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授業実践記録(数学)

グループ解決学習とプレゼンテーション
~少人数学習をアクティブラーニングの場にする~

山口県立高森高等学校 西元 教善

1.はじめに

前任校(山口県立岩国高等学校)では,3年生の理系でありながら数学Ⅲを選択しない生徒を対象とし,大学入試(記述式)対策用の問題演習をする授業を受け持ったことがあるが,そのときの講座受講生数は9名であった。生徒に問題を当てて解かせるとか,教員が解説をするとかの授業形態があるが,私はその9人を3人ずつの3班に分けて,問題集の問題を順に各班に指名し,問題が3問構成のときは,一人一人が分担してもよいし,協働して3人で1問ずつ解決していってもよいという指示を出し,問題が解けたら黒板に解答を書き,班員全員で他生徒の前で解説をするという形態の授業を行ったことがある。

2.授業のねらい

このような授業形態にしたのは,「エドガー・デール(Edgar Dale)の学習のピラミッド」における最上位ステージが,いわゆる「プレゼン,他の人に教える」という活動であり,その直下のステージが「グループ学習」であり,この2つのステージこそ「アクティブラーニング」であるから,これを目指そうと思ったわけである。

また,少人数学習であるから,指導の目が行き届くこと,板書を通じての「プレゼン,他の人に教える」機会が十分あるということもその理由であった。

3.プレゼン,他生徒に教える

左下の写真にあるように,各班に分かれて指定された問題を解く。以前使用した教科書・問題集・参考書を持って来させ,それらを活用しながら,問題を解かせる。教員は極力口を挟まないことにした。ただし,ある程度考えても生徒だけでは問題解決のための方向性が見つけられないときは,言いすぎない程度のサポート(助け舟)をした。

なお,入試問題は3問構成の場合が多く,また,前問が後問のヒントになっていることやその結果を使うことも多いので,分担制にした班では,前問を担当した生徒が後問の生徒にその結果を教えたり,協働して後問を解決したりすることの中にアクティブラーニングが大いに生じると考え,このプロセスを重視した。

教室全体の様子 各班の様子 板書の様子
教室全体の様子 各班の様子 板書の様子

問題が解けたら,それで終わりではなく,解答をブラッシュアップしてから板書する。生徒は,情報の時間でパワーポイントを使った効果的なプレゼンの方法を学習しているのでそのような方法もあるが,そのために時間を取られるのであれば本末転倒になるので,旧来の板書とした。

「板書」も伝統的なプレゼンである。独りよがりの板書ではなく,他の生徒にも明確に理解できるような板書(式の羅列にならないこと,読みやすい字を書くこと,適切な図やグラフを描くこと)と丁寧な口頭での説明が必要である。右上の写真のように,班員が担当した小問を分担して板書した。

板書が終わったら,担当した小問を⑴から順に説明をする(左下の写真)。そのあとに質疑応答がある。その後⑵,⑶(右下の写真)についても同様の流れである。班が責任をもって解き,その解説を行い,質問を受ける。人に説明をするには十分にわかっていなければいけないし,他の生徒の違った視点での質問にも答えられなければならない。ただ問題が解けただけでなく,わかっていない他生徒にもわかってもらえる説明ができるようになる中に説明者としての理解の深化がある。それが成功記憶として残り,今後の数学力の向上が期待できると考えた。

次のプレゼンは,『四角形ABCDが,ABを直径とする円に内接している。AB=10,BC=6であり,2つの線分AC,BDの交点をEとおく。AE:EC=3:1のとき,⑴AC,BCの長さを求めよ。⑵DEの長さを求めよ。⑶△ABE,△CDEの面積を求めよ。』という問題についてである。

⑴ を担当した女子生徒が説明(左上の写真)しているとき,⑵,⑶を担当している同班の生徒は前列で待機する(中央の写真)。⑶(最後の問題)を担当した生徒(右上の写真)はプレゼンの後,担当した問題全体についての質問を受ける。その間,他班の生徒は自班の問題を解く手を休めて,プレゼンを聴き(中央と左の 写真),質問,疑問,意見等(があれば)する。

プレゼンをする生徒とそれを聴いている生徒の間にアクティブなやりとりがなければ,アクティブラーニングの意義は薄れてしまう。また,他班の生徒の解いている問題にも関心を持たせておく必要がある。なお,教員は,補足等があれば最後に行った。

4.今後の課題

この実践は,受講生徒が9名で,3名ずつの3班に分けて行ったものである。これが通常の40名のクラスで行うとなればこのような形態での実践ができるかについては検討を要するだろう。自班の担当した問題はよく理解できても自分が実際に解かずに他班の生徒の説明だけを聴いて理解でき,解けるようになるかは疑問であるからである。

実際,このような9人3班で実践できたのは数ヶ月の間だけである。岩国高校では数学Ⅲを履修している生徒が考査終了後に進路を考えて,数学Ⅲを必要としない大学を受験するようになった場合には,問題演習コースに変更ができる。そのため,私の受け持った講座も受講生徒が倍増し,このような形態~「プレゼン,他の人に教える」~でのアクティブラーニングを行うことを断念し,その直下のステージの「グループ学習」に切り替えてしまった。ただ,「プレゼン,他の人に教える」というステージは必ずしも毎回の授業で実践する必要はないと思うが,数学教育にとって重要なステージであると思う。

私事であるが,大学(理学部数学科)在学時の演習(講義とセットになっていた。たとえば,解析学Ⅰと同演習のように)では,講義での内容に即した問題プリントが配布され,単位修得のためには3問程度を解いて板書し,解説をすることが必要条件であった。解く問題を指定されるのではなく,解けた問題をプレゼンするのであった。そのため,時にはかち合うこともあり,優先権確保のために演習の時間前に板書することもあった。板書や説明について演習を担当している助手や受講学生からの突っ込みもあり,しっかり準備をしていなければならなかったことを思い出す。高等師範学校の流れを汲む教員養成の伝統校であったため,同級生はかなりの高い割合で高校の数学教員になっていったが,この経験は教育実習以上に教員になってからの日々の授業や学習指導に大いに役立った。

生徒にとっても今後の社会でプレゼンを要求される機会は多い。また,グループで研究や開発,業務に当たることも多い。数学の授業の中でもその経験を積むことには意義があると思う。今後は,少人数だけでなく40名の生徒に対しても有意義なグループ解決学習とプレゼンテーションが行える授業スタイルを確立していきたい。