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授業実践記録(英語)

高校1年生で「見せておきたい」文法
~Vision Quest参考書のつまみぐい~

近畿大学附属広島高等学校・中学校東広島校 石井 和宏

1.はじめに

文法用語はいつ,どのように,どこまで指導するか,よく話題にのぼる。私の身の回りにいる文法用語抑制派の人たちは,母語を獲得するように慣れるまで反復することで染み込ませることを重視する意見が多い。また文法用語推進派は,先々必要とする用語を指導者だけ知っていて隠し持って指導するのはフェアではないし難しいという。小学校の算数の段階で因数分解の公式を教えて使えるようにすべきという意見にも聞こえる。品詞分解やディスコースマーカーなど最終的には知っておけば確かに便利な道具だ。

私は軽度の品詞分解病な英語好きだ。教師生活の最初の6年を中学で,しばらく教育現場を離れて次の3年を高校で,それから現在までの7年を中高一貫校で過ごしてきた。その中でどこまで文法用語を単純化できるかを考えるのが趣味になってきた気がしている。中学英語ではちょっと背伸びをさせ,高校英語では中学の基本に立ち返らせることが大切だと感じている。

ここでは私が年間1つのクラスにつき,レベルの如何を問わず,板書し,反復させ,生徒自身が説明できるように刷り込んでいるものをまとめてみたい。また,本校で採用しているVision Questの参考書を高校3年間持ってあがれる教材にするための「つまみ食い」にも触れたい。

2.VQ序章で品詞と句・節

ここでは本年度担当している高1を前提に話をすすめたい。(と言っても同じく今年度担当している高3でも同じことを言っている。)

私がどのクラスでも,どの学年でもいつも年度の初めに必ず時間をかけるのが,品詞や文型など,私が授業で口にする文法用語の説明である。生徒がそれまでに貯めてきた知識とのずれがあるまま私と話すと混乱するかもしれないからだ。授業で使う品詞は大きく4つ。名詞,動詞,形容詞,副詞だ。中学から口ぐせにさせておきたい言葉が以下の板書だ。

(実際の板書を撮影しており,悪筆で申し訳ない。)

この板書を年間30回くらいは書いたり書かせたり,互いに説明させあったりしている。これが入っていると,文型も受動態も準動詞も関係詞も比較も話が早い。また,参考書をVision Quest(以下VQ)にしてから,説明の言い回しやポイントが近くて助かっている。名詞,形容詞,副詞の区別を知らぬまま,ただただ単語を覚えるのがつらいからだ。意味がわかってなくても品詞が区別できればほめてあげるようにしている。語順を理解しやすいからだ。

VQの序章には品詞と句・節の解説が文型の説明とともにほどよい量であり,「[4]英語の品詞の種類と働き」を上記の4つの品詞に分けさせたりする。「[5]句と節」もしっかり説明し,単純化させる。

3.形容詞への理解

品詞の中でも作文力をあげるために形容詞への理解を優先させている。冠詞や前置詞句も名詞を飾る役目として形容詞にほおりこんで説明している。VQ第23章形容詞のFocus316数詞やFocus323everyなどは,生徒のレベルに関係なく,生徒がうなずくポイントであり,この段階で示すことが多い。下の板書は「名詞を何で飾るか」の説明で,名詞を名詞で飾る,名詞を形容詞で飾る,名詞を動詞で飾る,名詞を文(S'V'構造)で飾るという表現で説明をする時のものだ。九九のようにクイックレスポンスで答えられるよう,語彙レベルは極力抑えるのがポイントである。VQは前から使うのでなく,特に第17章接続詞以降の章は「文法の辞書」として縦横無尽に行き来する。自学自習につなげるために,あえて巻末の「日本語さくいん」から該当箇所にたどりつかせるようにするのもよい効果がある。

