ホーム > 教師の方へ > 高等学校(理科) > 授業実践記録(物理) > デジタルカメラを使った課題研究

教師の方へ

授業実践記録(物理)

デジタルカメラを使った課題研究

福岡県立小倉高等学校 井上 哲秀

【背景】

本校の力学分野の実験としては,かつては記録タイマーを使った60分の1秒毎の位置の計測が主流であった。この装置を使い,等加速度運動における加速度の計測や,運動量保存の法則の確認実験が行われていた。

平成17年度に,スーパーサイエンスハイスクール(以下SSH)に指定され,ノートパソコンとイージーセンサーを班毎に取り揃えてデジタル計測実験が行われるようになった。しかし,ノートパソコンとイージーセンサーを各班に1台揃えることはかなりの経済的な負担となった。また計測値が直接デジタル化されて数値で表示されることから,考察がやりにくいという欠点もあった。平成22年度にSSHに再指定され,パソコンの老朽化が目立つ中で,ハイスピードデジタルカメラを購入して生徒の実験に活用するようになった。高速デジタルカメラは,1秒間に1000コマの動画撮影ができるが,通常は1秒間に420コマのモードを使う。このカメラを当初1台5万円程度で9台購入して各班毎に使ってきた。さらに,現在スマートフォンが普及して,生徒の半数以上が所有するようになってきた。また,本校では2年前より校内への携帯電話の持ち込みが解禁となった。スマートフォンには動画撮影(1秒間30コマ)の機能が標準装備されており,これを活用することで容易にデジタル計測が可能になった。

【デジタルカメラを使った計測のメリット】

デジタルカメラによる計測には次のようなメリットがある。

  • ① 方眼紙やものさしと共に撮影することで,位置が測定できる。
    カメラ1台で1~2次元,カメラ2台で3次元の記録が可能になる。
  • ② 通常の動画で30分の1秒,高速デジカメでは1000分の1秒毎に記録が可能であり,時刻の計測が容易である。かつてのストロボ写真と同じ働きをする。
  • ③ 2物体以上の運動,2つ以上の測定機器の目盛を同時に記録することが可能である。
  • ④ 実験の考察時に,記録画像を見ることで再現が可能である。
  • ⑤ 実験時にはデジタル画像をまとめて集め,解析はパソコン教室で一斉に行うことが可能であり,1人が1台のパソコンを使って実験結果の処理をすることが可能となる。
    (どこの学校も1クラスの生徒人数分のパソコンは,パソコン教室に整備されている)

【実験1:床でバウンドする物体の反発係数を計測する】

(基礎実験)
h'=eh を使って,反発係数の測定を行う。
ここでは,hを最低3つ以上の値で調べさせる。また,1つの高さでも3回以上の実験を行う。

(基礎実験のポイント)
正確に最初の状態と,後の状態の高さを,どうやって読めばよいのかを考える。
試行錯誤する中で,どうすれば正確に値が測定できるのかを考える。

(応用実験1)
他の条件を変えて実験を行う。
① テニスボールの空気圧。
② ボールの種類を変える。(空気抵抗を受けやすいピンポン玉を含む)
③ 床の資材を変える。

(応用実験2)
各自で変える条件を考えさせてみる。
過去の実施例,「①と③を複合的に考える」「温度と反発係数の関係」など。

(考察)
2つ以上の変数をグラフにして,反発係数がどのように変化するのかを考える。

【実験2:自由落下,水平投射や斜方投射の運動を確認する】

(基礎実験)
鉄球やテニスボールの,空気抵抗を受けにくい物体で実験を行う。
水平方向と鉛直方向で,変位と時間の関係を求める。
水平方向と鉛直方向で,速度と時間の関係を求める。
水平方向と鉛直方向で,加速度と時間の関係を求める。

(応用実験)
空気抵抗があるピンポン玉やバトミントンのシャトルで実験を行う。
速度に比例した抵抗を受けることを考え,エクセルにて運動をシミュレーションする。

【他の授業実験例について】

他にも授業で用いている研究は,非オーム抵抗の電流と電圧の関係を示す特性曲線の作成がある。電源電圧を徐々に変えていき,電流と電圧を同時に動画で記録する。この後にパソコン教室へ移動して,メディアプレーヤーで再生しながらメモリを読んでいく。読んだメモリをエクセルでグラフ表示させる。

また,2物体の衝突における運動量反発係数を求める実験では,1つの動画より衝突前の2物体の速度と衝突後の2物体の速度を読み取ることができる。よって,状況を変えた複数回の実験を容易に行うことができる。

【応用研究でも活躍するデジタルカメラ】

本校では科学部や生物部が本格的な研究活動を行っている。振り子の運動では,約5分間に及ぶ運動を動画で撮影して解析を行ってきた。また,ガウス加速では1秒に満たない時間の中で,複数の物体の運動をハイスピードカメラで撮影して解析した。また,キスゲの花の開花をインターバル撮影することで,開花時期のメカニズムを研究してきた。天文班は冷却CCDカメラをパソコンに接続して,小惑星や変光星を一晩中インターバル撮影して,周期的な光度変化をグラフにして解析を行った。このように,多彩な研究の可能性をデジタルカメラは持っている。