,次時のめあてを話し合うようにした。カードによって,個々の発見や疑問を可視化することで,自己の考えがいっそう明確になり,交流のツールとしても活用できると考えた。また,児童が課題を焦点化したり,習得した知識をつなぎ豊かに思考したりすることで深い学びに迫ることができると考え,教師は,思考の収束と拡散を促す働きかけを行った。

4.学習活動の展開(全12時間)

生活科
学習計画 ・活動の様子
教科との関連及びリソースの
活用を図った内容
第1次
たくさんあそぼう!~ぼくのなは。「あきのあそびたんけんたい」~
①他教科・他単元との横断的な学習 ○国語科 「わたしのはっけん」
身の回りの物をよく見て,気づいたことを記録文に書いた。
「おもい出してかこう」
経験したことを思い出にして時間的な順序に沿って文章を書いた。
「かぞえうた」
漢数字を用いて,秋をテーマにした数え歌を作り,『秋の部屋』と称した祭りの会場に掲示した。
「ずかん・じてんのつかいかた」
見つけた自然物を図鑑や百科事典で調べ,正式名称や生態的特性などを知り,情報カードにまとめて友だちに伝えたり掲示場所(図2)に貼って知らせたりした。
学校図書館で司書教諭に調べ方を尋ねる児童。この行動が調べ学習の仕方を学ぶ動機付けとなった。 図書を使って見つけた自然物を調べる児童。木の特性や生態を知ると,似ている木を探しに出かけて行った。
第1・2時
・大学構内で秋見つけをして,遊んだり秋の自然物を集めたりする。 ・秋の自然物を書き込んだり集めたりした学習カードを使ってビンゴゲームをし,気づきをまとめる。
春・夏に続いて3季目の秋あそびとして,自由に遊べるように活動時間と環境を設定した。はじめは,年長児で活動した遊びが中心で,つるを使っていた児童は,電車ごっこをしていたが,次第にもっと楽しい遊びができそうだと思いがふくらみ始め,輪投げや的あて遊びのようなものを考えて遊ぶようになった。
つるで電車ごっこをして遊んでいる児童 つるの輪を的にして,木の実を投げ,くぐらせて遊んでいる児童
第3時
・前時までに考えたり試したりした遊びをふり返り,学習計画を作る。
学習カードには,見つけた秋の自然物について,全ての葉が色づいているわけではないことに気づいた児童や,第1時と第2時を比較し落下している木の実が増えたことに気づいた児童から,秋のはじめは秋の自然物が少ないが,次第に増えていくだろうという記述があり,気づきを交流させることで,次の季節はいきなりやってくるのではなく,徐々に移ろうものだという知識を獲得していく姿が見られた。
季節の変化を感じた上で,目標や計画を話し合い,単元のゴールとして,秋の祭りを開催し,附属幼稚園の友だちと一緒に楽しむというめあてを設定した。
自然物の観察を通して,季節の移ろいを感じている児童のふり返りカード
第2次
あそびをパワーアップ!~ぼくのなは。「あきのあそびめいじん」~
 
第4・5時
・秋の自然物を使って飾りやおもちゃを作る。 ・考えたものを友だちと共有し,ふり返る。
○図画工作科 「クルクルまわして」
身近な材料で風を当てると回る仕組みをつくり,秋の飾りや模様を加えて楽しく遊ぶたこや風車を作った。
「くるくるたこ」を作った児童。落ち葉や実のみを貼り付けて,走ると風を受けて回転する。 「はこかざるんるん」
箱に秋の自然物などをくっつけ,『秋の宝箱』を作った。その発展として,段ボールを用いて「にっこにこロボット」を作り,ホテルでレセプションを務めるAIロボットのイメージをもとに,祭りのお出迎え兼受け付け係にして会場づくりの一つとした。
葉や枝,ススキ,まつぼっくりモンスターなどを飾り付けている。
○ICT活用 児童が気になったものをタブレットやデジタルカメラで写真に撮り,発表やふり返りに使用し,共有した。 ②年間を通した大学構内での学習 本単元とは別に,年間を通して大学構内へ出かける計画を立てた。季節が移ろうことで,遊ぶ場所や遊び方が変わり,児童の気づきに繋がっていった。 季節ごとに大学構内や小学校の周りへ出かけ,調べたり遊んだりする児童
第6~9時
・みんなが楽しめる遊びを考えたり試したりする。 ・遊ぶものや遊び方の課題点を見つけて話し合い,よりよくする。
児童の考えた店は,ものづくりと遊びの店に二分され,自分たちの思いや願いに沿って,道具や遊び方を工夫していった。
祭りの店を話し合った授業の板書
相手意識をもたせたことにより,ルールや遊び方に変化をつけ,遊びを試す児童が増えてきて,「楽しい〇〇屋さん」という漠然としたイメージから,具体的にどこを工夫すると楽しくなるのか,秋らしくなるのかという課題を共有することで,対象を詳細に捉えるようになっていった。
きょだいめいろグループ児童のふり返りカード
くり返し試しながら,問題点をたくさん見つけていった。ふり返りカードにまとめ,改善方法を話し合った。
第3次
みんなであそぼう!あきのにっこにこまつり
~ぼくのなは。「あきのあそびはかせ」~
 