4.動詞への理解

動詞でつまずくポイントは動詞の語法だろう。VQでは第2章文型と動詞で自動詞・他動詞にしっかりと触れた後,「動詞の語法」を別途ていねいな分類と豊富な例文で解説しており,ここも早い段階で触れるようにしている。自動詞・他動詞は中学で理解しきらずに高校に入る生徒が多く,まずは文型で単純化して自動詞と他動詞を早期に理解させ,その活用方法としてこの「動詞の語法」に触れさせる。自動詞・他動詞と受動態との関係も簡単に触れておくのがポイントで,「自動詞・他動詞を理解しておくとお得だよ」と言いながら印象づけていく。当然,受動態の時にはこの板書が再登場し理解を助ける。

5.副詞への理解

先の文型の板書のところで「副詞は一番おもしろいぞ」と言うことにしている。実は一番大変なのだが,その分使いこなせれば表現がぐんと広がる鍵であり,後々でてくる不定詞の中でもやっかいな副詞的用法の時にも同じ言い回しをする。「名詞以外を飾る」という乱暴なくくり方だが,生徒はよく覚えてくれる。「副詞だからそんな使い方があってもしょうがないか」と寛容な気持ちになってくれるようだ。また,品詞の板書で上の3つ(名詞,動詞,形容詞)でいわゆる文型はできており,副詞をそぎ落とすことができれば文の構造がわかりやすくなるので,学年が進むほど,副詞への理解と慣れは大切である。第24章副詞のFocus327では頻度を表す副詞を視覚的にわかるようにしてあり,早めに触れておくことで英作文に安心して取り組める。また,STEP2の発展編(発展編自体は後回しだが)の「英作文のコツhoweverは副詞」で生徒が書きたがる,よくやるミスを抑えておく。あとに続く「副詞の語法」で紹介されている「[1]名詞と間違えやすい副詞」も英作文に自信を持つために早い段階で見せておきたい。

6.何のためにつまみ食い

ここまでVQ参考書のつまみぐいについて触れてきたが,これらは全て高1で身に着けておくことが目的ではない。「見たことがある」を作ることが目的である。上に挙げたことは生徒が少しまとまった英語を書こうとした場合にミスを起こしやすいポイントである。高1でも高3でも似たようなミスをするのだ。ケアレスミスと言えばそれまでだが,その小さなミスの積み重ねは自信喪失にもつながる。冠詞や名詞の単複などはスペルミスとは間違いの質が違う。まるで英語初級者のミスのように見えるが,実はかなり深い知識がないといけない。今,頭になくても,どこにそれを思い出す材料があるかがわかれば英作文の際の安心感につながる。倒置や無生物主語など大物はさておき,どんな文法でもどんな場面の英作文でも共通して起こるものは自己補正機能を持たせてやりたい。英作文であれば,和英辞書より英和辞書,英和辞書よりVQを見ながら,品詞と語法,語順のミスに自ら気付ける仕組みを持たせてやりたいと思うのである。

最後に上記で述べたような板書について気をつけていることを記す。まず,書く位置である。例えば「4つの品詞」の場合,黒板の左端と決めている。数回書けば「いつもこの辺に書きよるやつよ」と言えば反応が返ってくる。書かなくても想起させやすい。次に色である。私はチョークに白と黄色しか使わない。以前に赤が見えづらいという生徒がいた経験があったのと,入試や日常生活では鉛筆の黒1色しか持ってないはずだからだ。英文への書き込みは黒・赤の2色まで,それで判断できる記号や括弧を効果的に使うように勧めている。(カラーのプリントは配布できないし,色分けがめんどくさいという理由も…。)また,板書の中身をペアやグループで口頭クイズ形式で答えさせるということもしばしば入れる。やはり書かずとも板書が頭の中に想起できることがつまりは理解できたということになるはずだからだ。

VQに限った話ではない。参考書やノートを手にとり「あそこに書いてあったよな」と自ら調べる学習態度を養うために,授業の中でそのヒントをちりばめながら高3へと成長させたいと思っている。