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教師の方へ

授業実践記録(生物)

普通教室で行うDNA抽出実験
~自分のDNAを取り出してみよう~

大阪府立岸和田高等学校 阪口 巨基

はじめに

生物科の教員として実験や観察実習などを多く取り入れ,生徒が本物に触れられる機会を増やしたいと常々考えていますが,教科書の内容や進度との兼合いもあり,どうしても座学中心の授業展開になってしまっています。教科書にも多くの実験が紹介されていますが,実験室に生徒を呼んで丸ごと一時間を実験に費やすこともできず,させたい実験を画像などで紹介するだけで終わってしまうこともままありました。そんな中「DNA抽出実験」を,手順を簡素化し,使用する試薬や実験器具をできる限り最小限にすることによって普通教室で生徒実験できることを先輩の先生から教えていただき,他校の先生が行っている実践例も参考にしながら,実際に40名の生徒が在籍する講座で実践してきたことを報告させていただきます。

2.実験の概要

これまで「DNA抽出実験」ではおもにブロッコリーを材料に用いて行ってきましたが,すりつぶし,ろ過する作業を伴い,作業時間がかかるうえ場所も必要であり実験室で行うしかありませんでした。しかし,このたび実践した方法では生徒自身の口腔上皮細胞を材料に,1.5mLマイクロチューブの中で細胞を溶解させ,DNAの沈殿を観察することにより普通教室の生徒机上で実験を完結させることができました。

3.実験手順

(1) 準備

人数分用意するもの

  • ・ 紙コップ:試飲用の小さめのもので十分です
  • ・ 1.5mLマイクロチューブ
  • ・ 2~3%食塩水(5mL/1人)

教室の形態により列ごとに用意できれば便利なもの

図1 コンタクトレンズ用タンパク除去剤
図1 コンタクトレンズ用タンパク除去剤

・食器洗い用洗剤 (点眼容器に分けておく)
・コンタクトレンズ用タンパク除去剤:Menicon「プロテオフ」5.5mL 入り
・95%エタノール(スクリュー瓶などに分けぎりぎりまで冷凍庫で冷やしておく)
・パスツールピペット(マイクロピペット)

複数あれば便利なもの

・保温容器(発泡スチロールの箱等,箱の底に60度程度の湯を入れたトレーなどを設置)
・卓上遠心分離機

図2 実験に用いる器具・試薬
図2 実験に用いる器具・試薬

(2)実習の進め方

*実習時は生徒の口の中がきれいであることが望ましい。特に昼食後などは注意が必要です。

  • ① 食塩水5mLが入った紙コップを全員に手渡す。
  • ② 食塩水を口に含みマウスウォッシュ。ほおの内側をできる限り念入りに歯で噛みながら行ったのち紙コップに吐き出す。
  • ③ ②で細胞を採取した食塩水に洗剤2滴と酵素液2滴を加え,紙コップを回すようにして混ぜる。
  • ④ 保温容器の湯に紙コップを5分から10分程度静置し,酵素反応を進める。
    (紙コップに名前を書いておけば他人のものと間違いません)
    筆者は④の酵素反応を進めている間や,⑥の卓上遠心分離機を使っている間に「食塩水を用いた理由は?」「洗剤の役目は?」などそれぞれの手順の意味について,隣や前後の生徒どうしでグループを作らせて考えてもらうようにしています。
  • ⑤ 各人紙コップを取り出し,1.5mLマイクロチューブの0.5mLのラインまで溶液を移す。粘性があるので慎重に注ぐ。(紙コップの縁を少し折ると注ぎやすくなります。)
  • ⑥ マイクロチューブのふたを閉め,ふたに名前を書き卓上遠心分離機で1分ほど遠心分離する。これにより細胞片やタンパク質などの浮遊物がマイクロチューブの底に沈殿する。 図3 遠心分離後の試料(下の方に細胞片などが白く沈殿している。) 図3 遠心分離後の試料(下の方に細胞片などが白く沈殿している。)
  • ⑦ マイクロチューブのふたを開け,パスツールピペットを用いて冷やしたエタノールをチューブの壁を伝わらせるようにゆっくりと注ぐ。
  • ⑧ ゆっくりとマイクロチューブを傾ける角度を変化させる。上層のエタノール溶液と下層の試料の境界面を波立たせると,繊維状のDNAの沈殿が境界面に現れる。
    (激しく混ぜると細胞片などの沈殿と混ざってしまうので注意。) 図4 抽出されたDNA沈殿(0.5mLのライン),下の沈殿は細胞片など 図4 抽出されたDNA沈殿(0.5mLのライン),下の沈殿は細胞片など
  • ⑨ 希望する生徒にはそのマイクロチューブをそのまま持ち帰らせる。

4.おわりに

数年前から今回の方法を用い「生物基礎 遺伝子とそのはたらき」単元の導入として行ってきました。口腔の上皮細胞を使うため材料の用意や,すりつぶし,濾過の手間がかからず,片付けもほとんどなく普通教室の生徒机上で十分に行えます。

また,本実験では塩類溶液,界面活性剤,タンパク質分解酵素,エタノールなどの試薬を使っていることや,遠心分離機,マイクロチューブ,パスツールピペットの代わりにマイクロピペットを用いることで「生物 バイオテクノロジー」の単元でも導入として行い,実際の研究室でも同様の方法でDNAを抽出し精製したものが研究に利用されていることも紹介しています。

生徒の感想としては「家庭にあるものでDNAが取れるのは驚き」「DNAの抽出が思った以上に簡単」といったものから,「これがDNAであることをどのように確かめるのか」といった鋭い指摘をするものもありました。沈殿を取り出してきて酢酸オルセインなどで染色する追加実験を行ってもよいかもしれません。

今後,他の実験でも普通教室で簡単に行えるものがあれば積極的に取り入れ,生徒たちにより多くの実習をしてもらい,本物に触れる機会を増やしていきたいと思っております。

参考文献