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私の実践・私の工夫(理科)

自分の考えを科学的に練り上げる子どもを育てる理科学習指導
~「見通し」と「考察」の場面において,考えを可視化し交流させる工夫を通して~

3年

福岡県糸島市立前原南小学校 教諭

1.はじめに

子どもたち一人ひとりが実感を伴う理解を図っていくことが重要視されている。そのためには,自分がもともともっているはじめの考えを自覚させ,観察・実験によって科学的な考えへと練り上げていくことが必要である。

自分の考えを科学的に練り上げるとは,問題解決場面において,自然事象に対してもっている自分の考えを科学的な視点で見直し,付加・修正・強化しながら科学的な条件を満たす考えにしていく過程のことである。子どもは,新しく出会った事象であっても,これまでの体験や既習を通して,自然事象に対する自分なりの考えをもっている。そのはじめの自分の考えを科学的なものにしていくためには,実証性・再現性・客観性という科学的な視点をもって,もともともっている自分の考えを見直していく過程が必要である。

考えを科学的に「練り上げる」とは,考えを「見直していく過程」そのものだと考える。子どもは,考えを見直していく過程の中で自分の考えを付加・修正・強化しながら,科学的な条件を満たす考えへと変えていくことができる。

2.「見通し」と「考察」の場面において,考えを可視化し交流させる工夫とは

(1)「見通し」の場面とは

図1 「見通し」の場面
図1 「見通し」の場面

問題解決の過程の中で,予想や仮説をたてる場面である。「見通し」の場面では,根拠ある考えを交流させ,自分の考えを類型化したり,根拠を付け加えたりすることで,もともともっていた考えを確かめられそうな考えにしていくことが大切である。実証性という視点が加わった考えであれば,子どもは,問題意識をもって観察・実験を進めることができる。また,観察・実験を通して得た結果を予想や仮説と比較しながら考えることで,結論へと考えを練り上げていくことが容易になると考える。

事象と出会い,問題,予想・仮説という一連の流れの中で,特に考えを予想・仮説へと練り上げる場面を「見通し」の場面と位置づける(図1)。

(2)「考察」の場面とは

図2 「考察」の場面
図2「考察」の場面

観察・実験した結果をもとに自分なりの結論をつくり,友達との交流を通して実証性・再現性・客観性という科学的な視点を加えた考えへと練り上げていく場面である。

結論に実証性・再現性・客観性をもたせるために交流を行い,考えを科学的なものにしていく。そして自分が行った観察・実験の結果をもとに自分の結論をつくることで,考えを明確にもち,交流を通して友達との共通点や相違点を明確にすることができる。

特に観察・実験した結果をもとに自分なりの結論をつくり,交流していく考察・まとめの場面を「考察」の場面と位置づける(図2)。

問題解決場面の中で,この2つ(見通し・考察)の場面が考えを練り上げる上で重要だと考えた。

(3)考えを可視化し交流させる工夫とは

子どもたち一人ひとりの体験や既習をもとにした根拠ある考えや結果を根拠にした考えなどを,具体物の操作・絵図・カード化など目に見える形で表現させ,考えを学習プリントに一連の流れとしてまとめることである。また可視化したものを用いて互いの考えを発表し合い,考えを比べたり,分類したり,関係づけたりすることである。

具体的には,「具体物」「絵図」「カード化」など(図3)をもとに考えをつくり学習プリントにまとめていくことである。考えを可視化して交流することで,自分の考えを自分自身で自覚し,友達の考えと比べたり,関係づけたり,分類したりしやすくなる。可視化の方法の選択については,単元で学習する内容をもとに選択を行うようにする。

図3 考えの可視化
図3 考えの可視化

3.指導の実際 第3学年単元「じしゃくのふしぎをさぐろう」を通して

(1)問題解決場面

磁石と鉄の間にいろいろなものをはさんだときの磁石の働きについての子どものはじめの考えを,科学的な条件を満たす考えへと練り上げていく場面。

(2)ねらい

○ 磁石と鉄の間にいろいろなものをはさむ実験に意欲的に取り組み,磁石の性質について進んで調べることができる。

○ 磁石と鉄の間にいろいろなものをはさむ実験について実物や図・言葉を使って考えを可視化し,交流することで間に物(水・プラスチックなど)があっても磁石の働き(鉄を引き付ける働き)があることについて考えることができる。

(3)「見通し」の場面において考えを可視化し交流させる工夫

図4 「見通し」の場面の板書
図4 「見通し」の場面の板書

はじめの考えを表にシールで可視化することで,自分の考えと友達の考えを比較できるようにした。また,考えを全体で交流させ板書で整理することで,間にものがあってもじしゃくの力が働くかどうかについての自分の考えを類型化させるようにした(図4)。

子どもたちは,「磁石の力は全て働く」「どれかは働かない」「全て働かない」のどれかに考えを類型化していった。

※教材について
 実験する素材については子どもたちのはじめの考えを表出しやすいものを選択して提示した。

素材 ガラス プラスチック
(透明)
プラスチック
(不透明)
アルミニウム 粘土
特徴 ・固い
・不透明
・固い
・透明
・固い
・透明
・固い
・不透明
・固い
・光沢
・柔らかい
・不透明
・折れる
・不透明
・液体

このように「固さ」や「透明か」などの素材を意図的に選択することによって「透明なものなら磁石の力ははたらく。」などのはじめの考えを表出させていった。

(4)実験の様子

実験は,磁石の力がはたらく様子がよく分かるように,様々な素材の皿の上にマグチップを入れて,下から棒磁石を近づけさせた(図5)。結果は板書上にシールで全員整理した(図6)。

図5 実験の様子
図5 実験の様子

図6 結果の板書
図6 結果の板書

(5)「考察」の場面において考えを可視化し交流させる工夫

図7 考えカード
図7 考えカード

表に整理した結果をもとに自分なりの結論を書かせることで,考えをつくることができるようにした。また実験した結果を新たな根拠として,磁石の力をカードに可視化させ自分なりの考えを交流させることで,客観性を満たす考えへと練り上げられるようにした。磁石の力がものを通り抜けて働いていることについて考えを練り上げていた。

4.成果と課題

(1)成果

・「見通し」の場面において,板書上にシールによって考えを可視化し,自分の考えと比べながら交流させていくことは,もともともっていた自分の考えを類型化していく上で有効だった。

・「考察」の場面において,実験した結果を新たな根拠として考えをカードに書き,結論を交流させていくことは,自分の考えに付加・修正・強化していく上で有効だった。

(2)課題

・自分の考えが練り上がっていく道筋をさらに子どもたちに実感させるなどの手立てを検討していく必要がある。

・交流の在り方を整理し,効果的に設定していく必要がある。