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授業実践記録(英語)

生徒が積極的に音読したくなる知恵袋

長野県長野高等学校 藤沢 衛

1.はじめに

私の音読との出会いは,若林俊輔先生(当時東京外国語大学教授)による長野県の新任英語教員向け講演会でした。若林先生曰く,「英語の授業で省いてもいいものは何か。和訳?そう。発音記号?そう。では,絶対省いてはいけないものは何だ。それは音読だ。1に音読,2に音読,3,4に音読,5に音読。これだけは忘れるな。」でした。その後知った,国弘正雄先生(当時東京国際大学教授)の「只管朗読」も衝撃的でした。新任教員の頃は,一人暮らしの部屋で,毎晩大きな声で教科書を音読して,準備万端翌日の授業に臨んだものでした。

音読指導の重要性は,様々なリサーチ,レポートが発表されていますので,ここでは重要であることは前提として話を進めます。

2.音読は最後にやりたい

英語教育のセミナーに参加すると,「英語の授業に正しい順番はない。和訳を先に行っても,単語ドリルを最後に行っても,それぞれに目的があり,有効性がある。」という趣旨の話を聞くことがあります。しかし,こと音読指導に関しては,内容理解のないうちに音読を行っても効果は薄く,きちんとした発音,読みの指導を省いての音読指導は,むしろ弊害が大きいと感じます。つまり,音読指導は,授業での各パート,各レッスンの最後の活動として位置づけたいと感じます。

3.音読は準備が大切

上記2と重複しますが,音読での準備とは,文単位,段落,文章全体の内容理解です。具体的には次の2点を考えます。

(1) フレーズ理解
文の中の「意味のまとまり」をつかみ,まとまり毎にポーズを入れて,意味上の区切りを意識できることが大切です。S-V-OのどこまでがSであるか,関係詞の修飾・被修飾関係(先行詞と関係詞節)などの認識がないと正しい英語のリズムを伴った読みはできません。音読のためのフレーズの区切りは慣れるまでは,AETに相談することも必要です。

(2) 文単位での伝達情報を担った語句と機能語の区別,連結・融合の確認
放っておけば平坦な棒読みになりがちな日本人の英語音読には,特に正しい抑揚に注意することが必要です。内容語の中でも,伝えたい語句,新情報部分を強調し,繰り返し部分は強調しません。このようなことの確認なしには,きちんと抑揚のとれた音読は生まれません。同じことは段落単位でも,また文章全体でも重要です。

4.積極的な音読活動を支援する工夫

いよいよ本題です。音読活動を実りあるものにするためには,工夫が必要だと思います。語学教育雑誌等で紹介される様々な活動の中には,日常で行うには重いものもあります。そこで,生徒たちを飽きさせず,音読したい気持ちにさせるための,今私が通常授業で行っている工夫を紹介します。

(1) "Repeat after me"
新出単語の発音練習の場合でも,フレーズごとの音読最初の指導でも,CDにつづいて発音練習させるより,先生の肉声を用いる方が生徒の積極性を引き出すことができると実感しています。工夫とは言えませんが,まずはこれです。不十分なところは何度でも,ボタン操作なしで繰り返しができるのも肉声ならではです。状況に応じて,語単位,句単位,文単位で丁寧に読ませます。抑揚などの確認もここでします。これが十分でないと,音読はかえって,自己流の間違った読みを支援してしまう結果になってしまいます。

(2) フレーズ単位から文単位の段階を踏んだ "Shadowing"
(1)のあと,教科書付属のCDにフレーズごとにポーズの入ったナレーションがあれば好都合ですが,本文を見ながら,CDナレーションを追いかけて読みます。フレーズ間,文と文の間のポーズはしっかり取らせます。

(3) フレーズ単位,文単位の"Read and Look up"
生徒は(2)のあとで,これを行います。ナレーションをテキストを見ながら聞き,次にテキストを見ず,視線を上げて,再度フレーズを繰り返し読みます。フレーズ単位のRead and Look upに慣れたら,文単位で行います。これは効果絶大で,オウム返しの読みから,記憶を経由して能動的に発話するようになることで,音声の英文が体内に浸透する感覚を味わえます。

(4) 「WPM(1分あたりに読める語数)測定」を目的としたレッスン全体音読
(1)から(3)を行った後に,英語らしい抑揚,区切りをきちんとつけながら,課全体を読み,かかった時間(秒)を測定します。WPM=(全体語数×60÷かかった秒数)で計算し,グラフに残す作業を続けます。最終目標は約180 WPMとして,1年間約12課を続けると,平均して140~160 WPMにまで数値が伸びるようになります。なぜか,音読の声量も課を重ねる毎に大きくなる傾向があります。グラフで右肩上がりの折れ線を見ると,生徒たちはやる気になります。

(5) 「なりきり音読」
特定の立場,人物になりきって朗読する活動です。例えば「ニュースキャスター」や「オーソンウェルズ」,また読み伝えの対象を「目上に対して」「子どもに対して」等々,各課の題材などを考慮しながら選定し,活動させます。この活動をすると,各自自分の日本語的発音から脱出する機会が得られ,抑揚のある音読になりやすくなります。

(6) 「音読提出課題」
学期に1回ずつ程度,自分の選んだ課の音読を録音し,提出させる活動です。AETが聴いて,3段階や5段階で,音読奨励のフィードバックをします。生徒は良いものを提出しようと,何度も読み直します。これが,集中力ある音読練習となります。昔はMDを使用しましたが,今はMSNのSky Driveを利用して,朗読を提出用フォルダにアップロードさせる形をとっています。

(7) 定期考査での "Cloze test"の変化形
筆記テストと音読は一見関係がないように思えますが,毎回考査において章単位で本文の空所補充問題を出題し続けます。空所は1語から数語単位で10カ所程度作ります。この問題に対応するためには,何度も本文を読み込む必要があり,試験に敏感な生徒に対しては,音読の支援になります。

5.おわりに

音読が有益であることは,多くの先生方が認めてくださると思います。しかし,間違った音読を繰り返すことは,逆に弊害を生みます。さらに,授業での音読は,自分の読み方,発音が周囲に知られる恐れからか,高校生はなかなか積極的に取り組もうとはしません。しかも,多読の励行や,入試の読解問題の長文化などの環境においては,黙読がどうしても中心となります。

そこで,きちんとした準備のもとに,教師が段階を踏んで学習者に正しい,能動的な音読の機会を提供することが重要となってきます。しかし時々忘れたころに行う活動では上達しませんし,「CDの後について声に出して読みなさい」と指示するだけでは,いつの間にか,黙読と変わらない状況が生じかねません。私は英語クラブ顧問として,生徒たちにスピーチコンテストに数多く応募するように指導していますが,それも,声に出して読む機会を多く提供したいというのが第一の理由です。

「なりきり音読」は谷口幸夫先生(都立戸山高校)のアイデアをいただいたもので,WPMのグラフ化は使用している教科書から学びました。全国の音読にこだわりを持つ先生方の持つ知恵袋からの工夫が共有されれば,音読にこだわる先生の輪は広がります。この拙稿がそのきっかけになれば幸いです。