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教師の方へ

私の実践・私の工夫(生活)

対象へのかかわりを深め続ける第1学年生活科学習
~気付きを深める状況づくりと自己の高まりを実感する振り返り活動の工夫~

1年

福岡教育大学附属小倉小学校 中原 孝行

1.はじめに

次期学習指導要領の改訂に向け,生活・総合的な学習の時間ワーキンググループ議論のまとめでは,生活科の課題として,活動や体験を行うことで低学年らしい思考や認識を確かに育成し,次の活動へとつなげる学習活動を重視することが示された。生活科で育成する資質・能力については,知識や技能の基礎としては,具体的な活動や体験を通して獲得する自分自身,社会事象,自然事象に関する個別的な気付きや関係的な気付き等が示された。

このような生活科において育成する資質・能力や見方・考え方は,思考・表現が発揮される主体的・協働的な問題発見・解決の場を経験することによって磨かれていく。また,こうした学びには,子どもが対象へとかかわり続けることが大切であり,これを引き出すためには,気付きを深める状況づくりと自己の高まりを実感する振り返り活動が必要であると考え,本校1年I組において本実践を行った。

2.実践の具体

1 単元 あきを たのしもう

2 目標

<生活への関心・意欲・態度>

○ 秋の自然に関心をもって木の葉や木の実を集め,それらを使って飾るものや遊ぶものを作り,友達とかかわりながら楽しく遊ぼうとする。

<活動や体験についての思考・表現>

○ 秋の自然のものを使って,飾るものや遊ぶものを工夫して作り,遊んだり楽しんだりすることができる。

<身近な環境や自分についての気付き>

○ 秋になり,身近な自然の様子が変化したことや,秋の自然のものを使って飾るものや遊ぶものを工夫して作る楽しさや,それらを使って友達と一緒に遊ぶことの楽しさに気付く。

3 展開計画(総時間数10時間)

主な学習活動 誘導上の留意点 重視する評価の規準と観点
問いをもつ
・見通す
1 校庭で,秋見つけをしたり,秋の自然のものを集めたりして,本単元を設定する。1時間 ◯秋の自然の事物を見つけ,ふれることを通して,季節を感じることができるように,実際に校庭に出て身近な自然に目を向け,興味・関心をもって調べたり,秋の自然のものを集めたりする活動を設定する。 ◯秋になると,様々な木の葉が色づいたり,秋特有の木の実がなったりしていることに気付いている。
(身近な環境や自分についての気付き)
中心問題  あきの しぜんの ものを つかって かざるものや
あそぶものを つくって,あきを たのしもう。
挑む
分析問題1  かざるものや あそぶもので つかえそうな
あきの しぜんの ものを あつめよう。
2 飾るものや遊ぶものに使えそうな秋の自然のものを集める。1時間 ◯身近な秋の自然のものを使って,飾るものや遊ぶものを作りたいという思いをもつことができるように,飾るものや遊ぶものに使えそうな秋の自然のものをたくさん集める活動を設定する。 ◯身近な秋の自然のものを使って,飾るものや遊ぶものを作ることに関心をもち,材料として使えそうなものをたくさん集めている。
(生活への関心・意欲・態度)
分析問題2  どんぐりや まつぼっくりなどで,かざるものを つくって たのしもう。
3 秋の自然のものを使って,飾るものを作ったり,作り変えたりして遊ぶ。3時間 ◯秋の自然のものを使って,飾るものを作って遊ぶことができるように,秋の自然物を自分で用意するだけでなく,教師も秋の自然物やその他の材料や道具を用意し,提示する。 ◯自分が作った飾るものをもっと楽しむことができるように,グループや友達同士で紹介し合う活動を設定する。 ◯秋の自然のものを使って飾るものを作ったり,友達同士で紹介し合って工夫を取り入れて作り変えたりして楽しんでいる。
(活動や体験についての思考・表現)
分析問題3  どんぐりや まつぼっくりなどで,あそぶものを つくって あそぼう。
4 秋の自然のものを使って,遊ぶものを作ったり,作り変えたりして遊ぶ。3時間 ◯秋をもっと楽しむことができるように,自分が考えた秋の自然のものを使って遊ぶものを作って友達と遊ぶ活動を設定する。 ◯もっと楽しくなるように作り変えたいという思いをもち,実際に作り変えることができるように,グループや友達同士で,作るこつや遊びの面白さを紹介する活動を設定する。 ◯秋の自然のものを使って,遊ぶものを作る面白さや,それらを使って友達と一緒に遊ぶことの楽しさに気付いている。
(身近な環境や自分についての気付き)
生かす
・広げる
分析問題4  つくったもので 「1Ⅰあきまつり」を して あそぼう。
5 作ったものを使って「1Iあきまつり」をして友達と楽しく遊び,楽しかったことや気付いたことを絵や言葉で表し,本単元をまとめる。2時間 ◯子どもが作った飾るものや遊ぶものを使って友達と一緒に遊ぶ面白さを実感することができるように「1Ⅰあきまつり」をしてみんなで楽しく遊ぶ場を設定したり,楽しかったことや気付いたことを表す活動を設定したりする。 ◯秋の自然の物を使って飾るものや遊ぶものを作ったり,それらを使って遊んだりして楽しかったことや気付いたことを表現している。
(活動や体験についての思考・表現)

