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教師の方へ

私の実践・私の工夫(算数)

「直方体や立方体の体積」
~児童が既習の知識と結び付けて考察できる授業を目指して~
5年

埼玉県所沢市 教諭

1.はじめに

学習指導要領では「立体図形の体積」について「図形の単位や図形を構成する要素に着目し,図形の体積の求め方を考えるとともに,体積の単位とこれまでに学習した単位との関係を考察すること」と述べられている。また,既習の知識と結び付けながら統合的・発展的に考察する態度を養うことも求められている。本時で取り上げる複合図形のアイディアは,第4学年の「平面図形の面積」で学習したアイディアを活用して解決することができる。面積の場合は既習の正方形や長方形を基本の図形として求積した。第5学年の体積でも同じようにできるのではないかと考える力を身に付けさせたい。本題材の課題点について,埼玉県で62年間続いている入間地区学力学習状況調査を見てみる。

【調査1】
正答率86% 正答120㎤ 誤答例240㎤ 12㎤
【調査2】
正答率77% 正答ウ 誤答例 ア エ

【調査1】は直方体の体積を問う問題である。必要のない数値が入っているが,正答率は9割とおおむね理解していることがうかがえる。

【調査2】は複合図形の求積の式を選択する問題である。誤答から,図形と式を一致させることが難しい児童が2割程度いることが考えられる。また,【調査1】と【調査2】を比べると,10ポイント近くの差があり,複合体積になると,色分けがされていても理解が困難になることがわかる。また,4択の問題であることから,正確に理解している児童の割合は正答率よりやや下がると考えられる。

2.指導の工夫

上記の課題から,以下の3点を工夫として指導する。

(1)求積する部分がわかる工夫をし,求める図形はどこか明確にする。

入間地区学力調査から,図と式を一致することが難しい児童には色を付けたり矢印をつけたりさせ,自分自身がどの部分を求めているかがわかるようにする。

(2)式と図形を行き来する指導

練り上げの場面で,児童が考えた図を掲示し,他の児童が説明しながら式を作っていく活動を取り入れる。そのことで,自分の考えた方法をもう一度振り返ることができる。また,友達の考えを説明することで,図と式を行き来することができる。

(3)統合,発展を意識した指導

式をまとめたとき,どの考えもすべて同じ式になることに気付かせる。(統合的)そして第6学年の柱体の求積(底面積×高さ)につながるよう,考えを深めさせる。(発展的)

3.実際の指導

(1)学習場面を把握する

T:今までみなさんはいろいろな図形を学習してきました。
これはなんていう図形?

C:直方体です。

T:体積はもとめられますか?

C:2×5×3で,30㎤です。

T:みんな,直方体の体積は求めることができるんだね。
では,この図形はどうだろう?

C:求められます。

C:求められません。

T:求められるという子とそうでない子がいますね。
では,今日はこの図形を考えていこう。

問題 上の図形の体積を求めましょう。

(2)課題を設定する

T:求められないと思う子,どうしてそう思う?

C:デコボコしてる

C:平らじゃない

C:直方体じゃないから

T:そうか,では今日の課題はなににしようか。

C:この図形の体積の求め方を考えよう。

T:いいですね。この図形に名前を付けようか。何に似ている?

C:かいだん。

T:では今日の課題はこうしましょう。

課題 かいだん形の図形の体積の求め方を考えよう。

(3)課題を解決し,発表する。

A

C1:まずかいだんをたてに切って,2つの直方体にしました。

C2:式は8×4×6=192
             8×5×4=160
             192+160=352
答えは352㎤です。

T:たてに切って直方体にしたんですね。

B

C3:まずこの図形をよこに切って2つの直方体にしました。

C4:式は2×4×8=64
             9×8×4=288
             64+288=352
答えは352㎤です。

T:横に切って直方体にしたんだね。

C

C5:まずこの図形を大きな直方体として考えて全部求めます。それで,あとから欠けてる部分の直方体を引きます。

C6:式は9×6×8=432
             8×5×2=80
             432-80=352
答えは352㎤です。

T:大きな直方体から小さな直方体を引いたんだね。

T:3つの考え方で似ているところはあるかな。

C:全部直方体にしています。

T:今日のまとめはできそうですね。自分の言葉で書いてみよう。

第一のまとめ かいだん形の体積は直方体に直すと求めることができる。

T:先生もう1つ似ているところを発見したんだけど,みんなはどう?

C:答えが同じです。

C:当たり前じゃん。

T:実は先生も同じところに気が付きました。答え,似ているよね。

C:だって,形が同じだから当たり前です。

T:式で使ってる数は3つどれも違うのに?

C:うーん,でも...

T:では式に注目していきましょうか。まず式を1本にしてみましょう。

T:数は全部違うように見えたけど,同じ数字もあるみたいですね。

C:8が全部使われています。

T:そうだね。では,8以外はまとめていきましょう。

C:あ!全部44になる!

T:全部そうなるかな。やってみましょう。

C:やっぱり全部44になります。

T:この8って何だろう。

C:辺FGの長さです。

T:たしかに8cmですね。では,44は?

C:...

T:近くのお友達と話し合ってみましょう。

C:かいだん型の面積が44になります。

T:本当だ!どうしてそれで答えが求められるのかな。

C:前に直方体の体積でやったみたいに,手前の体積(児童は指でこんな形と表していた)が何列あるかで求められるから。

第二のまとめ かいだん型の面積×おくゆきで体積を求めることができる。

(4)本時の内容を振り返る

T:今日の学習の感想を書きましょう。

既習の直方体に直せば求められることに気付いている児童
分けて基本図形に直せば求められることに気付いている児童
式をより簡潔に表すことのよさに気付いている児童
多様な求め方があることに気付いている児童
計算のきまりのよさに気付いている児童

4.指導の成果と課題

〇分配法則のよさに気付く児童が多く,もっと使っていきたいという児童もいた。

〇複合図形を多様な見方で見ることができるようになった。

〇式と図形を行き来することにより,式にある数がどこを表しているのかを考えながら求積できた。

●発展的な内容を行うことで,混乱している児童もいた。

5.引用・参考文献

・伊藤説朗(1982),『授業に生きる教材研究』,明治図書出版株式会社。

・文部科学省(2018),『学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編』。

・杉山吉茂(2008),『初等科 数学科教育学序説』,東洋館出版。

・入間地区算数数学教育研究会(2015,2016,2017),『入間地区算数・数学科学力調査報告書』。

・坪田耕三(2017),『算数科授業づくりの基礎・基本』東洋館出版。