第10・11時
・附属幼稚園の友だちを招待して遊ぶ。
それぞれの店にあった教室をえらび,祭りを開催した。
園児に分かりやすいように,ものづくりの店は図工室,遊びの店は隣接した多目的教室に設定し,作ったもので遊べるスペースも設定した。
練習通り遊び方を説明したけれどうまく伝わらなかったり,予想していなかったところでものづくりに失敗する園児がいたりしたが,園児の実態に合わせて,遊びの難易度を変えたり,遊び方を選ばせたりしていた。また,お客さんの人数に応じて,担当児童の役割や人数のバランスを変えるなどの工夫も見られた。
③附属幼稚園との連携 附属幼稚園と連携し,現1年生が年長時にした活動を聞き取り,今年度は,それらをより発展させることができるように活動を方向付けた。
また,本年度の園児が行っている活動を聞き取り,活動のめあてや内容について,小学校との差別化を図るように計画を立てた。
附属幼稚園とは,年間を通して交流を重ねていき,複数回にわたる関わりを通して自分への気づきを深めていけるように,季節によって遊ぶものや遊びを替え,ふり返り活動を充実させた。
第12時
・学びをふり返り,学習カードにまとめる。
単元をふり返って,学んだことを文章にまとめた。工夫してよりよい店になったことを喜ぶ児童や,協力して活動できたことに満足する内容が多く見られた。夏の単元と比較して,工夫を重ねてより豊かに活動することの楽しさや,協同的な学習をすることの良さを実感している児童が多かったことが伝わってきた。また,それらが次の学びに向かう力になるだろうということも容易に期待できる。
児童の学習カード
カードの種類を複数用意しておき,自分の書きたい形式のものを選んで書くようにさせた。児童は,絵もかいたり文章のみでまとめたりできるように,そのときの書きたい内容によってカードを選んでいた。
 

5.実践のまとめ

経験や体験を共有する環境づくりをしたことで,一人の児童が示した興味・関心が他の児童の興味を引き,共有することで新たな遊びへ発展する姿があった。学習の入り口や,課題解決の糸口となる役割を果たすことが多く,児童がいつでも見られたり,更新したりできる掲示のシステムが功を奏した。また,学び合いの場面の設定においては,学習カードの活用と教師の働きかけを行った。児童は,本時の学習で課題に対する状況や自分の思いを書き込み,それを共有することで新たな課題に出会い,自ずと単元目標に沿った次時のめあてを話し合うようになっていった。そして,繰り返し取り組み,学習を重ねるごとに自分自身への気付きも変化していった。教師は,児童が対象と向き合うときに,意図的に対象を見る視点を問いかけた。それにより,児童はより詳細に対象に関わるようになり,具体的な課題点が浮き彫りとなることで,新たな知識や技能の獲得につながった。同時に,教師が児童の獲得した知識や技能とこれまでの生活経験等を関連づけて捉え直すように仕組むことで,児童の気づきの質を高め,より豊かに生活しようとする態度を育むことができた。このように,児童は,対象をより詳細に見たり関わったりすることや,獲得した知識・技能を関連させ,新たな価値を見出すことを通して,自己の学びを深めていった。

対象に対する見方・考え方の質を高め,2(3)で述べた3つの資質・能力を確かに育成していくためには,身に付けた場面とは異なる状況で活用・発揮することが重要であり,未知の状況においてその汎用性を示すことで初めて身に付いたと言えると捉えたとき,知識と知識,知識と体験,知識と自分をつなぐなどを深い学びのイメージとして据え,教師が内容の組織的配列を意識した学習計画を綿密に立てることが課題であると感じた。

参考文献

1)文部科学省:「小学校学習指導要領」平成29年3月
2)文部科学省:OECD生徒の学習到達度調査(PISA2015)のポイント
文部科学省:国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2015)のポイント
3)文部科学省:小学校におけるカリキュラムマネジメントの在り方に関する検討会議「報告書」平成29年2月
4)John Dewey :Interest in Relation to Training of the will,CICAGO(1903)
5)文部科学省「幼稚園教育要領」平成29年4月
6)文部科学省「小学校学習指導要領解説 生活編」平成29年6月
7)ユーリアス・エンゲストローム:拡張による学習―活動理論からのアプローチ,新曜社(1999)
8)ジーン・レイヴ,エティエンヌ・ウェンガー:状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加,産業図書 (1993)
9)田島 充士:「分かったつもり」のしくみを探る―バフチンおよびヴィゴツキー理論の観点からナカニシヤ出版(2010)
10)東洋館出版社編集部:平成29年版 小学校 新学習指導要領ポイント総整理,東洋館出版社 (2017)
11)文部科学省教育課程課・幼児教育課:初等教育資料2017年 3~12月号,東洋館出版社(2017)
12)佐伯 胖:かかわることば: 参加し対話する教育・研究へのいざない,東京大学出版会(2017)
13)アンナ・キャンプ・エドワーズ ,キャサリーン・キャンプ・メイヒュー:デューイ・スクール―シカゴ大学実験学校:1896年~1903年あいり出版 (2017)