3.授業の実践と考察

子どもが対象へとかかわり続け,問いをもち,その問いを解決するという問題解決を繰り返すことができるように,本単元は,「問いをもつ・見通す」「挑む」「生かす・広げる」の三つの段階で単元を展開した。

(1)問いをもつ・見通す段階

問いをもつ・見通す段階では,まず,秋の自然の事物を見つけたりふれたりして,季節を感じることができるように,実際に校庭に出て秋見つけをしたり,秋の自然のものを集めたりする活動を設定し,自然の様子が夏と比べて変わったところがないかを尋ねることから始めた。すると,「夏は葉っぱの色が緑だったのに,赤や黄色になったね。」などの発言が聞かれた。そこで,登下校のときに見る木や,家の近くの木などの自然の様子が,夏と比べて変わったところがないか尋ねた。すると,「家の近くに,どんぐりや松ぼっくりがあったよ。」や「この落ち葉を使って,人形が作れないかな。」「どんぐりでこまを作って遊びたいな。」というように思いが広がり,秋の自然のものを使って飾るものや遊ぶものを作って遊ぼうという見通しをもった。

その後,「もっといろいろな落ち葉を集めて,飾りを作りたいな。」「どんぐりや松ぼっくりも集めて,遊ぶものも作りたいな。」という思いをもち,「どんなものが作れるのかな。」「どうやって作ったらいいのかな。」という問いをもった。このようにして,中心問題「あきのしぜんのものをつかって,かざるものやあそぶものをつくって,あきをたのしもう。」が生まれ,活動への見通しをもった。

(2)挑む段階

まず,子どもは「落ち葉やどんぐり,松ぼっくりを使って,飾るものを作りたいな。どんなものが作れるのかな。」という問いをもった。そこで,まず,飾るものや遊ぶものを作るために必要な材料集めの活動を設定した。そこでは,「この落ち葉は,スカートの形に似ているので,女の子の人形を作るのに使えそうだね。」「どんぐりを使ってこまが作れるそうだよ。たくさん集めたいな。」などと自分の思いに合った材料をたくさん集める姿が見られた。

その後,飾るものや遊ぶものをいろいろと工夫して作ることができるようにするために,集めた秋の自然の材料の他に,紙コップや紙皿,段ボールなどの材料を提示した。すると,子どもは,「紙コップや紙皿にどんぐりを付けて,ケーキを作りたいな。」「どんぐりで飾って,このクラスの思い出の写真立てを作りたいな。」などと,資料1のように思いを広げながら飾るものを作っていった。

▲ どんぐりなどを紙コップや紙皿などに付けてケーキを作る子ども

▲ どんぐりで飾った写真立てを友達と見せ合い楽しむ子ども

▲ どんぐりや松ぼっくりを紙皿などに付けてパフェを作る子ども

【資料1 身近な秋の自然のものを使って,飾るものを作る子ども】

身近な秋の自然のものを使って,飾るものを作る活動の中で困ったことがあるという声が聞かれた。そこで,アドバイスタイムを設定した。これは,資料2に示すように,困ったことがある子どもがクラスのみんなに解決のためのアイデアを募り,その中から自分に合ったものを選んで活動に生かしていけるようにしたものである。また,子どもが秋の自然へとかかわり続けることができるように,前時の終わりに次時の活動の見通しやさらなる問いをもつための振り返りの活動を位置付けた。

