教師の方へ

私の実践・私の工夫(算数)

量の表し方を考えよう

5年

熊本県菊池市立隈府小学校 宮脇 真一

1.はじめに

「意欲的に学び,全ての子どもが『自立した探究者』として力を伸ばしてほしい。」

これは,子どもたちに対する私の「ねがい」である。

人はもともと「知りたがり」だし,「話したがり」である。教室でともに学ぶなかま,自分を見守ってくれる家族や教師をはじめとする多くの人々,自然や社会の中で子どもたちは様々なことを受け止め,受け入れ,そして発信しながら毎日を生きている。自分を取り巻く様々な環境とのかかわりの中で,子どもたちは成長していく。

このような状況をふまえ,私は子どもたち一人一人が意欲的に学ぶ力を伸ばしていくことをねがい,日々の学習の中で『自立した探究者』の姿を次のように求めている。

  • ○ 全ての子どもが自分なりの考えをもち,探究することを楽しむ姿
  • ○ 互いの考えの違いを受け止め合い,相手を理解しようとする姿
  • ○ 明らかになったことをもとに,さらに発展的に探究しようとする姿

本年度は新学習指導要領全面実施の年にあたる。劇的に変化しつつある社会情勢に対し,状況をとらえ,的確に判断し,自分がかかわり合う周囲の人々,自然,環境との関係性の中でよりよい行動を起こすことができる人材の育成がこの改訂で求められていると私はとらえている。

これは即ち子どもたちを『自立した探究者』に誘(いざな)うことに他ならない。

2.本時の学習について

(1) 全国学力学習状況調査における課題

本時で取り扱う教材は,平成22年度の全国学力・学習状況調査で出題されたものである。

※右図: 平成22年度調査問題 算数B 5(2)
国立教育政策研究所HPより引用
http://www.nier.go.jp/

調査時の熊本県の正答率は 17.8%(全国 17.4%)であり,『平成22年度全国学力・学習状況調査【小学校】報告書』によると「判断の理由を説明するために必要な事柄を考えられるようにすること」に課題がある。」とされている。

自分が判断したことについて根拠をもって理由付けを行うことは,本年度から完全実施された新学習指導要領でも求められていることである。

本単元では,本時の学習に至るまで,「自分はどう考えたのか」「そう考えた理由は何か」ということを常に意識させ,本調査問題における課題の克服を目指す。

(2) 指導の工夫

くつ,シャツ,ズボンのそれぞれの割引額を求めれば,どの品物に割引券を使えば割引額が最も大きくなるかが分かる。そこで,全ての子どもが実際に割引額を求める方法は最低限クリアできるようにしたい。その上で,「計算しなくても判断できる方法」を問いかけるとともにその条件を明らかにしていく。定価が一番高い靴に割引券を使えばいいことの理由は,次の内容を述べる必要がある。

  • ○ 値引きされる金額は,(定価)×(値引きの割合)で求められる。
  • ○ 値引きの割合は,どの商品も20%で同じ。
  • ○ 定価がいほど,値引きされる金額は大きくなる。
  • ○ 3つの商品の中では,くつの定価がいちばん高い。

※「平成22年度全国学力・学習状況調査(小学校)の結果を踏まえた授業アイディア例」より引用

子どもたちの反応に応じて,この条件の一部を提示し,靴に割引券を使う理由として十分かどうかを議論させ,計算をせずに理由を説明する方法を言葉で整理していきたい。

(3) 授業の実際

① 目標 割引額が最も大きくなる割引券の使い方を考える活動を通して,割合が一定の場合に比較量が最大となる基準量を決め,その理由を説明できる。

② 展開

学習活動 主な子どもの発言と教師の指導
1 本時の課題を確認する。 * 右の問題を提示し,「どの品物に割引券を使うと,値引額が一番大きくなるか」を問う。
○靴に使うといい。
割引額が最も大きくなる割引券の使い方を考え,その理由を説明しよう
2 自分の考えをもつ。 ○それぞれの割引額を計算する。
【シャツ】1900×0.2=380
【ズボン】3900×0.2=780
【 靴 】5800×0.2=1160
靴が一番割引額が高い。
○定価の高いものを安くするために,割引券を靴に使う。
○定価が高い方が,割引は大きくなる。
3 考えを出し合う。
【計算した結果を出す】
【ことばで説明する】
4 計算しなくてもわかる方法を検討する。 (1) 考えを出し合う。 * 「計算しなくてもわかると答えた人がいましたね。どういうことなのかみんなで考えてみましょう」と問いかける。以下は子どもたちのやり取りである。
○もとにする量が大きくなると,割引額は大きくなる。
○定価が高いと,20%の値段も高くなる。
○「20%の値段」ってどういうことですか?
○値引額のことです。
(2) 実際に計算した式に焦点をあてる。 *ここで,値引額を実際に計算した式に焦点をあてる。
(右図)日頃の学習で,かわるもの,かわらないものを見るようにしている。ここでも3つの式を観察させた。
○3つの式では,×0.2のところが変わりません。だから,1900,3900,5800と増えていくと,答えも増えていきます。 ○よくわかりません。どういうことですか? ○簡単な例で説明すると,(板書の下半分)1×2=2,2×2=4, 3×2=6になります。わかりますか?(はい)。そこで,×2が変わらないので,かけられる数が2,3と増えると,答えも4,6と増えていきます。
5 条件をかえた問題に取り組み学習をまとめる。 * 右図の問題を提示する。ズボンが二本組になるので,定価が靴よりも高くなる。
○これだったら,ズボンに使います。割引の20%が同じだから,さっきの式で考えると,定価が一番高いズボンに使うと割引額が大きくなります。

3.おわりに

本時のポイントは,「一品に限り定価の20%引き」という割引券の存在である。子どもたちは,問題を処理する際にこの「20%引き」を感覚的に使っている。しかし,実際に説明する際には,このことを表現することは少ない。

そこで,実際に割引額を求めた3つの式に焦点をあて,「かわるもの,かわらないもの」を観察させる。式の比較から「×0.2」が常に一定になっていることに気づくことで,かけ算のきまりを活用し,「割合が一定であるので,定価が高くなると割引額も大きくなる」ということを論理的に説明することにつながるのである。

全国学力・学習状況調査では,靴に使うことの根拠を問われている。本実践では,式を比較しその意味を読むことから,根拠を明らかにすることができた。