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授業実践記録(数学)

生徒が解説を行う入試問題演習の授業

大阪府立北野高等学校 冨山 一紀

1.はじめに

本校の数学科では数年前より複数の教員が,主に入試問題集を用いた問題演習の授業において,生徒に演習の解説を行わせる形式での授業を実施している。生徒の取り組む姿勢や生徒の解説に臨機応変に対応する教員の力量により授業の質が大きく左右される授業形態であり,試行錯誤の段階にある拙い実践であるが紹介したいと思う。

2.ねらい

(1)他人に説明することで自らの理解が深まる。

教員がしばしば経験するように,他人に理解させる説明を考える過程で,自分が本当に理解できているか,どこまでが理解できていて何の理解が不十分なのかを確認することができる。また,考えたことを声に出して話すことは,記憶を脳に定着させる有効な方法である。

(2)プレゼンテーションの経験の機会を与え,能力の伸長を目指す。

自らの考えや意見を明確に表現し他者に説明する能力は,生徒達が将来社会で活躍する上で必要不可欠な能力である。国語や,英語,家庭科や情報など多くの教科でプレゼンテーションや討論の機会が設けられているが,数学科としてもその能力伸張の一助となる取り組みが出来ればよいと考えている。新学習指導要領に指導上配慮するよう書かれている「自らの考えを数学的に表現し根拠を明らかにして説明したり議論したりすること」にも通じるものである。

3.授業展開

(1)本校における問題演習の授業について

本校では2年次から文系・理系のコース別に数学の授業を行っている。文系は2年の秋から,理系は2年の冬から,週に1~2回程度のペースで数学I・A・II・Bの既習単元を,入試問題集を用いて復習する授業が行われる。そこでは1校時65分の中で扱う問題が毎回5~6題指定されており,事前に指名された生徒が準備してきた解答を授業開始までに板書し,授業時間中に教員が板書の解答を添削し解説を行う。

この授業中の解説を,まず板書した生徒自身が行い,教員がそれを補足する,という流れに変えたものが,ここに紹介する事例である。

(2)指導内容

第1回目の私の授業の冒頭で生徒に指示する,解説の際の約束事は

  • 書いてあることをそのまま読むのは解説ではない。読み上げるのは自分が解答のポイントであると考える部分だけにとどめ,解説では何故このように考えるのか,考え方の筋道を話すことを意識すること。
  • 用いた公式や定理のうち,復習が必要と思われるものについては板書し確認すること。

の2点である。

多くの生徒にとって厳しい内容ではあるが,教師の側から見れば生徒が授業の中で本当に実力をつけるためには非常に重要な要求である。約束事が守られていない解説を行った者に対しては,最後に「結局この解答のポイントはどこ?」と確認したり,考え方のポイントとなる箇所で「何故そんなふうに考えた?」と説明を求めたりするので,指名されている生徒はポイントと筋道を事前に整理し理解をある程度深めた上で授業に臨むことが必要になる。

また,解説の数学的な内容以外にも,話すときは黒板を見るのではなく聞き手の方を向くこと,聞き取りやすい大きさの声で話すこと,「それ」「これ」のような指示語の多用は避けること等,人前に立って説明をする上で注意すべきことを指導するようにしている。

(3)生徒の様子

意欲の高い生徒の中には別解を準備してくる者や,用いる定理・公式の証明を紹介する者もいる。色チョークの使い分けや解説の書き込みを工夫するなど,プレゼンテーションの方法にも進歩が見られる者が少なくない。指名された問題が予習の段階では自力で解けなかった場合でも,誰かに教わったその場しのぎの解答を,充分に理解しないまま板書してお茶を濁す者は少なくなった。ポイントが正確に押さえられる生徒が増えてくると,授業全体として解説が非常に論理的で分かりやすいと好印象を持つ声も聞かれるようになった。解答の表面だけをなぞる解説に比べ,準備をする生徒も指導する教員の側も手間と時間のかかる方法であるが,着実に理解を深め,力を伸ばしていると感じられる。

4.おわりに

初めに述べたように,生徒の姿勢やクラスの雰囲気,対応する教員の力量により授業の質が大きく左右されるため,教授型の授業に比べ高いレベルで安定した授業を行うことには困難を感じることも多い。また,数学が得意な生徒や予習の段階でその問題が解けた生徒にとっては,生徒の解説が主となる授業は,ほとんど聞くべき内容がなく物足りない時間になってしまうおそれがある。解説の準備の段階でいかに生徒を本気にさせられるか,併せて教員の側が教材の理解をどれだけ深められるか,今後更に研鑽の必要性を感じている。拙稿をお読み頂き,ご教示下されば幸いである。