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授業実践記録(数学)

数学A図形分野の指導とアクティブ・ラーニング
~生徒が問題を作り,生徒が解答する~

貞静学園中学高等学校 久保 良一

1.はじめに

近年,「アクティブ・ラーニング」という学習法が注目を浴びている。ただ一方的に性質・定理を教授するだけでなく, 生徒たちが意見を出し合って学んだことを活かせる指導をするにあたり,『いつもと逆の考え』として生徒たちに教師役をやらせてみようと試みた。その一例として今回実施した授業を紹介する。

2.この授業を実施するにあたって

数学Aの図形分野では, 「角の二等分線の性質」や「方べきの定理」などの性質・定理が多く存在している。生徒たちからは,『どの定理を使って良いのかがわからなくなる』『ここで方べきの定理を使うの?』といった意見が毎年出てきていた。そこで今回は,問題を"解く"側ではなく"作る"側になることで,図形問題を解くための手法やどのように性質・定理が使われているのかを少しでも理解してほしいという目的で授業を実施した。

3.授業展開(1回目・2回目)について

※この授業は,教科書(詳説数学A[啓林館])P.156まで指導した後に実施した。

<1回目>

  • ① プリントNo.1を配布し,今回の授業展開を説明する。その際,今まで学んだ図形の性質・定理を2つ以上組み合わせることを徹底する。
  • ② 4~5人で1グループを作り,問題を作成する。
    (最低でも各グループ1題は作成させる)
  • ③ 作成した問題・解説を回収する。その際,解説をしてもらうことを伝達する。
    (教員が次回授業までにデータ化しておくと見やすくなる)
    また,設定ミスや解答不能な問題がある場合は,その部分を指摘し,次回授業前までに再考させる。

<2回目>

  • ④ 1回目で作成した問題(プリントNo.2)を配布し,生徒たちに解答させる。
  • ⑤ プリントの問題を,作問した生徒たちに解説させる。

4.アクティブ・ラーニングとの関係性

アクティブ・ラーニングには『教室内でのグループディスカッション』が含まれるため,②の作業に該当する。また,⑤で『プレゼンテーション力』も育成できると考えている。

5.実際の授業例

<1回目>

P.156の問題(1の(2))でα を求める際に, 「接弦定理」と「円に内接する四角形」の2つの性質を使っていた。このように,1つの定理だけでなく複数の性質・定理を使う問題が入試などでもよく出題されている。そこで,生徒たちだけでこのような問題を作らせてみようと考えた。(プリント配布)

~作問時のルール~

① 4人~5人のグループで相談しながら作問する。 ② 教科書・ノートを利用してもよい。
  ※教科書の問の[数字を変えただけ]はダメ!!設定を一から考えること。
③ 最低でも2つ以上の性質・定理を使う問題にすること。その際に数学Ⅰの知識(三角比など)を用いてもよい。

<2回目>

前回作問してもらった問題を解答させる。

~作問した問題を2つ紹介~

[1] 図の直線XYは,点Dで円と接している。PA=1, AB=2, BC=BD=4, ∠BDY=60°のとき,PCの長さを求めよ。

 【使用した性質・定理】
① 接弦定理
② 方べきの定理

接弦定理を用いて,△BCDが正三角形であることを導き,CD=4を求める。その後,方べきの定理からPCを求めればよい。

生徒たちの作った問題で正三角形を利用したものが多く見受けられた。やはり,1つの内角が60°であることや,長さが求められることが利用しやすかったのだと考えられる。また,60°であることを利用して余弦定理と絡めて長さを求めさせる問題を考えたグループもあった。

[2] 図のように,2点A,Cが円周上の点となっている△ABCがあり,円と辺AB,辺BCとの交点をD,Eとする。半直線CB上に,BP=8となる点Pをとり, 直線PDと辺ACとの交点をQとする。AD=5,BD=3,BE=2,∠ABC=72°のとき,次の問に答えよ。

(1) CEの長さを求めよ。
(2) ∠ABQの大きさを求めよ。

【使用した性質・定理】
① 方べきの定理
② メネラウスの定理
③ 角の二等分線の性質

(1)は方べきの定理を用いればよい。(2)は△ABCにおいてメネラウスの定理を用いてAQ:QCを求め,その結果がAB:BCと一致しているためBQが角の二等分線になっていることを利用する問題である。

この問題は,『どこかの問題集からもってきたのか?』と思うぐらい良い問題だと思った。他グループの生徒たちからも『これはすごい!』『こんな問題よく思いついたね』といった感想が出ていた。

6.授業の考察

この授業を行うことで,問題を"解く"側では見ることができない部分を知ることができたため,1つの問題に対する別視点を生徒たちに与えることができたと考える。また,作るためにはその部分の「知識」と「理解」が必要であり,『あの定理を使いたいのに,設定が理解できていないので上手く使えない』といった意見が多くみられた。やはり,その場の指導で「解けた」だけでは「理解した」に直結していないことが判明した。問題を自分で"作る"ことで,定理の設定や使用するための条件をしっかりと理解することができたと思われる。

また,自分たちで作った問題の解説を発表させることで,「どのようにすれば他の人を理解させることができる解説になるか?」を事前にしっかりと考えることになる。その結果,途中式をどのように残せばよいのかを考えるきっかけにもなりつつ,他の生徒たちの理解を深めることができるのではないかと思う。今後も適宜このような授業を実践できるようにしていきたい。