すると,子どもは校庭や家の近くで拾ってきたどんぐりや松ぼっくり,落ち葉などを使って飾るものや遊ぶものを思い思いに作る姿が見られた。

【資料2 困ったことがある友達にアドバイスをし合う子ども】

また,対象と繰り返しかかわりたくなるように,「秋遊び生活科コーナー」を設定した。すると,休み時間にも秋の自然の物を使った飾りや遊ぶものをくり返し作る姿が見られた。はじめは一人で作ったり遊んだりしていたものが,「友達と一緒に作る」「友達と競争する」「たくさんの人と遊べるようにする」などの工夫をする姿が見られた。

<自己の高まりを実感する振り返り活動の工夫についての考察>

【資料3 次時の活動の見通しを見いだしたB児のふり返りノート】

自己の高まりを実感することができるようにするため,振り返りノートを活用した自己評価を取り入れた。資料3は,挑む段階の秋の自然のものを使って,作ったもので遊んだ後に書いたB児の振り返りノートである。「最初は,どんぐりこまをうまく回せなかったけど,何度も作り変えたら,最後にうまく回せるようにできた。」というように,対象へのかかわりを深め続け,はじめはできなかったことができるようになった自分に気付き,自己評価をしたことが分かる。また,「すごく回るこまを作った人に,作るこつを聞いたからたくさん回るこまを作ることができたよ。」と,友達に働きかけてよりよいものをつくり出した自分に気付いていたことも分かる。

以上のことから,振り返りノートを活用した自己評価は,自己の高まりを実感できる手だてとして概ね有効であったと考える。

(3)生かす・広げる段階

生かす・広げる段階では,作ったもので「1Ⅰあきまつり」をして遊んだ。子どもたちは自分たちで見いだしたより楽しく遊ぶための工夫である「競争して遊ぶ」「人数を増やして遊ぶ」といった視点を取り入れて楽しく遊ぶ姿が多く見られた。

<気付きを深める状況づくりについての考察>

気付きを深めることができるように,学習材の工夫と学習展開の工夫を行った。これにより,子どもたちが「どうやって作ればいいのだろう。」「もっと楽しくするにはどうすればいいのだろう。」というように問いを連続・発展させながら,身近な秋の自然のものを使って飾るものや遊ぶものを繰り返し作って遊ぶ姿や,遊びを工夫して楽しむ姿,楽しむことができるようになった自分に気付く姿が見られたことから,概ね有効であったと考える。

4.実践のまとめ

(1)研究の成果

◯ 対象へのかかわりを深め続けることができたか

【資料4 対象へのかかわりの変容】

自己評価を基に新たな活動へとつなげ,さらに主体的な活動や学び合いができるように,振り返りノートを活用した自己評価を学びのサイクルに取り入れた。

資料4は,子どもの対象へのかかわりの変容を示したものである。「問いをもつ・見通す」段階に比べ,「生かす・広げる」段階では,その割合が高くなっていることが分かる。このことから,子どもは,対象へのかかわりを深めることができたと考える。

(2)今後の課題

振り返り活動において,自分の本時の活動に満足し,「次の時間はもっとこうしたい。」という思いや願いをもつことができなかった子どもの姿が見られた。そのような子どもが対象へのかかわりを深め続けることができるように,「もっとこんなことができそうだ。」と子どもに思わせるための教師の物の提示や助言が必要であると考える。

参考文献

  • 1)文部科学省『小学校学習指導要領解説 生活編』東洋館出版社,2008年
  • 2)文部科学省『生活・総合的な学習の時間ワーキンググループにおけるとりまとめ(案)』,2016年
  • 3)吉冨芳正・田村学『新教科誕生の軌跡~生活科の形成過程に関する研究~』東洋館出版社,2014年
  • 4)高浦勝義・佐々井利夫『生活科の理論』黎明書房,2009年