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授業実践記録(数学)

自分の公式を作ろう!~円周率の値を求めて~

武庫川女子大学附属中学校・高等学校 正法院 和彦

1.はじめに

数学Ⅲの授業で回転体などの体積を求める際にπが出てくることが多い。そのとき,生徒が
「πって円周率のことだから,πに3.14を代入すると体積の数値がでるんですよね?」
と質問してきたので,
「正確な値は出てこないよ。π=3.14ではなく,π=3.141592653589793… だからね。」
と答えると,生徒は次のように答えた。
「数字が不規則に並んでいる…目が回る…でも,そんな不規則な値をどうやって求めたんですか?」
私はこの質問に目を輝かせた。生徒がもった疑問を,生徒と一緒に考えていこうと思い,近似式を発展させ,より正確なπの値を求めてみることを授業に取り入れた。

2.指導計画と授業実践

(1)指導計画

数学Ⅲの微分法・積分法の内容が終わった後に,以下の流れで授業を実施した。

単元 内容 授業時数
速度と加速度
速度と道のり
速度と加速度
曲線の長さ,速度と道のり
3時間
近似式 第1次・第2次近似式
テイラー・マクローリン展開,オイラーの公式
三角関数の逆関数
πの値
連分数
5時間

今回,近似式の4時間目にあたる「πの値」についての指導の内容,工夫を紹介する。

(2)授業の流れ

[対 象] 高校3年 理系クラス
[準備物] ものさし,コンパス,方眼紙,メジャー,円筒, 正多角形,爪楊枝,長い棒,電卓

(使用したパワーポイントのスライドをPDFにしたものはこちら

段階 学習事項 生徒の活動 指導上の留意点
導入
5分
・復習をする ・πについて発表する ・exのマクローリン展開を復習する。ネイピア数eの値を求めたこと思い出す。 ・円周率πの値をどこまで言えるか挑戦する。 ・πの値を求めることが今日の課題であることを知る。 ・答えた生徒をほめる
展開
40分
・班で課題を解決する
・次の問題を班で考える。
[問題]π>3.05 であることを示せ。
ものさし,コンパス,方眼紙,メジャー,円筒,正多角形,爪楊枝,長い棒,電卓などを用いて,6~7人の班でいろいろな証明を考える。
・班はこちらから指定 ・発表方法を先に伝える ・机間巡視し,証明が進んでいない班にはヒントを伝える ・班の代表が答える ・πの値が本当の値と一番近い班はほめる ・こちらが準備した解答例以外が出たときは,班で発表させる ・班での発表でこの解法が出た場合も最後に解説する
・机間巡視して,わからない生徒のサポートをする
・班で発表をする・いろいろ考えた証明の中で,一番すごいと思う証明を答え,πの値がいくらになったかも答える。
・いろいろな解答例を学ぶ・班の発表された解法とその他の証明方法を詳しく学ぶ。
・復習をする・三角関数の逆関数のマクローリン展開の復習をし,πの値を電卓を用いて求める。
・公式を知り,利用,作成する・マチンの公式,高野の公式,シュテルマーの公式などいろいろな人がπの値を求めるのに,挑戦していることを知る。・班で協力して,今知った公式を用いてπの値を求め,精度の良さを実感する。・公式を利用して,新たな公式を作成する。
整理
5分
本時のまとめ ・πについても近似式を用いれば求めることができることから,近似式の有用性を再確認する。 ・πを近似分数で表した方法,連分数表示についても取り組むことを伝える。  

(参考・引用文献)
①円周率~歴史と数理~ 中村 滋著 共立出版   ②πの計算 木田 外明著 共立出版
③高校数学の美しい物語 マスオ著 SB Creative

3.授業の工夫

①生徒の自発的学びを促す

今回の授業では,「円周率が3.05より大きいこと」を証明させたが,生徒たちが編み出した方法は本当にたくさんあった。実際ヒントとなるのは,こちらから準備した小道具だけであったが,円柱の筒の円周を測り円周率を出す者,方眼紙に円を書いて面積で円周率を出す者,正弦定理を用いて円周率を出す者,アークタンジェントを用いて円周率を出す者など,実に生徒の可能性が無限大であるかを示すようであった。しかし,それだけで終わっては授業の意味がない。そのたくさんの解き方をみんなで共有しあうことで,授業後に自分と違うやり方で実際に円周率を求めている生徒がたくさん見かけられた。

また,誰も思いつかなかった「ビュフォンの針」などを,あえて授業では細かく説明しないことで,後日「ビュフォンの針で円周率を求めてみました。」「ビュフォンの針でどうして円周率が求まるか,考えてみました。」など,自発的に生徒たちが活動するきっかけを作ることができた。

②大学数学へと繋げる

数学を学んで何の役に立つのかわからないという生徒が多いため,「実生活の中で,どのように数学が使われているか」を授業で取り扱うことがよくある。今回の授業計画では,近似式からテイラー展開や三角関数の逆関数などを取り上げ,今まで求めることができなかった三角関数やネイピア数,円周率の値をより正確に求めることを実践した。他にも,フーリエ変換と波,1・2階微分方程式,統計学,結び目理論,線形代数などを実施し,将来数学が何につながっているのかを生徒たちに見せている。先が見えることで,生徒たちが数学の有用性が理解できることに加え,今取り組んでいる数学の大切さを理解する,また大学入試問題の解法の広がりにもつながっていくと考える。

③自分だけの答え,公式を作成する

数学は解法や答えが1つしかないと思っている生徒はまだまだたくさんいる。今回はそういった生徒たちの視野を広げるため,「πが3.05より大きい」という問題の班ごとの解法,πを求める自分だけの公式を作ることを生徒たちに実践させた。生徒たちも自分だけの公式ができ,達成感があったようだ。

この授業後の授業展開として,今回は時間がなかったので実施していないが,自分たちの作った公式がどれだけ正確なπの値を求めることができるのかを競う大会を実施するもの面白い。また,本校は和算の「算額」を授業で取り扱っており,円周率は和算ととても関係深いことから,数学史について授業で取り扱うこと,それに加え,自分だけの算額を作って応募する「算額コンクール」に参加していくのも面白い。

④ICT機器の利用

今回の授業では,簡易電卓という身近なものでπの値を求めることに着手した。しかし,③で述べた「自分の作った公式がどれだけ正確なπの値を求めることができるのか」をより正確に調べるために,Excelを使用することが必要となる。また,Grapesを使ってグラフからπの近似値を求めることを実施してもよい。また,今回は時間がなかったので実施していないが,iPadを利用し,班で考えた「円周率が3.05より大きい」ことの証明をプレゼンさせることも実施したいと考えていた。

4.まとめ

今回の授業では,生徒の興味・関心を高める,生徒たちの考えを共有,生徒の自発的学びを促すという目的は達成されたと思う。πについて興味を示した生徒の声から考えた授業展開であるが,そういった声をたくさん授業に取り入れることは,生徒の興味・関心をより高めることとなるので,とてもよかったと思う。それに私の成長にもつながった。授業研究すればするほど,知らなかった,あやふやに覚えていたことなどを理解できたことは,とても楽しかった。教師は日々いろいろなことがあり,とても忙しい。しかし,数学のセミナーにいったり,数学の本を読んだりする時間を日々少しでも持ち,今後も生徒たちと楽しめる授業を,生徒たちと一緒に作っていきたいと思う。